奇妙な住人たち……⑥
「あの……クレイサン、チョットイイデスカ?」
「何だ、台詞が棒読みだぞ?」
「その……今から追いかけるの?」
「ああ、そのつもりだ。考えてみろ、あの山荘でまともに戦えるのは、あの騎士の坊やだけだろう」
「そうだけど」
「仮にも聖騎士だ、それなりの戦闘力はあるだろう。でも、如何せん数が違いすぎる。あの人数相手だと俺だってキツイ」
それでも『負ける』とは言わないところにクレイの自信が見える。
戦場で不利な局面でも生き残ってきたクレイだ、勝てる手立てを持っているのかもしれない。
「それにあの男は危険だ。坊ちゃんの相手には厳しすぎる」
クレイが言う『あの男』とは、きっと例の団長のことだろう。
確かに、あいつは他の奴とは明らかに違う。
正攻法では勝てないような、したたかさが感じられ、エルトヴァイトとの相性は最悪と言っていい。
「それともう一つの危惧は、あのお嬢様だ」
アエル……クレイ達が脅威と感じた少女。
「戦闘力は未知数だが、あの得体の知れない不気味さは予測ができない。奴らが勝手に死ぬのは自業自得だが、いたずらに死人が出るというのも寝覚めが悪いからな」
クレイって口では冷酷さを装うけど、けっこう優しいところがある。
このツンデレ野郎め。
「そういうわけで、双方のためにも山荘に向かおうと思う。確かに依頼契約は終了したが、乗りかかった船だ。最後まで見届けたいと思ってるんだが……」
クレイは言葉を切って、オレとサラの反応を窺う。
「あたしは賛成だよ。事の顛末を知りたいと思うのは文芸家の性だからねぇ」
「リデル……」
クレイがオレを見る。
「クレイ」
「何だ?」
「……温泉は?」
「諦めろ」
うわ~ん、わかってたけど、やっぱりそうなるよね。
村長さんの意向に真っ向から反対するわけだから、そうなるのは仕方ない。
「ごはん……まだだけど」
「諦めろ」
ぐっすし……わかったもん。戦場ではご飯抜きなんて、たくさんあったもん。
「……わかった。行くよ」
「そうか、ありがとう。それなら、片付けたばかりで悪いが、すぐに出られる支度をしてくれ」
オレがほんの少しいじけていると、クレイはオレの頭をぽんぽんと優しく叩いてから、次の指示を出した。
オレ達は装備を整えると、すぐに出発した。
おそらく、戦いは避けられそうにないので、戦闘を前提とした完全装備を整える。そして、それ以外の荷物は置いていくことにして、極力身軽にすることを心がけた。
すでに日は暮れていたが、月が明るく夜道の徒歩での追跡もそれほど難しくはないように感じる。ただ、奴らの動きに気づいたのが遅く、出遅れたのは間違いなかったので、奴らの山荘への襲撃を事前に阻止することは不可能に思えた。
「あのお屋敷、砦並みの設備に見えたから、そう簡単に落ちたりしてないよね」
黙々と先行するクレイに声をかけると、ちょっと振り返って悲観的な予想を口にする。
「無理だろうな。門番も常時、門に詰めている訳でもなさそうだったし、あれだけの人数なら門を突破するのも容易いだろう」
「それじゃ、不味いじゃないか」
「それはそうなんだが、そうは言ってもこんな状況だからな。他に方法が…………リデル、ちょっと待て」
何も言ってないし、顔の様子も見えてないのに、よくわかるな。
クレイは立ち止まってオレをじっと見つめたので、ヒュー達も足を止めた。
「クレイ、リデルがどうかしましたか?」
「いや、こいつがまた馬鹿なこと考えているようなんでね」
クレイが苦々しい口調で話す。
「馬鹿なこと?」
「ううん、違うよ。馬鹿なことじゃなくて、最善策だって」
オレが断言するとクレイは、『やっぱりな』という顔をする。
「最善策……リデル、いけません」
ヒューもすぐに気がついたようでクレイに同調するが、サラとワークは怪訝な顔をしている。
オレは、さも簡単なことのように、あっさり言ってのける。
「オレがひとっ走りして、アエルを助けてくるよ」
クレイは眉をひそめ、ヒューを額に手を当て、サラ達は目を丸くした。
そう……実際の話、オレが本気で走れば馬より早く走れるし、夜道だって苦にならない。オレが単独で先行したら、襲撃の開始に間に合うかもしれなかったのだ。
相手は傭兵団と言っても10人程度だし、団長以外に腕の立つ奴もいないように見えた。
だから、これは最善策の筈だ。
少なくともオレには、そう思えたのだけど、クレイとヒューは表情を険しくしていた。
「リデル、貴女が無敵に近いのは認めます。けれど、慢心は禁物です。いくらなんでも単独行動は危険すぎます」
「お前、自分の立場が本当にわかっているのか? そんなもん、認められる訳ないだろう」
「そうだとも、君が単騎で行ってしまったら、あたしが肝心な場面を見逃してしまうじゃないか」
オレの企図をやっと理解したサラも、サラ流に反対の意思を示した。ワークもサラの後ろで主人と同様に頷いている。
あちゃ―、全員から反対されるとは思っていなかったな。
「いいか、リデル。今回の件は単なる道草に過ぎないんだぞ。お前が、わざわざ危険な目に遭う必要がどこにあるんだ? 冷たい言い方だが、俺はお前さえ無事なら他のことはどうでもいいんだ」
は、恥ずかしい台詞を真顔で言うなよ。
こっちが恥ずかしくなるし、サラがニヤニヤしながら見てるぞ。
「私はクレイほどシビアではありませんが、概ね同意です。アエル嬢を助けたいのは、やまやまですが……果たして彼女に助力が必要か甚だ疑問に思います。村長の息子さん達程度なら、自力で撃退するかもしれませんよ」
クレイとヒューの根底には、『アエルが本当は強い』という意識があるように思えた。
だが、オレの直感はアエルの危機を訴えている。
今、行かないと間に合わない。
そんな焦りに身を焦がす。
「仕方ない……最終手段だ」
オレは決断した。
「リデル?」
オレが決意した顔になったので、クレイが訝しげな顔をする。
「本当は二人とも連れて行きたいけど、ヒュ……キースは装備が重いからパスだ。だからクレイ、お前を連れて行くことにする」
「そりゃ、どういう……?」
「オレの単独先行が駄目なんだろう。だから、お前を背負って一緒に行くんだ……ほら、早くしろよ」
「…………」
オレがクレイに背中を見せると、奴はたっぷり数秒は言葉を失って、オレの小さな背中を見つめた。
11月に入り、リアルの忙しさが日を追うごとに増してきました。
来週は特に忙しいため、更新をお休みする可能性があります。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。
今回のエピソードも、いよいよ後半戦です。
うん、カンディア編に比べたら、ずっと短い!
まさしく、作者の予定通り……(あれ、なんか空しさが……)
早くアリスリーゼに着きたいなぁ(>_<)




