祭りは終わらず……②
◇
そんなオレの予想に反して、決勝まで何事も起こらなかった。
正直、拍子抜けしたのは否めないが、決勝戦に気持ちを入れ替えることにする。
ちなみに、ドゴスは順調に回復し、神殿から『桃色の口付け亭』に戻って療養を続けており、直に復帰できる見込みだ。
ガイウスは、さほど有益な情報も持っていなかったので、追い出すことにした。裏切ったからと言って命を取るわけにはいかないので出て行ってもらったのだ。
えっ、復讐とか危なくないかって?
ソフィアが監視を付けているので法に違反したら、現行犯で捕まえて治安当局に引き渡す予定だ。
ちなみに出て行ったその足でロスラム傭兵団に出向いたが、門前払いを食らわされて激昂したそうだ。仕方なく、知り合いの傭兵団に自分を売り込みに行ったが、どこにも相手にされず、意気消沈して酒場で呑んだくれている状況と聞いた。
元々、日頃からプライドの高い奴だったから、傭兵仲間から嫌われていたのだろう。もしかしたら、ネフィリカのためにアルサノークに残っていなかったら、どこにも引き取ってもらえなかったかもしれない。
そこそこ腕があるのに可哀相な奴だ。
まあ、ガイウスのことは、どうでもいい。それより、決勝戦のことだ。
相手は、ルビシール傭兵団と言い、名のある傭兵を何人も擁した実力派の傭兵団らしい。
そして、ステージは『ティケ沖海戦』を模したものと発表された。
『ティケ沖海戦』は帝国とエンドランド連合王国との間で行われた海戦で、帝国の大勝利に終わった海戦のことだ(エントランド側は引き分けと主張している)。
闘技場には大きなガレー船を模した工作物が何艘も作られ、そこを足場に試合が行われると説明を聞いた。しかも、闘技場の地面は海面と目され、船から落ち地面に体を付けたら、その時点で失格となるルールらしい。
なるほど、これならいかに馬鹿力のオレでも海に落とされれば負けになるので、勝負の行方はわからないというわけだ。
運営もなかなか考えている……いや、苦肉の策だろうか?
決勝戦の控えの間で、オレが装備の確認をしていると、クレイが話しかけてくる。
「そう言えば、リデル。面白い噂を聞いたぞ」
「ああ、あれだろ。オレ達がグビル団長と通じてるって話だろう」
「そうそう、それに追加の噂が増えているんだ」
「追加の噂?」
「ずばり、『白き戦姫』の正体についてさ」
えっ、まさかオレだってバレたのか?
ルマでは、ずいぶん目立ってたからなぁ。
オレが渋い顔をしていると、クレイはニヤリと笑って言った。
「なんと、その正体はグビル団長の娘の『オーリエ』だと、もっぱらの噂なのさ」
「オーリエ?」
確かにオーリエの剣の腕はかなりのものだが、あくまで女性のそれだ。屈強で強かな傭兵達の相手は務まらないだろう。
「いくら、オーリエが女性離れした技量でも、苦しくないか?」
「まあな、お前は女性離れどころか人間離れしてるからな」
失礼な! 心優しい乙女に何て言い草だ。
オレが無言でクレイを優しく撫でてやろうと画策していると、ヒューが疑問の声を上げる。
「それにしてもロスラムの考えが読めませんね。いったい、何を企んでいるのでしょう」
ヒューの疑問も、もっともだと思う。
「あちこちで集って騒ぎを起こしている傭兵崩れ達が関係しているかもしれんな」
クレイが思案顔で答える。
「傭兵崩れ達が騒ぎを起こしてるって、どういうこと?」
「今の帝国や伯爵のやり方に不平不満を募らせているのさ。生活が苦しくなってきたのを誰かのせいにしたいんだ。勝ち組のグビル団長は、彼らにとって、さしづめ裏切り者にも等しい存在だろうな」
「何か、このまま優勝すると問題が起きそうだなぁ」
「あの……リデルさん」
ネフィリカがおずおずと声を掛けてくる。
「決勝戦が始まるって言うのに、よくそんなに普通に話せますね」
「え? そうかな。どこか変?」
「……いえ、何でもありません。聞いた私が馬鹿でした」
ネフィリカがため息をつくと同時に、最後の試合の開始が告げられた。
闘技場に入ると、そこはすでに船の上だった。
少し顔を上げると、いつもより観客席がずっと近くに見える。
何しろ、組み立てられたガレー船は本物に比べたら安普請で中身は張りぼてだったけど、高さだけはそれなりにあり、甲板の下に船室や船倉もどきも作られていた。さらに、酒樽や砂袋等が船のいたるところに転がっていて、たださえ悪い足場をさらに悪くしている。
オレ達がいるのは西の端にある西軍の旗艦を模した船で、相手方は同様に東の端にある東軍の旗艦にいるようだ。
両船の間には何艘かの船が入り組んだ形で設置されていて、そこが今回の戦いの舞台となる予定だ。
また、決勝戦で特筆すべき点は、戦闘結果を判定してくれる魔道具を全員が装備していることだ。
これは、手に持っている剣形の魔道具で防ぎ手の付けている魔道具へ当てると即座に打撃結果を離れた場所にいる運営側に教えてくれる優れもので、大変高価な代物と聞いた。
なので、決勝戦にしか使用させてもらえないらしいが、審判が不要となり、より実戦に近い臨場感を観客が味わえるのだそうだ。
「じゃあ、クレイ。ちょっと行ってくるか」
「ああ、お前こそ、うっかりして船から落っこちるなよ」
「そんなヘマなんかするもんか」
オレとクレイは軽口を叩きながら、ゆっくりと前進する。
実際のところ、今回のステージはオレ達にとって、あまり分の良い試合とは言えなかった。
と言うのも、ネフィリカは言うに及ばず、怪我人のユールも守りに徹するしかなく、その上被り物のヒューも船上では視界と足場が悪いため、ネフィリカ達の護衛に回るしかなかったからだ。そのため、実質的に相手へ攻勢に出られるのはクレイとオレの二人だけになってしまった。
まあ、規格外の二人がいれば、何とかなると思うけど。
やっぱり、実家は最高だぜ!
こほん、血迷ってすみません。
夏祭りのため、実家に戻ってます。
楽でいいなぁ。
でも、毎日これだと堕落しそうw
祭りの焼きそばって、あんまり美味しくなのに何故買ってしまうのだろう?
いつも残ってしまい後悔します(-_-;)




