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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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真夜中の対決……③

「な、何をするつもりだ!」


「ち、近づくんじゃない!」


 再び、鉄格子に近づいたオレに、見張り達は口々に警告を発するが、先ほどの棒取りの一件で懲りたのか、遠巻きにして見ているだけだった。

 それを尻目にオレはテリオネシスの剣を両手で握り、体を右に捻って後方から前方へと水平方向に剣を振るい、遠心力を利用して剣の平を鉄格子へ叩きつけた。


 えっ、鉄格子を剣で叩き切ると思ったって?


 確かにテリオネシスの剣は、分厚い金属鎧さえ両断できるほどの切れ味だから、そのぐらい可能かもしれないけど、あまり無理はさせたくなかった。

 まあ、実際のところ、刃こぼれ一つしない謎金属なんだけどね。


 それよりも、さっき扉をくぐった時、ここの鉄格子が長い間使われていなかったせいか、錆で腐食していることに気づいたのだ。

 なので、オレの渾身の一振りは地下牢の鉄格子を文字通り粉砕した。


 唯一の誤算は、粉々に崩れた鉄格子の破片が床に散らばって、積もっていた埃と砕けた赤錆が混じって、もうもうと部屋に舞い上がったことだ。


「ごほ、ごほ。な、何が起きたんだ?」


「埃で何も見えないぞ!」


 見張りたちは右往左往しているが、オレ自身も視界が遮られ、同様に動けないでいた。というか、目と鼻を押さえ、口を閉じて粉塵から身を守るのに必死な状態だったのだ。

 けど、灯りに引火したりして粉塵爆発とかにならなくて本当に良かったと真剣に思う。


「リ、リデル。もうちょっと考えて行動しろ」


「お前だって、やれって言ったじゃないか!」


 お互いに罪を擦り付けている間に粉塵は徐々に収まり、次第に視界が晴れていった。


「どうにか落ち着いてきたみたい」


 オレが目を凝らし、そう呟いていると、後ろから駆け抜けていく足音が耳に入る。粉塵で、はっきり見えないがシルエットからソフィアだとわかる。

 そのまま前方へと駆け去り、しばらくすると「うぐっ」とか「ぐあっ」とかいう呻き声があちこちで聞こえてきた。

 そうこうしている内に、ようやく視界が落ち着き、壊れている鉄格子の外に目を向ければ、鼻と口を長い布で巻いて防護したソフィアが六人の見張りをことごとく無力化して佇んでいた。


 この手の類の戦闘は、やはりソフィアの独壇場と言えた。


「お疲れ、ソフィア」


「いえ、リデル様に起こしていただいた粉塵のおかげで、不意を付いて倒せただけですから」


 オレが労いの言葉をかけるとソフィアは、すぐさま謙遜するが、あれだけで六人を一瞬で戦闘不能する理由にはならないと思うよ。



「な、何者なんです、彼女は?」


「迂闊な質問は、しない方が身のためだよ、ユール君」


 オレの後ろで埃に咳き込みながら驚いているユールに、同様な驚きの洗礼を先に受けていたドゴスがしたり顔で説いている。


 それより、鉄格子をぶち壊すという盛大な破壊音を発生させたにも関わらず、新手な援軍が地下へと降りてくる気配はまったくないのが不思議だった。


 牢に閉じ込めたことで安心しきっているのだろうか?

 いや、この状況で放置とかありえない。それとも、また別の罠でも用意して待ち構えているのだろうか?


 オレ達はおそるおそる階段を上がってみたが、見張りらしき者の姿は見当たらない。どうやら、本当にロスラムは護衛を率いてこの場所から、すでに立ち去っているようだ。

 そのため、屋敷にいるのはロスラムの愛人を守る護衛と使用人ぐらいで、オレ達に対抗できるようなまともな戦力は残っていないのだろう。


 とは言え、オレ達もこれ以上の刃傷沙汰は避けたかったので、ユールの身柄をドゴスとクレイに任せ、ソフィアとオレを先頭にロスラムの別宅からの脱出を図ることにしたのだ。



◇◆◇◆◇



「なんとか無事逃げ出せたようだな」


 クレイの呟きにオレもほっとして力を抜いた。


 オレ達は、あの後さしたる抵抗もなくロスラムの別宅から脱出できた。少しばかり拍子抜けしたが、無事に逃げられたのだから良しとしよう。


「ここで、しばらくお待ちください。馬車を回してきます」


 ユールを助け出した場合に備えて、用意周到にも馬車の手配までしていたというソフィアには脱帽するしかない。

 オレ達を人目のつかない路地に潜ませてソフィアは馬車を呼びに出て行った。


 それを見送りながら、オレはクレイに小声で尋ねる。


「なあ、クレイ。ソフィアって、いつもあんな調子だけど疲れないのかな?」


「さあ、どうだろう。大変だとは思うが、好きでやってるらしいから疲れを感じてるかどうかは、わからんな」


「そうなんだ……シンシアもそうだったけど、なんかあの姉妹って無理しすぎなんじゃないかなぁ」


「そうかもしれないが、言って聞きそうにもないだろう」


 クレイは、そう言いながら肩を貸していたユールをゆっくりと座らせる。


 まあ、確かにクレイの言うとおりか。

 嬉々としてやってる感じもするから、一方的に無理するなとは言えないか……。


 でも、シンシアか。今頃、何しているかな。


『リデル様! また無茶しましたね。何度言ったらわかるんですか!』


 一瞬、手を腰に当てて鬼の形相のシンシアの顔が浮かぶ。


 うん、きっとまた怒ってるに違いない。元気でいてくれると良いのだけど……。

 何だか急に寂しくなって、夜の薄ら寒さを肌に感じ身震いした。




「それはそうとドゴス、あんたこれから、どうするつもりなんだ。ロスラム傭兵団には、もう戻れないだろう?」


「うむ、確かにそうだな……団長のあの様子では殺されかねん」


 待っている間にクレイがドゴスに今後の身の振り方を確認する。


「少なくともカンディアからは離れた方が身のためだと思うぞ……ところでドゴス、あんた、家族はいるのか?」


「私か……あいにく独り者でね。身軽なものだよ」


 うん、なんとなく、そんな気はしてた。


「それなら、家財を売って他の場所でやり直すのが賢明な選択かもしれない」 


「残念だが、それしかないかもしれんな。そのために気は進まないが、リザを頼ろうと思っている」


「リザ?」


 ドゴスから、よもや女性の名前が出ると思わなかったので、つい言葉を挟んでしまう。


「ああ、リザ・グレック。グレゴリ傭兵団の内務担当でグビル団長の奥方だ」


 団長の奥さんって、あの色っぽいオバサ……お姉さんでオーリエのお母さんだよね。


「知り合いなの?」


「うむ、団同士の打ち合わせで、よく顔を合わせるのでね。個人的にも親しくさせてもらってる」


 ドゴスとグビル団長の奥さんという組み合わせは、ちょっと意外な感じもするけど、渉外的な業務も担っているというリザさんの顔の広さと影響力を改めて実感した。

 思うに、グレゴリ傭兵団が各傭兵団と連携できるのも、団長の卓越した武威と奥さんの交渉力の高さにあるのかもしれない。


「長年付き合っているからわかるが、彼女は頼りになる。きっと相談に乗ってくれるだろう」


 確かに世話好きな感じだったから期待できそうだけど、団運営に関してはシビアだから一概には言えない気もする。


 まあ、その時はオレが何とかしようと思ってるけど……。


新作の設定を、こっそり書いています。


そんな時間があるなら、更新頻度を上げろと叱られそうですが……w

ま、気分転換も必要ですから。


今のところ、三本ネタがあって、あれこれ迷っています。

あっ、石を投げないでください……痛いですw

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