表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
248/655

面談……③

「まず、今回の武闘大会の方針だが、他所でやっているような個人戦は一切行わない。集団戦を基本とするつもりだ」


「個人戦を行わない?」


 各地の武闘大会は個人トーナメント戦が主流だ。試合形式がシンプルでわかりやすく、個々の出場者に人気が出やすく、観客も盛り上がる。

 何よりも試合結果の予想を誰でもすることができ、賭け試合を行うには持ってこいの試合形式だったし、投票券も売りやすい。


 そうした理由からも個人戦を選択している武闘大会は多かった。言わば、一番人気があり、儲けの出やすい種目を行わないと伯爵は明言したわけだ。


「ああ、そうだ。しかも出場者は傭兵団に所属している者に限定する」


 傭兵団に所属している者?


「それって、傭兵団対抗の武闘大会ってこと?」


「飲み込みが早くて助かる。君の言うとおりだ」

 

 う~ん、確かにカンディアには多くの傭兵団の本部があるし、エントリーするところも多いだろう。


 でも、興行的にはどうなんだろう。

 組織に馴染めない一匹狼のような個性派やヒューのような有名な騎士や兵士の飛び入りを許さないとなると、華やかさに欠ける気もするけど。


「ふむ、どうやら納得しかねる顔だな」


 オレの懐疑的な表情に、伯爵はさも当然といった顔をする。そして、にやりと笑って話を続ける。


「確かに、興行的に考えれば、良策と言えん。成功することは覚束ないだろう」


 え、失敗することを前提にしてるの。


「なんで、そこまでわかってるのに、わざわざ行う必要があるんだ?」


「この施策はな。カンディアのためであると同時に君達傭兵のためでもあるのだ」


「傭兵のため?」


 オレは眉間に皺を寄せながら鸚鵡返しに訊いた。


「……それそうと、リデル殿は昨今の帝国の情勢をどう見るかね?」


 意味深な言葉を投げかけておきながら、唐突に話題を変えた伯爵にオレは戸惑う。


「え、帝国の情勢? 前よりは安定してきてるんじゃないかな」


 適当に答えながら、先ほどの伯爵の言葉を頭の中で反芻する。


 傭兵のための武闘大会? どういう意味だろう。

 優勝すると、賞金や仕官の道があるとか、そんな意味だったら、今までと変わりない。


 伯爵の言い方からは、もっと違う意味のように聞こえた。

 う~ん、中途半端に話を切られると続きが気になって仕方ないじゃないか。


 オレがそんな風に伯爵との会話を気もそぞろにしていると、不意に伯爵が口をつぐんだ。


 まずい! ちゃんと聞いてなかったことがバレたかと思い、慌てて伯爵を見ると、彼はオレを見つめながら一言呟いた。


「皇女様……」


 え、ええええ――――――――――っ!


 な、何でバレたんだ?


 どこにもバレる要素はなかったはずだぞ。


「あ……その……伯爵……何でわかったんだ」


 オレが動転して、しどろもどろになっていると、伯爵は不思議そうにオレを見つめる。


「何をあたふたしておるのだ? ちゃんと最後まで話を聞きたまえ。で、話の続きだが、私が言いたいのは現在の帝国安定の最大要因は、皇女様にあると思うのだ」


 へ? ああ、それで皇女様って言ったのか……び、びっくりした。

 てっきり、オレの正体がバレたかと思ったぞ。


 気が付くとオレの勘違いを、クレイとヒュー、あまつさえ髭団長まで笑いを堪えている。


 こ、こいつら……。


 オレが三人を睨みつけていると、伯爵から余所見をするなと、さらにお叱りを受けた。


「大事な話をしておるのだ。ちゃんと聞いてくれなくては困る。後で君の考えを聞かせてもらうつもりだぞ」


「はあ……」


「もう一度繰り返すことになるが、現在の帝国情勢の鍵を握るのは皇女様と言っても過言ではない。リデル殿、それが何故だかわかるかね」


「え~と、皇女が、ちゃんとした皇位継承者だから……かな?」


「ふむ、間違ってはおらぬが、皇女様の継承権は期限付きであるから、さして重要ではないのだ。お主はデュラント三世が残した神託を存じておるか」


「ああ、あれだろ。皇女と結婚した公子に皇位継承権を与えるってやつ」 


「そう、その通りだ。その神託こそが重要なのだ」


 そうかな、あんまり重要とは思えないけど。

 だって、オレはどっちの公子とも結婚する気なんて、さらさらないんだから。


「良いか、皇女様がご帰還される前までの両陣営は、とにかく相手を打倒して唯一の継承者になることを最優先と捉えていたのだ。だが、両陣営の勢力は力が伯仲していて、長く膠着状態が続いていた。実のところ、民も兵士も、また貴族でさえも正直うんざりしていたと言っていい」


 カイロニア陣営の最前線を守る伯爵の言葉とは、とても思えなかった。


 なので、驚いて伯爵を見返すと、その顔には最前線を支え続ける軍人の重圧と領地経営を遣り繰りする領主の苦渋の表情が見て取れた。 


「そうした折に、皇女様がご帰還なされた。両陣営とも内戦とは別の方法で勝利を得たいと思うのは当然のことであろう」


「どうかなぁ、逆に皇女を巡って戦いが激化するんじゃないの」


「それはなかろう。神託に背くことは、すなわち皇帝継承レースから脱落することを意味するからの」


 果たしてそうだろうか?選ばれなかった方は自棄になって、内戦を再開しそうな気もするけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=687025585&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ