いざ、山荘……②
◇
「おいおい、こいつは……」
思わず、クレイが目を丸くしている。
猟師のおじさんの案内でオレ達は目的地である山荘に辿り着いていた。山荘と聞いていたので、もっと小ぢんまりとした建物をイメージしていたけど、実際は違った。
周囲を塀で囲まれた立派な邸宅だったのだ。いや、場所が場所だけに、どちらかというと砦として使用されていたのではないかと思われるほどの造りをしていた。
さらに、男爵亡き後に廃墟と化していたとの村長の話であったが、全くそんな様子は見えず、建物や庭も全体的に古ぼけてはいたが、しっかり手入れされているように見えた。
クレイの最初の発言はそれによるもので、村長が主張する廃墟の片隅に勝手に棲みついているという表現が正しくないことは容易に知れた。
「これは、ちょっと話が違ってきたな」
「ええ、迂闊に村長の言い分を信じるのは止めた方が良いようですね」
「しっ、クレイ、キース。誰かこっちに来るよ」
オレ達が閉じられた門の前に集まって話をしていると、下男らしき初老の男が門の向こう側に現れた。
下男は訝しげにオレ達を見回したが、その中に見知った者がいるのを発見して、問いかけてくる。
「テセトさん(猟師のおじさんの名前らしい)、この方たちはいったい……?」
「急にすまんのぅ。この人らは、村長さんに頼まれて、あんたの主人に会いに来たんだと」
頭をかきながら、おじさんはオレ達の来訪の目的を告げる。
「村長の?」
その単語に下男の顔が険しくなったので、交渉の難しさを予感する。
「突然の話で申し訳ないです。俺はクレイと申します。村長に依頼されて、こちらと村との行き違いを改善したいと思い、やって参りました。ぜひとも、ご主人に取り次いでいただけないでしょうか」
クレイが丁寧に頭を下げると、誠意が通じたのか心なしか相手の表情が少し和らぐ。
「わかりました。一応、主人に取り次いで参りますので、今しばらく、ここでお待ちを……」
「その必要は無い」
下男が取次ぎのため門から離れようとした時、彼の後ろに現れた騎士然とした男が、いきなり問答無用で却下した。
どうやら、この男が村長の言っていた騎士風の青年らしい。
しかし、それにしても……何というか。ま、丸い……。
オレの第一印象はそれだった。
騎士風と聞いていたので、勝手に頭の中でヒューのような爽やかな細面の美青年をイメージしていたけど、全く違った。
とにかく丸いのだ。身長が高くない上に、鍛えている身体に横幅があるため余計に丸く見えた。顔も円らな瞳で整った顔立ちなのに肉付きが良いせいで、まん丸顔に映る。
身体の動きから見て、決して鈍重には思えなかったが、受ける印象は……ちょっとオレの口からは言えない。
「これは、エルトヴァイト様。お言葉ですが、アエル様に確認を取らねば結論は出せません」
「ラスバル君、君が職務に忠実なことはよく知っているが、いたずらに主人を煩わせることが忠義だと私は思えないんだがね」
「ですが……」
「お取り込み中のところ申し訳ないんだが、話しても構わないか?」
言い争いを始めた屋敷の住人達にクレイが割って入る。
「村長の手先と話す言葉など持ち合わせてはおらぬ」
甲高い声で一方的に話す頑なな態度から、思ったより若いのかもしれないと思った。
「まあまあ、騎士さま。そんなに邪険にしなくても良いでしょう。あ、俺はクレイ。しがない傭兵稼業をしてまして、今回村長の依頼を受けてこちらに参りました。で、こっちはリデルとキース……」
「貴公はもしかして騎士なのか?」
クレイがオレ達を紹介しようとすると、太っちょ騎士様はいきなりヒューに食いつく。
確かに今日のヒューは戦闘モードのため、いつもの銀の甲冑姿だったので、どこから見ても騎士にしか見えなかった。
「私は……」
ヒューが言いよどむ。
いつもならキースという騎士を目指す傭兵を演じるところだが、同じ騎士から問われて嘘をつくことが憚られたようだ。
そして、こういう時にタイミングを外さないのはサラの才能だろうか?
「キースは『白銀の騎士ヒュー・ルーウィック』に憧れて、彼のような騎士を目指している傭兵なんだよ」
「ヒュー・ルーウィック殿のような騎士を目指しているだと……」
エルトヴァイトの顔色が変わった。
「貴様、何てことを! 『白銀の騎士』殿は、類まれな剣技に高い教養と知性を併せ持つ、まさしく『騎士の中の騎士』であり、我々騎士道を志す者にとって究極の目標なのだ。傭兵ごときの貴様が目指すなどと軽々しく口に出していい御方ではないのだぞ」
顔を真っ赤にして力説しているけど、当の本人は何とも言えない顔をしているよ。
「あの……エルトヴァイトさんはその『白銀の騎士』様にお会いになったことは?」
オレが恐る恐る尋ねると、エルトヴァルトは自信満々に答える。
「まだ無い!……が、いずれどこかで必ずお会いすることになるだろう。だが、その時は一目でヒュー殿を見分ける自信がある!」
いやいや、見抜けてないから。
オレが残念そうに彼を見ていると サラがもの凄く嬉しそうにこちらを見ているのに気づく。
ああ、そうか。あの人、この手のシチュエーションって大好物だったけ。
まっすぐで青臭い正義や忠義を振りかざす青年が、世の中を斜に構える凄腕の傭兵と理知的で気高い孤高の騎士(風)に遊ばれている場面……その手のお芝居でよく見られる光景だ。
サラのことだから、絶対あらぬ妄想を思い描いているに違いない。おかげで、あの面倒なサラがさっきから黙っていてくれて、大いに助かっている。
仕方ない、話を進めるにはオレが出るしかないか。
また一段と濃いキャラが登場しました。
態度はアレですが、ちょっと楽しくなってきてます。
今後の活躍に期待したいですね。
連休明けのせいか、今日何だかとても眠い一日でした。
たぶん、生活のリズムがおかしかったせいでしょうか。
気温も上がって秋と思えない日でもありましたね。
週末・来週は雨という話で、今からげんなりしています。




