新しい自分を見つけませんか?②
気を取り直してバックパックから新しい下着を出し着替える。
皮よろいをつけてみるが、確かにサイズが合わなくて着れそうにない。
諦めて外していると、のされた格好のままのクレイがのんびりと質問してきた。
「なあ、リデル。で、これからどうするんだ?」
オレは奴をギロリと睨むと冷たく言った。
「もう一度、聖石を見つけて、男に戻る!」
「そか……ま、付き合うよ」
いったい誰のせいだと思ってるんだ!
と思わないでもなかったけど、口には出さなかった。
あれ? ふと、疑問が頭に浮かぶ。
「クレイ、何であの時お前、『美少女!』だなんて叫んだんだ?」
「…………」
「そういや、お前のホントの願いって聞いたことないな」
今まで、さんざんオレの願いについて馬鹿にしてきたコイツ自身の願い……そう言えば聞いたことが無かったっけ。
まさか……本当に美少女好きの○リコンなのか?
「お前がどんなに変態でも、オレはお前の友達だから……」
オレの生暖かい視線に、クレイが慌てて否定する。
「ちが――う! 俺はノーマルでストレートなだけだ。誤解するな」
クレイは立ち上がると、オレに近づく。
「え、だって……」
「話を聞け!考えてもみろ。俺もそろそろいい年だ、彼女の一人ぐらい、いたっておかしくないだろ?」
「そりゃまあ、そうだけど……」
でも、引く手あまたなのを断ってんのは自分じゃん。
「だからな……俺の願いは……」
「うん?」
「お前みたいな彼女が欲しかったんだ……」
!?
ええええええええっ!それって告白ですか? B○ですか? 殴っていいですか?
「落ち着け! 短絡するな。お前を彼女にしたかった訳じゃない。予定では、あくまで『みたいな彼女』だったんだ」
オレの頭は熱暴走した。
何を言われたのか全く理解できなかった。
クレイは頭を掻きながら続ける。
「でも、聖石の叶える願いは一つだけだっただろ。だから、お前は『世界最強』を、俺は『彼女』を願ったって訳さ」
「待て待て待て待て! 何故そこでオレを美少女にするって発想になるんだよ」
「そりゃあ…………面白いからに決まってるだろ」
オレは脱力した。心の底から立ち直れないぐらい脱力した。
「な、そういう訳だ。俺と付き合うか?」
「……死んでも拒否する!!」
しばらくコイツとは絶対に口をきかないって心に決めた。
けど、残念ながらオレの決心はそう長く続かなかった。
遺跡から脱出する道程で、先に立って歩き、指示を出すクレイを無視することは不可能だった。
それに奴の指示は悔しいくらい的確で安心できるものだ。
「前の床、気をつけろ……窪みがある。足をとられるなよ」
「……」
「ちょっと止まれ……部屋の向こうで変な音がする。様子を見てくるからここで待ってろ」
「……」
いつも通りのクレイにだんだん申し訳なくなって……。
「クレイ!この扉、他のと色が違う。おかしくないか?」
「お、そうだな。よく気がついたな、えらいぞ」
「ま、まあな……」
褒められると、なんとなく気恥ずかしい。
結局、すぐに奇跡の前と変わらないコンビネーションに戻った。
考えてみれば、奴はオレの理想とする『男惚れする男』(違う意味では断じて無い!)に年齢が足りないだけで、限りなく近かった。
傭兵稼業をしていても、クレイが専属私兵や正規兵に誘われることは一度や二度ではなかった。
その度に、「俺は今のままの方がいい」とばかりに断って……全くどうかしている。
やっぱり、クレイと一緒に仕事を続けているのは、奴が男として尊敬できるからなんだと思う。
オレが女だったら、彼氏にするならクレイぐらいか……なんて冗談で言ってたけど……今の状況じゃ、洒落にならん。
い、いかん。変なこと考えたら、顔が赤くなってきた。
「大丈夫か? 顔が赤いぞ、熱でもあるのか」
振り返ったクレイの大きな手がオレのおでこを触る。
「さ、触るな! 馬鹿」
慌てて振り払って離れる。
耳まで赤くなる。
「ん?」
クレイは一瞬、不思議そうな顔をしたけど、不意に話題を変えた。
「ま、いいか……。ところでリデル、具体的にはこれからどうするんだ?」
「ああ、それか。予定通り『ルマ』の武闘大会に出る」
「え、そのなりでか?」
「出ちゃ悪いか」
「悪くはないが……」
う~んと唸り、クレイは腕を組む。
「当初の目的もそれだったし、公都に行けば聖石の情報も入るだろう?」
「そりゃ、そうなんだが……」
「何か問題があるか?」
…………にやり。
クレイが突然、目を細めた。
「OK! わかった、当初の予定通りでいこう」
ん、何かよからぬことを企んだような気がする……。