カンディア武闘大会……②
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「はい、という訳でリデル君。先生がどうして怒っているのか、わかりますか?」
「え、と……やりすぎちゃったから? てへっ」
「てへっ、じゃねえ。ルマの時にも言っただろ。何度も同じ事を言わせるつもりだ!」
「せ、先生。暴力反対、口調が変わってます」
「あの……この茶番、いつまで続くんですか?」
ガイウスが呆れたようにオレとクレイを見つめている。
現在、初戦突破のお祝いと反省会を兼ねた夕食会を『桃色の口付け亭』の酒場の一角で行っていた。
「お二人はいつもこんな調子なので、いちいち気にしていたら身が持ちませんよ」
ヒューがにこやかな笑顔で、明らかに誤解を招く説明を加える。
「そ、そうなんですか……それにしても、リデルさんは凄いですね。あんな短い時間で相手の大将を倒すなんて。僕の出る幕が、全くありませんでしたよ」
ガイウスは素直に感心しているようで、オレに賛辞の言葉を述べる。
最初のオレに対する態度を考えると、雲泥の差を感じた。
見直されたのは嬉しいけど、ほんの少し、男の視線を感じる気がするのはオレの自意識過剰だろうか。
「だから、それが問題だって言ったの、覚えてるな、リデル」
「ああ、あれだろ。武闘大会にはショー的な要素もあるから、相手や観客のためにも、ちゃんと見せ場を作んなきゃ駄目だって話だろう」
「なんだ、ちゃんと覚えているじゃないか……じゃ、なんで出来ないんだ」
「め、面倒だったから?」
「…………」
「あのっ、無言で頭を鷲掴みするの、止めてくれ……い、痛いです」
「まあまあ、二人ともその辺にしてはいかがですか? ガイウスさんもいるのですから、仲良くするのは別の場所で……」
「仲良くしてない!」
ヒューの言葉にオレとクレイの声が重なる。
「はいはい、わかりました。そういうことにしておきます。……それにしてもネフィリカさんは遅いですね」
ヒューはオレ達の反論をスルーして、ここにはいない人物を気にかける。
ネフィリカは初戦突破を受けて、団長としての手続きがあるらしく大会運営の元に出向いていた。
念のため、ソフィアにも同行をお願いしたので、二人は用事が済み次第、反省会に参加する予定だ。
ちなみに今回はオレの一撃で終わってしまったが、通常なら負傷状況の報告や継戦できるか等の意思確認を次戦の前に団長がすることになっているらしい。
また、アルサノーク傭兵団は最低登録人数である5人しかいないため、出場者枠は固定しているが、大手の傭兵団は多くの団員を登録させており、戦いごとに出場する者を代えることが出来た。
その出場メンバーの報告も併せて行われることになっているそうだ。
逆に考えれば、アルサノークは誰か一人が負傷で欠場になると、自動的に敗戦が決まってしまう。
巷で横行している賭けで、アルサノーク傭兵団の賭け率が振るわないのは、そういう理由もあったようだ。
「まあ、『白き戦姫』のおかげで、初戦突破はできたわけだし、御の字とするか。何よりリデル以外の人間の技量が秘匿できたのは大きい。他の傭兵団もリデルには注目しているが、他のメンバーにまで目がいっていないしな」
「そうですね……私なんか完全に色物に見られていますし」
クレイの意見にヒューも同意するが、ちょっとだけ、無念さが混じっている。
「ごめん、次回以降は気をつけるよ」
「何気に次に勝つことが前提となっているのが、凄いですね」
呆れているガイウスを横目に、オレはゆっくりとオレ達のテーブルに近づいてくる人物に目を向けた。
「久しぶりだね、リデル。何か楽しいことを始めたようじゃないか」
近づいてきたのはサラとワークだ。
「サラ、久しぶり。いろいろ振り回した形になってごめん。迷惑かけたね」
クレイの進言で、一度は急に出発すると連絡したにも関わらず、すぐに武闘大会に参加するから滞在を延ばすと取り消しの連絡をしたりとサラ達には多大な迷惑をかけたと思う。
オレが神妙な顔で謝罪するとサラは笑って答える。
「いや、おかげさまで儲けさせてもらったよ。アルサノークのオッズを見て即買いして正解だったね」
「そりゃ、どうも」
「ただ、もっと早く連絡してくれれば、あたしとワークも参加できたんだが……残念だよ」
どうやら本気で、出場できなかったことを残念がっているようだ。
「リデルさん、この人達は?」
ガイウスが怪訝そうな顔でサラ達を見ている。
「ああ、ごめん。オレと一緒に旅をしてきた仲間だよ。カンディアでは、用事があって別行動を取っていたんだ」
「ふうん」
アルサノーク傭兵団が不人気だったのを指摘されたのが不満であったようで、好意的でない視線をサラ達に向ける。
「や、これは失敬。アルサノーク傭兵団のお方でしたか。あたしは旅の『文芸家』のサラ、あっちは連れで護衛のワーク。以後、お見知りおきを」
ガイウスの態度も意に介さず、にこにこしながら自己紹介するサラにガイウスは面食らっている。
相変わらず、押しが強いというか面の皮が厚いというか、サラの行動はいつも通りだ。
「しかし、クレイはともかくリデルとキースの登録名と格好には……本気で笑わせてもらった。あれはいかんよ」
「あ、あれは無理矢理に……」
「まさか、あんな恥ずかしい連中がめちゃ強いとは誰も思わないから、インパクトあったみたいだね。あちこちの酒場で噂が持ちきりのようだよ」
「…………」
思わずクレイをきっと睨みつけると、奴はどこ吹く風で目を合わせない。
そして、誤魔化すように話題を変える。
「ほらリデル、そんなこと言ってるうちに、ネフィリカが戻ってきたぞ」
目を向けると、何やら嬉しそうなネフィリカと周囲に目を配るソフィアの姿が目に入った。