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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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陰謀……②

「う~ん、相手の出方がわからないと手の打ちようがないな。とりあえず、それを待つしか……」


 クレイがそう発言した時、部屋をノックする音が聞こえた。扉に一番近いヒューが確認すると、ソフィアのようだ。


「クレイ様、階下にネフィリカに言伝(ことづて)を頼まれた者が参りました。いかがいたしますか?」


「さっそく来たな。わかった、ここに連れて来てもらえるか」


「はい、かしこまりました」


 程なくして、ソフィアは一人の男を連れて戻ってくる。

 見た感じは普通そうな青年で、傭兵然とした風貌ではなかった。


「あんたが、ネフィリカさん?」


 男は部屋のみんなからの視線にたじろきながら、恐る恐るネフィリカに尋ねる。


「ええ、そうですが、あなたは?」


「俺は言伝を頼まれてきただけで、名乗るほどの者じゃ……」


「そうですか。では誰からの伝言でしょうか?」


「すいません、俺も知らないんです。ただ、あんたに伝えるように言われただけなんで」


「わかりました。では、伝言の内容は?」


「『ブツは預かった。返して欲しけりゃ、諦めろ』です。繰り返しますか?」


「いえ、結構です。クレイさん……」


 ネフィリカがクレイにお願いするような視線を向けると、クレイはずいっと前へ出た。


「すまないが、少し聞きたいことがあるんだが、いいかい?」


「か、かまわないけど、聞かれても答えられるかどうか……」


 にこやかな笑顔のクレイに目に見えない迫力を感じたのか相手は思わず後ずさる。


「わかる範囲でいい。まず、あんたに依頼したのはどんな奴だった、男か女か?」


「フードで顔を隠してたけど、声や格好から男だったと思う。わかるのはそれだけだ。俺は金をもらって伝えに来ただけで、他は何にも知らないんだ」


 相手の様子を眺めたクレイは、ふむっと頷くと、手を広げて『もう行っていい』とばかりに手を振った。


「じゃ、確かに伝えたからな」


 男は、クレイの仕草を認めると一言を言い残して慌てて退出して行った。


「いいのか、クレイ?」


 オレが開け放たれた扉を見てから、クレイに顔を向けて確認する。ネフィリカも同様にクレイを見た。


「単なる使いっ走りだ。たいした情報も得られんだろうさ……それより、相手の要求はハッキリしたな」


 『ブツは預かった。返して欲しけりゃ、諦めろ』か……ユールは預かった。帰して欲しければ、出場を辞退しろ――そんなところか。

 

 ロスラムの連中も、ここに来てなりふり構ってられなくなったようだ。


「で、どうするんだ?」


「大会運営に申し出たほうがいいんじゃないですか?」


「まあ、待て」


 オレとネフィリカがクレイに詰め寄ると、クレイは思案顔を見せる。


「ユールの身の安全を考えると、ここは慎重に事を運ぶべきだ。……そうだな、大会運営はともかくグビル団長の耳に入れておくのは良いかもしれない」


「それなら、別に大会運営に申し出るのと変わらないんじゃ……」


「大会運営に知らせると伯爵の耳に届くかもしれんからな。あの伯爵の性格だ、下手したら大会を中止にして不正を追及しかねないぞ」


 それは困る。ユールの命も危険に晒されるし、多くの人達の楽しみも奪ってしまう。


「だから、一番いいのは俺達の手でユールを助け出すことだ」


 それが出来れば苦労はしないって。


「それにしても不思議です。ユールの療養先はここにいる人間しか知らないはずなのに、どうして分かったのでしょう」


 ネフィリカが納得がいかない表情で首を捻る。


「いや、一人だけ、ここにはいない人物でユールの居場所を知っていた者がいる」


 今まで黙って聞いていたガイウスが不意に口を開いた。 


「ドゴス副団長だ」


「そ、そんなこと……ベンゼルさんはそんな人ではありません!」


 ガイウスの言葉にネフィリカが憤慨したように否を唱える。


 ――そんな人だと思ってる。


 ドゴスの良い人振りを擬態だと信じているオレとしては、ガイウスの言わんとしていることは理解できるし納得も出来る。


「じゃあ、ネフィリカ。ベンゼルがばらしてないなら、どこから洩れた思うんだ。まさか君は、この中に情報を流した者がいるとでも言うのか?」


 ガイウスは明らかにオレ達の方を見ながら、ネフィリカに言い放った。


「そ、それは……」


「まあまあ、ガイウス。少し落ち着け。ひょんなことから情報が漏えいすることは、よくあることだ。あからさまに人を疑うのはどうかと思うぞ」


 クレイが二人を宥めると、双方とも押し黙った。


「そういうクレイはどう思うんだ?」


 オレはクレイの真意を確かめたくて、あえて問いかけた。


「ふむ、俺か……そうだな」


 少し考える表情を見せてから、ヒューの方を見る。


「キース、あんたはどう感じた?」


 いきなり、声をかけられたヒューは慌てる素振りも見せず、ゆっくりと問い返す。


「それは、ドゴス・ベンゼル副団長について……ということですか?」


「ああ、そうだ。あんたが感じた彼の印象を聞きたい」


「そうですね……」


 ヒューはオレのことを気にしながらも、はっきりと答えた。


「リデルには悪いですが、悪し様に言うほどの悪人には見えませんでした。むしろ、実直な人柄と感じました」


 オレはヒューの下したドゴスの印象に少なからずショックを受けた。


 けっこう長い間、ヒューとは一緒にいるので、ヒューの見る目について、かなり信頼していたからだ。なので、オレが擬態と思っているあの姿をヒューがそういう評価を下したことに動揺を隠せなかった。


 さらに、その言葉を受けてクレイが続ける。


「キースはそう感じたのか……よし、決めた。俺はこれからドゴスに会いに行こうと思ってる」


 何だって!


「クレイ、それはどういうこと?」


「いや、先日会った後、ドゴスが住んでいる屋敷を、わざわざ知らせてきたんだ。いつでも訪ねて来てくれっていう伝言付きでね」


 そんなの初耳だ。さてはオレを気遣って黙っていたな。


「急な話の上、夜も更けている。訪ねて行って、会ってくれるかはわからんが、今から行ってみようと思う。腹を割って話せば、何か情報が得られるかもしれない。一応、副団長という立場だからな」


「き、危険すぎるし、敵の本拠地にわざわざ捕まりに行くようなもんじゃないか」


 オレは焦って反対するが、クレイの反応は落ち着いたものだった。


「その可能性は捨て切れないが、俺は大丈夫だと踏んでいる。一応、前もって調べたところ、ドゴス個人の屋敷はロスラム傭兵団の拠点からはじずいぶん離れているし、家人も多くいないようだ」


 なるほど、すでに調査済みってわけか。


 リスクはあるけど、ユールの件について、ここは少しでも情報が欲しいところだ。


「わかった、クレイ。もう止めないけど、その代わり……」


 オレはクレイをまっすぐ見つめて言った。


「オレも連れて行ってくれ」

登場人物が多くて、ごめんなさい。作者も、時折り忘れます。


いつか、人名事典でも作ろうかとw

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