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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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傭兵団の事情……②

「そ、そうですよね。いきなりの話ですから、断られるのが当たり前ですよね。リデルさんだって、この後の都合もありますし……」


 気落ちしたネフィリカはがっくりとうなだれ、傍らのソフィアは信じられないものを見たような顔をしている。


 どうやら、オレがネフィリカの申し出を断ったのが不思議でならないようだ。

 そんなにオレって見境なく厄介ごとに首を突っ込むと思ってるんだろうか。


「ネフィリカ団長の気持ちもよくわかるよ。でも、オレ達はアリスネーゼまで急ぎの旅の途中なんだ。いろいろあって、当初の予定より遅れてるんで、寄り道していてる時間は残念だけどないんだ」


 事実を述べただけなのだけど、さんざん寄り道して予定を遅らせたのは当のオレだったので、何も言わずにじっと見つめてくるソフィアの視線が痛い。


「そういうわけで、期待に応えられなくて、ごめん」


 まあ、本当の理由はさっき述べた通りだけど、当面の理由としては、これでネフィリカも納得してくれるだろう。


「いえ、いいんです。こちらの話に無理があったんで、仕方がないです。こうして、話を聞いてくれただけで有り難かったですから……」


 案の定、ネフィリカは表情を強張らせながらも納得してくれた。


「お時間いただいて、本当にありがとうございました。他を当たってみますので、お気になさらないでください」


 本当は他に当てなどないだろうに気丈にも笑みを見せて、ネフィリカは礼を述べる。少し可哀相な気がして胸が痛んだが、気を強く持って我慢した。


 ネフィリカが落胆の色を表情に滲ませながら部屋から出て行くと、すぐにソフィアが口を開く。


「リデル様、あれで良かったのですか? 本当にお困りの様子でしたが……」


「うん、本当は助けてあげたいんだけどね。でも、ソフィアも伯爵の話、聞いていただろ。部外者のオレが出場するわけにはいかないさ」


「それはそうですけど」


 優しいソフィアはネフィリカのことが気になるらしい。



 と、その時、オレ達の部屋をノックする音がした。席を外してもらっていたクレイとヒューが戻って来たのだ。


「どうでしたか、ネフィリカ団長のお話は?」


 ヒューが心配げに尋ねてくる。

 一緒に入ってきたクレイは何故だか機嫌悪そうに黙ったままだ。


「やっぱり、武闘大会のために傭兵団へ入って欲しいって話だったよ」


「そうでしたか……それで、何とお答えしたのですか?」


「うん、申し訳ないけど断ったよ」


 二人にネフィリカとの話し合いの内容を、かいつまんで話す。


「そうですか。でも、本当にそれで良かったのですか?」


 ソフィアと全く同じ反応を示すヒューに、よっぽど「オレの性格をどう考えているのか」と問いただしたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。


「伯爵の思惑から考えると、参加しない方がいいと思う。それに、他を当たるとネフィリカは言っていたから、大丈夫じゃないかな」


 オレの気休めの言葉に、ヒューは疑問を呈する。


「どうでしょう、参加登録の締め切りも近いですし、今から新しい人員を確保するのは難しいのではないでしょうか」


「えっ、そうなの?」


「はい。実はここからすぐの場所に武闘大会の運営所がありまして、さきほどの空いた時間に覗いてきたのです。けっこうな数の傭兵団が登録されていましたよ」


 そうか、それでネフィリカはあんなに切羽詰っていたのか。


 悪いことしたなと思いつつ、仕方が無いことなんだという言い訳が頭に浮かぶ。



「リデル、ちょっといいか?」


 そんな時だ、今まで黙っていたクレイが急に口を開く。


「ん、どうかしたクレイ、真剣な顔をして」


 いつも軽薄な振りをわざとしているクレイがいつになく真面目な表情でオレを見つめて言った。


「悪いんだが、リデル。俺の我がままを一つ聞いて欲しいんだ」


 クレイの突然の申し出にオレは面食らったが、すぐに頷いて答えを返す。


「もちろん、オレにできることなら何でも聞くよ」


 今まで散々、我がままを聞いてもらってきたオレだ。一つどころかもっと聞いてあげてもいい。

 それに、クレイがここまではっきりと自分の要求を口にするのは稀なことなので、何を言うのか純粋に興味が沸いた。


「じゃあ、言うが……すぐにカンディアを立ちたいんだ。ネフィリカの申し入れも断ったことだし、構わないだろう?」


「えっ、すぐに出立って、やっと着いたばかりじゃないか」


「それはそうだが、ここに立ち寄った理由は、当初からの中間目標だったことと、旅費等の補充を行うためだったはずだ。どちらも達成できたのだから、長居する必要はないだろ」


「えぇ――っ!?」


 そ、そんな急すぎるよ。

 まだ、カンディアの名物料理も食べてないし、名所旧跡も観光してないのに……。


「ん? さっき、何でも聞いてくれるって言わなかったか」


 オレの不服そうな顔を見て、クレイが苦笑する。


「い、言ったさ。だけど、オレはともかく他の人の都合もあるだろう」


「リデル様、私は構いませんが」


「私もリデルがそうしたいなら従いますよ」


 ソフィアとヒューが即座に返答する。


「ヒュー、カンディアでお師匠さんの足取りを追わなくていいの?」


 このままでは、決定事項になりそうなので、慌ててヒューに注意を促す。


「ええ、大丈夫ですよ。最終目的地がアリスリーゼとわかっていますので、無理に足取りを追う必要はないでしょう」


 ぐぬぬ……。


「ほら、リデル。ヒューもソフィアもそう言ってる。問題はないと思うぞ」


 このままでは、出発が確定してしまうので、クレイに反論すべく、オレは肝心な質問を行う。


「でもさ、何でそんなにも急にカンディアを出たいんだ? 理由を教えてくれよ」


「そいつは秘密だ」


「何だよ、それ」


 オレが口を尖らすとクレイは笑って言った。


「理由を言わずに聞いて欲しいから、我がままと言えるんだろう?」


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