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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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傭兵団の事情……①

 神殿を出て、例のオレが口にしたくない名前の宿屋に戻ると、来客が待っていた。


「先ほどはありがとうございました。お言葉に甘えて、突然こうしてお訪ねしてしまって申し訳ありません」


 待っていたのは、アルサノーク傭兵団の団長、ネフィリカ・アルサノークだった。

 別れた時の様子では、いずれ接触してくるだろうとは思っていたけど、こんなに早く来訪するとはさすがに思っていなかった。


 それだけ、切羽詰っているのだろう。

 しかも、あの面倒そうなガイウスも連れていないところをみると、今回の来訪の目的を必ず成功させたいという意志が感じられる。


 ただ、さすがに女性一人でよく知らない男だらけの傭兵達(オレのことも男だと思っている)を訪ねるのには勇気が必要だったらしく、緊張のため固い表情をしていた。

 でも、オレ達の仲間に女性のソフィアがいるのを見て、明らかにほっとしているようだった。


「いや、礼にはおよばないけど、何か相談ごと?」


 ネフィリカから妙に好かれているためか、彼女の会話の相手は必然的にオレとなる。


 クレイとヒューは、オレのお手並み拝見とばかりに静観する構えだ。


「そ、そうなんですけど……」


 口ごもるネフィリカにオレが不思議そうにしていると、横からソフィアが助け舟を出してくれた。


「リデル様、さすがにこちらでは相談しにくいのではありませんか?」


 オレ達とネフィリカは宿屋の一階の食堂で対面している状況だ。


「ああ、そうだね。けど、男が寝泊りしている部屋に女性を案内するのは、さすがに不味いと思ってさ」


「べ、別にそんなこと……」


 ネフィリカは顔を真っ赤にして否定するが、ソフィアは気を利かせてオレに告げる。


「では、私の泊まってる部屋ならどうですか。それなら安心でしょう」


 正確にはオレとソフィアの寝泊りする部屋なのだけど、話を進めるための方便なので、黙って見過ごす。


「オレは構わないけど、ネフィリカ団長もそれでいい?」


「はい、お願いします」


 即答した彼女を連れて、オレ達の部屋へと案内する。


 クレイとヒューはネフィリカの来訪の用件に興味を示していたが、彼女に必要以上の圧迫感を与えたくなかったので、適当に時間を潰してくるようにお願いする。

 クレイはいたく不満そうだったけれど、ヒューが「邪魔しちゃ悪いですよ」と無理矢理クレイを引っ張って店から連れ出してくれた。


 そんな訳で、オレとソフィアはネフィリカと狭い部屋の中で向き合っていた。 


「で、相談ごとって?」


 覚悟してきたわりには、押し黙ったままのネフィリカにオレは優しく声をかける。


「…………あの」


 この場に及んで、言い出すべきか躊躇っているようだ。


「大丈夫? あんまり時間がないんじゃないの。あの面倒そうな彼の目を盗んできたのかと思ってたけど」


「ど、どうして、それを」


 オレの言葉にネフィリカは驚いたように目を見張る。


「いや、彼はネフィリカ団長がオレ達に心を許すのを歓迎していないように見えたからね」


「ごめんなさい。ガイウスも悪気あってのことではないんです。ただ、いろんなことがって、疑心暗鬼になっているだけなんです」


 ふむ、歓迎してないってことは認めるわけだ。


「それは構わないよ。そちらにも事情があるだろうからね。それより、そんなに時間がないなら、相談事とやらを早く聞かせて欲しいんだけど」


「はい……」


 ネフィリカは決心したようにオレの目をまっすぐ見て言った。


「私達『アルサノーク傭兵団』に入ってもらいたいんです」




 傭兵団に入って欲しい――。


 ネフィリカ団長の申し出にオレは驚かなかった。


 伯爵の話を聞いて、彼女の困りごとの内容について薄々感づいてたからだ。


 おそらく、襲われて亡くなった元団員達は武闘大会に参加するために集められたのに違いない。そして、武闘大会参加への理由も、良い成績を上げることで没落した傭兵団を立て直したいと考えているのだろう。


「駄目でしょうか……?」


 ネフィリカの怯えるような眼差しに、オレは内心ため息をつく。


 オレに断わられるのではないかと恐れている眼だ。会ったばかりのオレに入団を依頼するほど、万策尽きているのだろう。

 いつものオレなら、ここまで追い詰められている美女のお願いをすげなく断ることなどできない。

 けど、伯爵の話を聞いたあとでは、安易に引き受けるわけにはいかなかった。


 この、武闘大会は傭兵にとって、その存在意義を問われる大会と言ってもいい。

 良い成績を残せば、傭兵としての名を上げ、悪ければ違う道を選択する必要が生じるかもしれない。


 大袈裟に言えば、人生を左右する武闘大会なのだ。


 そこへ部外者であり、元傭兵のオレがしゃしゃり出て、本来であれば上位に入れる者を押しのけて活躍するようなことは、とうてい許されるべきではない。

 そんな風に考えていると、黙り込んだオレにネフィリカが恐る恐る声をかける。


「あの……不躾なお願いなのは、よくわかっているつもりです。でも、ユールから貴方の強さを聞いて、アルサノーク傭兵団の復活のためには貴方の力を借りるしかないと思ったんです。どうか、私達に力を貸してください」


「…………ごめん。悪いけど、それはできない」


「そ、そんな……」


「リ、リデル様……」


 オレの返答に、ネフィリカだけでなくソフィアも驚きの声を上げた。


 ソフィア……なんで、君まで驚くんだ?


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