奇妙な住人たち……④
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「つまり、あんた達は話を聞いただけで、何もせずに、おめおめと帰ってきたという訳ですな」
村長は、心底失望したような顔でオレ達を睨みつけた。
「ちゃんと、こちらの言い分は伝えてきました。ただ、向こうの言い分にも一理あったんで、話し合いを継続すべく依頼主のところへ確認に戻ってきたんですよ」
クレイがしれっとした表情で言い訳すると村長の顔がさらに渋くなる。
「こ、子供の使いではないのだ。それくらい判断して依頼を完遂するのが普通ではないか!」
「あいにく、俺達は普通じゃないもんでしてね」
うん、確かに普通じゃないな、このパーティー。
皇女様に名高い騎士、陰の一族の跡継ぎ、謎の文芸家(とその護衛)。口に出すのも恥ずかしいくらい『普通でない』パーティーだ。
けど、クレイの言葉を自分への侮蔑と捉えた村長は怒りを露にする。
「わしを田舎者の村長と侮って愚弄するつもりか!」
「そんなつもりは毛頭ありませんよ。ただ、両者の言い分を客観的に分析すると強制退去はどう考えても理不尽な要求に思えましてね」
「理不尽だろうが何だろうが、依頼は依頼だ。ちゃんと依頼内容をこなすのが傭兵の務めではないか」
「ごもっとも。ですが、村長……そのために最初から『相手が魔物じゃなかったら退治はできない。退去についても双方の言い分を聞き、話し合いで解決する』と取り決めしたではないですか」
「そ、それは……」
自分の言ったことを思い出し、村長は口を濁す。
それを見てクレイは、ここぞとばかりにとどめの一撃を放つ。
「もちろん、報酬は辞退しますよ。失敗とは言えないが、依頼主の要望に答えることができなかったのは事実ですからね」
「え?」
村長が本気で言っているのかという顔をする。
「本気です。ただ、俺達も貴重な時間を割いて依頼をこなしたんで、せめて温泉に入らせてもらえると助かるんですが……何しろ何日も旅を続けているから身体を綺麗にしたいんでね」
「頼むますよ」と念を押すクレイに「そのくらいは仕方ありませんな」と村長が渋々譲歩する。
やった、温泉だ! さすがクレイ、口説きの帝王と呼ばれていただけのことはある。
お、睨まれた……何でオレの考えが読めるんだ?
こうして、オレ達は本来の目的である『温泉に入って羽を伸ばす』を何とか達成できそうだった。
それにしても、あの村長がやけに簡単に引き下がると思ったら、理由はすぐにわかった。オレ達と村長が話している応接間に見覚えのない男が突然入ってきたのだ。
「これ、ガロムク。まだ話の途中だ。勝手に入って来るでない」
「いいじゃねえか、親父。俺も『この世のものとは思えないほど美しい女』ってやつを見てみたかったんだ」
大柄でいかにも粗暴そうな男で、顔付きは村長に少し似ている。
たぶん、出稼ぎに出ていた息子なのだろう。けど、どう見ても真っ当な職業の人間には見えなかった。
「へぇ……親父の言うことだから話半分に聞いていたが、こいつは話に聞いた以上だな」
ジロムク村長の息子のガロムクはオレを、じろじろ見て好色そうに目を細める。
「すみません、これは息子のガロムクと言いましてな。カンディアで傭兵の真似事をやっている次第で……」
「よせやい親父。こう見えてもカンディアでは、そこそこ名前が売れてんだぜ」
偉そうに言うけど、武闘大会にも出てなかったし、街で噂されているようでもなかったから、それほど名が売れているわけではなさそうだ。
「ん……あんた、どこかで見たような?」
ガロムクはオレ達を見渡してクレイのところで視線を止める。
武闘大会でオレは仮面を付け、ヒューは銀竜の被り物をしていたので、面が割れていないが、クレイは素顔をさらしていたので、記憶に引っかかったらしい。
でも、すぐに思い出せなかったらしく、気にせずに父親へと視線を戻す。
「しっかし、久しぶりに里帰りしようとしたら、偶然に村の者と出くわしてよ。急いでる理由を聞くと、カンディアに傭兵を頼むと言うじゃねえか。まさに天命って感じだよな」
「わしも出費を抑えられて大助かりだ」
「てな訳で、あんたらはお払い箱ってことさ。悪かったな、横取りして。でも、あんたさえ良ければ……」
オレをニヤニヤ見ながらガロムクは言う。
「組んだっていいんだぜ」
「残念だが、お断りする。たった今、村長とは契約終了の話をしたばかりなのだ」
横合いからクレイがオレの前に出て、ガロムクの視線を遮る。
「なんだ、てめえ!」
「こいつの保護者だ。用があるなら俺を通してくれ」
にこにこと笑って答えているが目だけ笑ってない。
ちょっと怖いです、クレイさん。
「ああん? お前、やるってんなら表へ出やがれ。吠え面かかせてやるからな。女の前だからってかっこつけてんじゃねぇぞ」
うわぁ、雑魚キャラ感が満載だ。
大体、殺気を抑えて黙り込むクレイを、ビビッて声が出せないと勘違いする程度じゃ、たかが知れている。オレ関連だと歯止めが利かないクレイのことだ、このままだと半殺しにしかねない。
おい、ヒュー、あんたからも……おい、何ニコニコしてるんだよ。あんた、止める気まったく無いだろ。
「止さんか、ガロムク。暴れるのも大概にしろ。あんたも、余計なことを口にせんことだ」
一触即発のところを、何とか村長が割って入る。
命拾いしたな、息子くん。
眠い……ひたすら眠いですw
体調は回復しましたが、なんだか疲れやすい気がします。
…………ぐー。
おっと、気を抜くと眠っちゃうぜ。
しばらくは、早寝しようと思います。
PS.ダイエットは横ばい状態です(^_^.)




