深夜の凱旋……③
「そんなに熱くなるなって。少し落ち着けよ、ガイウス。オレは本当のことを知りたいだけなんだ。だから、あと一つだけ質問してもいいかな」
「もう、お前と話すことなんてない。茶番に付き合うのは、うんざりだ!」
「ガイウス!」
ガイウスが断固、拒否しようとするがネフィリカが怖い顔で嗜める。
「貴方の言い分もわかります。でも、まずはリデルさんのお話を聞きましょう」
ネフィリカの言葉にガイウスは渋々頷くと、無言でオレを睨んだ。
一応、話し合いは続けてくれるらしい。
「じゃあ、お言葉に甘えて聞くけど、さっき一階で君は、帰ってきたオレ達になんと声をかけたか覚えている?」
「いや、忘れてしまったが、たいしたことは言ってないはずだが」
怪訝な顔をするガイウスにオレは大きく首を横に振った。
「それがそうでもないんだ……君はね、こう言ったんだ、『よく無事に逃げて来られましたね』って。いいかい、『よく無事に帰って来られましたね』じゃなくて『逃げて』と言ったんだ」
「そ、それがどう違うって言うんだ?」
「それはね……確かにオレ達は一旦ロスラムに捕まって、そこから逃げて来たのは事実だ。でも、この宿屋に居てドゴスに会いに行ったことしか知らない君がどうして『無事に逃げられた』という表現を使ったんだ? オレ達が奴らに捕まっていたことを知っていたから口に出た台詞なんじゃないのか。それじゃあ、何で君はその事実を知りえたんだ? 質問に答えてくれ」
オレの問いかけに、ガイウスが口を閉ざして蒼白になり、その場が静まり返った。
「どうしたガイウス、答えてくれないのか?」
「そ……」
「そ?」
搾り出すようにガイウスは言い放った。
「……そ、そんなこと、たいした問題じゃないじゃないか! ただの言い間違いに目くじらを立てて、鬼の首でも取ったような言い方をするほうがおかしいだろ」
開き直ったな。
このまま、言い間違いで押し通すつもりのようだ。
けど、場の雰囲気はガイウスを黒ではないかと疑っていた。
「俺も一つ発言をしていいかな」
扉の前に立っていたクレイが不意に口を開いた。
「ああ、オレはかまわないぜ」
「何を言うつもりか知らないが、身に覚えがないことを言われても僕は答えたりしないぞ」
オレが了承すると、ガイウスは新たな敵が出てきたと警戒する。
「ガイウス、確かあんたは不審な人物を警戒するために、階下の酒場で見張ってた言ったよな?」
「そのとおりだ」
ガイウスは胸を張って答える。
「では聞くが、俺達が出て行ったすぐ後と、俺達が帰ってくる少し前の都合二回、話し込んでいた相手がいたそうだが、そいつはいったい何者だ」
「だ、誰に聞いたんだ、そんな嘘を……」
「酒場の主人にだ。他に見ている者もたくさんいるぞ」
さっきの店の者に用事って、それを確認してたんだ。クレイ関連の店だから、情報は確実のはずだ。
って言うことはクレイの奴、最初からガイウスのこと疑っていたんだ。
でも、これでオレ達がドゴスに会いに行ったことがロスラム側に伝わっていたことや、ガイウスがオレ達の捕まっていたことを知っていたことの辻褄が合う。
「ただの知人だ。偶然、訪ねてきただけで、何も疚しい点はない。友達と酒を飲んだだけで疑われるとは言いがかりにも程がある」
ガイウスは逆に非難の目付きでクレイを睨んだ。
「目撃者の証言では、その知人はロスラム傭兵団によく出入りしている予想屋に似ているとの話だが」
「それこそ似ているだけで疑われたら、僕が何を言っても無駄だろう。仮に出入りしてたしても僕には関係ない」
「本当にそうかな?」
「くどい奴だな。そんなに言うなら本人に確かめればいいだろう」
出来るならやってみろと言わんばかりの口調でガイウスが答える。
「そうかい……」
その返答に対してニヤリと笑って、扉の前から横に移動する。
「じゃ、本人に聞いてみよう」
いきなり、扉が開いて猿轡に両腕を縛られた男がどさりと倒れこんできた。
「なっ……」
ガイウスは目を見開き、絶句する。
「悪いのですが、ガイウスさん。お友達は全て話されましたよ」
男を部屋に叩き込んだ張本人であるソフィアが、冷たい微笑を浮かべて入り口に佇んでいた。
「ソフィア、ありがとう」
「いえ、クレイ様。私ではなく、他の者達の手柄です。宿から出たところで捕縛し尋問を行いました」
「そうか、あとで礼を尽くそう」
「はい、彼らも励みとなるでしょう」
クレイは、縛られた男を再び立ち上がらせ、引っ立てていくソフィアに向かって笑みを送った後、茫然自失のガイウスに目を向ける。
「と、言うわけなんだ。何か申し開きすることがあるか?」
「…………」
「ガイウス……」
押し黙るガイウスに、ネフィリカが怒りより悲しみを感じる口調で声をかけた。
「どうして……こんなことを」
「…………くくっ」
「ガイウス?」
「……くははは……」
突然、狂ったように笑い出すガイウス。
静まり返った部屋の中にガイウスの哄笑だけが響く。
「おい、ガイウス! 何がおかしいんだ」
オレが声を荒げると、ガイウスは笑いながら答える。
「これが笑わずにいられるか。どの道、お前達は終わりなんだからな」
「終わりだって?」
「そうさ。もう終わりなのさ」
「どういう意味だ」
「どうもこうもない。確かに僕はお察しのとおりロスラムと手を組んでいる。身元がバレた今となっては隠し立てする気はさらさらない」
あらら、完全に破れかぶれになってる。
「ネフィリカ、僕は明日の試合棄権するつもりだ。それが、どういうことかわかるだろう?」
とうとう、ガイウスは奥の手を出した。
彼が参加しなければ、最低人数を満たせないアルサノーク傭兵団は失格になる。
そして、それによってロスラム傭兵団は不戦勝となり、決勝へと進む。
それは、彼の言うようにアルサノークにとって終わりに等しい事態になる。
週末に久しぶりに学生時代の友人と会っておしゃべりしました。
懐かしかったと同時に、仕事の忙しい中、サークル活動や執筆に頑張っている友人に感化されました。
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