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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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シトリカにて ⑤

 クレイの次はキースこと、ヒューが自分の紹介をする番だ。


「私はキース・デュアルと申します。白銀の騎士に傾倒している半端な人間です」


 皆に一礼するヒューは、いつもの甲冑姿ではなく目立たない平服だった。

 けれど、その容姿に一同が注目するのがわかった。 


 前にも言ったことがあるけど、ヒューはとても整った顔つきをしている。


 細面に涼しげな切れ長の目、高い鼻梁に優しげな口許。一見すると、とても闘う人には見えない。

 背景にお花を背負っている情景が頭に浮かぶほどだ。


 クレイも憎めない良い顔をしているけど、ヒューとの差は歴然としている。

 あ、でもオレはクレイの顔の方が好きだけどね。


 ヒューのは整いすぎて、ちょっと気後れしてしまう。


 「意外とモテないんですよ」とヒューは謙遜していたが、普通の女性にとって、憧れることはあっても親しくするには近寄りがたい存在なのかもしれない。

 まあ、役者としてはさぞかし舞台映えするだろうと思うから、ちょっと楽しみにしてたりする。


「キースとは、役者をしている時に知り合ったんだが、このとおり『白銀の騎士』に特化した役者でね。使い勝手は悪いが、剣の扱いが素晴らしいから擬闘をやらせたら、絵になること請け合いさ」


 クレイがオレのでっち上げたヒューの設定をさりげなく補足する。


「なんと、擬闘が得意なのかい? そいつはいい。『喝采のうち』は、そういうところが弱いんで、大助かりだよ」


 クレイの言葉に、座長さんがほくほく顔で答える。


 それにしても、今さらの話だけどオレのとっさに考えた設定はかなりの無茶振りだったなと反省する。

 当の本人であるヒューにも、フォローするクレイにも何だか申し訳ない気分だ。


 演技はともかくアドリブについては、要注意かもしれない。



◇◆◇◆◇



「ところで、座長さん。今回はどんな演目をやるんだい?」


 一同の紹介が終わったのを確認して、サラが座長に尋ねる。


「それなんだが……いつもなら『オルベスの首飾り』をかけるんだが、せっかく大所帯になったからなぁ。違う演目でもしようかと考えているんだ」


「それはいい考えだと思うよ。それでね、ものは相談なんだが、新作をかけてみないかい?」


「新作?」


「そう、あたしが最近書き上げたばっかりの新作なんだ」


「ほう、それは面白そうだ。いったいどんな内容なんだい?」


「それが最近、帝都で話題沸騰中の人物の話でね」


「って言うと?」


「ずばり、題名は……『聖皇女の帰還』さ」


 オレは突然、眩暈を覚えた。




「ああ、なるほど。そりゃあ、今一番の話題だ。客が入るのは期待できるが、いったいどんな筋立ての話にするつもりかね」


 ソルメロス座長は、儲け話になりそうと踏んだのか、前のめり気味にサラに尋ねる。


「まあまあ、そう急かさないでくれ……」


 サラも自信たっぷりにあらすじを話し始める。





 ひなびた村に住むエミリアは、貧しいながらも父親と幸せに暮らしていた。

 ところが、急に病に倒れた父親が死ぬ間際に少女に伝えたのは、父親と自分自身の本当の出自。まさか、自分が皇女であったと信じられないエミリア(アリシア皇女の役名)は、父親の遺言で帝都に向かう。

 彼女に助力するのは、ほんの偶然から出会った『白銀の騎士』のみ。苦境に立たされたエミリアは長かった黒髪を切り、男装して旅を続ける。


 しかし、執拗に付け狙う暗殺者、不意に襲いかかってくる盗賊団、そして皇女を邪魔に思う大貴族達……様々な危機に陥るエミリアだったが、その度に彼女を救いに現れる謎の男。

 いつしか、エミリアは忠実で心優しい騎士と不器用で口は悪いが頼れる謎の男の間で心揺れるようになる。


 そして、数多の苦難を乗り越え、帝都にて……。




「……と、まあそんな筋立てさ」


「そりゃあ、良い舞台になりそうだな……うん、こいつはイケるぞ」


 サラの新作のあらすじに座長は大いに満足したようだ。


 けど、オレとしては、はなはだ既視感を覚えずにはいられない内容のような……。


「しかしなぁ、主役のエミリアだが、ちょっとうちの一座の役者じゃ……」


 口ごもりながら、一座の唯一の女優であるミルファニアの方を申し訳なさそうに見る。


「ざ、座長! わたしじゃ、その役は絶対に無理です」


 視線を受けて、ミルファニアが慌てて固辞する。


「ま、そうだろうな。しかし、そうなると、他にはあんたしか……」


「いや、あたしにも無理だよ。そういう役には向いちゃいない……でもね、ちょうど打ってつけの役者がいるのさ」


 困惑する座長を尻目に、サラはにっこり微笑みながらオレに提案する。


「リデル、悪いけど女装してもらえるかな?」




「やだ!」


 間髪いれずに拒否する。


 さっきから、嫌な予感はひしひしと感じていた。

 そもそもの台本が、オレを想定して書いたんじゃないかと勘ぐりたくなるような内容だし。


 確かに、仕事を手伝うとは言ったが、これ以上サラの思惑どおりに進むなんて、正直怖すぎる。

 断固拒否の態度を示すが、サラはニコニコしながらスルーする。

  

「白銀の騎士役は当然、キースさんに……謎の男役はクレイさんにお願いできるかな?」


 む、無視ですか? オレの意見は全無視ですか……。


「俺は構わんが、キースはどうする?」


「私も構いませんよ。乗りかかった船ですし、リデルの舞台姿も見てみたいですから」


 ふ、二人とも何言っちゃってるの?

 

 君達は馬鹿なの?


 オレが呆然としていると、クレイが含み笑いをもらしているのに気づく。

 

 ぐぬぬ……さては楽しんでいやがるな、こいつ。

 いつか必ず後悔させてやる!


 けど、クレイはともかく、ヒューには無理な設定を押し付けて迷惑かけてるから、さすがに怒るわけにはいかない。

 それに、純粋にオレの舞台を見たいだけなのがわかるので、特別に許してあげよう。


「ほら、リデル。二人ともこう言っているんだ。男なら覚悟を決めな」


 サラが二人の言葉の尻馬に乗って、オレを追い詰めにかかる。


「…………わかった」


 そうまで言われちゃ、後には引けない。

 オレは不本意ながら、サラの申し出を受けることにした。


 もっとも、他の選択肢がなかったのもあるけど……。


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