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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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祝賀会……①

「諸君、ようやく雨季も明け、恒例のシトリカ祭が催される運びとなった。これもひとえに諸君らの日頃の精勤の賜物であろうと思う。よって、ここにささやかな宴を用意した。存分に食し歓談し、日々の所労を癒していただこう」


 シトリカ市長であるチェリオ氏が口上を述べる。


 オレ達は、市長主催の河止め明けの祝賀会に参加していた。どうやら、雨季の終了を祝うシトリカ祭と兼ねて催しを開くつもりのようだ。

 祝賀会は市庁舎の中庭での立食形式で行われ、料理・給仕等のサービスはホテル『シトリカの涙』が受け持っていた。

 なので、後半はスター扱いで食生活が著しく向上したオレ達としては、豪華な食事に目新しさは感じなかったけれど、舞台のプレッシャーが無くなったせいか、とても美味しく感じられた。


 招待客の顔ぶれは、さすがに市長主催の祝賀会ということで、シトリカ市では著名な名士が招待されているらしく、全体的に年齢高めだ。

 まだ十代であるオレは、その中で特に目立っていたようで、周囲から注目を浴びていた。


 ちなみに『喝采の嵐』からは、オレ以外に座長とサラ、そしてクレイとヒューが招待客として参加している。他のメンバーはホテルでおとなしく留守番しているはずだ。


 立食形式ということから、交流がメインのパーティーなようだけど、すぐにシトリカを立つオレ達としては、シトリカの名士達とよしみを通じても、あまり意味が無いため食事に専念することにした。

 ヒューの軽い非難の眼を気にしながら、料理を食いまくっていると、仰々しい一団が近づいてくる。


 誰かと目を向けると市長ご一行様だ。

 本来は招待客が市長に会いに行くの筋なのだけど、たくさんの招待客が列を成していたので、後にしようと思っていたら、向こうの方が痺れを切らしてやってきたようだ。


「おお、リデルさん。昨晩の貴女の演技には魅入られてしまいましたぞ」


 頭がつるつるで体格が横に広く、目玉がぎょろりとしている好色そうな中年のオジサンだ。


 ん、何だか既視感があるぞ。誰だったっけ?

 あまり良い印象じゃなかったようだけど。


「これは市長様、お目にかかれて嬉しゅうございます。さらに私の拙い演技をご覧いただいた上にお褒めの言葉、身に余る光栄でございます」


 オレは芝居がかった所作で、市長に対し丁寧に一礼して見せる。


 ちなみに、今回は役者のリデル君として招かれているので、ドレス姿ではなく男性の正装で参加しているのだが、どこから見ても男装の麗人にしか見えない。

 会場のご婦人方の熱い視線を一身に集めて、まことに居心地が悪かった。


「いやいや、たぐいまれな美貌と自然な演技に、実に感服いたしましたぞ。まさに美の極致と言えましょうな。今日のお召し物がドレスでないのが多少心残りに思っておる次第です」


 ホントはドレス姿が見たかった……そして、そのドレスをこの手で脱がしたかった、そんな本音が透けて見えるような目付きだ。

 女芸人風情なら、どうにでもできるという自信があるのだろう。


 何となく、支配人の「君だけは残って欲しい」の裏の意味がわかった気がした。すぐにシトリカから立つという選択が賢明だったことを改めて悟る。


 オレはそんな内心の気持ちをおくびにも出さず、優雅に返答した。


「過分なお言葉、感謝いたします。なれど、私などまだまだです。脚本や仲間に恵まれたおかげでしょう」


「ご謙遜を。貴女のおかげで、今回に河止めが安寧に過ごせたことは紛れもない事実ですぞ。市民も足止めされた旅行客も、いつもなら不平と不満を抱えてあちこちで騒ぎを起こすところを、『喝采の嵐』の公演を見ることが不満の解消となったようで、目立った騒ぎも起こりませんでしてな……」


 なるほど、為政者としては不平不満の捌け口となったのが、最大の功労というわけだ。


「なので、ぜひとも貴女の要望を何かひとつ叶えて差し上げたいと思っておりましてな」


 市長として、懐の深いところを見せるのと同時に、若い女の歓心を得たい魂胆なのだろう。


「要望ですか?」


 オレがニヤリとしたので、横にいるクレイの顔がとたんに渋くなる。


「そうですね。一つだけあるのですが……たぶん無理なお願いなので……」


「何でも言ってくださって、けっこう。美人のお願いを聞くのは紳士の嗜みですからね」


 オレが恥ずかしそうに切り出すと、市長は太鼓判を押すようにドヤ顔で答える。


 どうやら、オレの性別を女性だと思ってるらしい。

 支配人が男(という設定)だと伝えてないのだろうか? 実際は女だから、あながち見当外れではないけど……。


 ま、まさか美少年好きってことはないよね。もし、そうだったら、どうしよう。


 オレは、ほんの少し不安を感じながら、一つ要望を伝える。


「シトリカ大橋を再建して欲しいんです」


「は?」


 市長は目が点になり、クレイはため息をもらす。


「き、君! 市長様に何を言ってるんだ!」


 市長の隣にいた側近のおじさんが青筋を立てて激怒する。


「え、おかしなこと言いました?」


 オレがきょとんとした顔をすると、側近さんは怒りのあまり陸に上がった魚のように口をぱくぱくさせている。


「まあ、待ちなさい。彼女は自分の言った発言の意味がよくわかっていないのだ」


 側近の激怒に市長本人は逆に冷静になったようで、余裕めいた表情でオレを見つめた。


「さて、どういうつもりの発言だったのかな?」


「いえ、みんな橋が無くて不便しているので、橋を再建すればいいのにと思って……」


「ことはそんなに簡単ではないのだ!」


 再び、側近さんが声を荒げ、市長がまあまあと宥める。


「この者が申すように、橋の再建にはいろいろ複雑な事情があってね。簡単には着手するわけにはいかんのだよ。特に現在は内戦中でもあり、わしの一存で再建することは不可能なのだ」


 市長は物事が理解できない子どもに噛んで含めるように説明する。


「でも、最近は内戦も治まってきたし、そろそろ内政に目を向けるべき時期じゃないんですか」


「ふむ」


 オレの提言に市長は目を丸くする。


「なかなか君は面白いことを言うな。しかしながら、シトリカ大橋の再建は国家の一大事業なのだ。一市長であるわしの領分を越えていると言っていい。君の要望に応えられなくて残念だが……」


 市長は言葉とは裏腹に少しも残念そうな表情も見せず答える。


「もっとも、国の指図があれば、私財を投げ打ってでも協力は惜しまないつもりだがね」


 絶対にありえないと考えているのか、できもしない約束をうそぶく。


「じゃあ、帝国参事会のめいがあれば、やるんですよね」


 オレはにっこり笑って確認した。


「もちろんだとも」


 市長もにっこりと答える。



 よし、言質はとったぞ。すぐにケルヴィンに手紙を出そう。


 ふと見ると、オレの横でクレイは目を瞑って嘆息し、ヒューはくすくすと忍び笑いをしていた。





「何か素敵なお話しをなさっていらっしゃるようですわね」


 オレと市長が、お互いに偽りの笑顔でに表面的な会話を続けていると、不意に若い女性の声がした。


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