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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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秘密厳守で調査いたします②

 ホテルから出ると、例の男が少し前を歩いているのが見えた。オレの勘が奴を追えと告げている。気づかれないように距離をおきながら尾行を始めた。

 ただでさえ今のオレは人から注目されやすいから、長くかかると尾行のバレる公算が高い。それを心配しながらも後をつけると、幸いなことに男は比較的短い距離で目的地に着いた。

 男が入っていたのは、貴族のものと思われる私邸だった。


 オレは少し離れた場所の道具屋らしき店に立ち寄る。


「すみません、よろしいですか?」


 店主らしきおばさんに話しかけた。


「ミルフォード様のお屋敷をご存知ありませんか?」

「知らない名前だねぇ」


 うん、オレも知らない。今、考えついた適当な名前だもん。


「この辺りにあると聞いたのですが……」


 人の良さそうなおばさんに、後ろめたさを感じつつ、しおらしく尋ねてみる。


「そうかねぇ、残念だけどこの辺りでは聞かない名だよ」

「そうですか」


 困ったような顔をしてみせると、おばさんは心配した様子で聞いてきた。


「その人がどうかしたのかい」

「実は、その方のお屋敷に奉公する話があったので、どんなお屋敷か確かめにきたのです」

「そりゃ、あんた。騙されてるよ。そんな人の屋敷なんてここにはないよ」

「えっ、本当ですか?」


 驚きの声を上げると、おばさんは心配そうに頷く。


「そうだとも。あんた可愛い顔してるから、怪しげな連中が悪さしようと騙したんじゃないのかい」

「まさか……でも、そうですね。そうかもしれません。おばさん、ありがとう」

「いやいや、こんなことぐらい当たり前のことさね」

「いえ、本当に助かりました。危ない目に遭うところでしたもの」

「あんた、器量良しだから、気をつけなきゃいけないよ」


 はい、と答えてからさりげなく聞く。


「ところで、あの大きなお屋敷はどなたのものですか? ミルフォード様のお屋敷だと勘違いしてました」

「ああ、あれはダノン・ガーリッシュ様のお屋敷だよ」

 

 ダノン・ガーリッシュか、よし覚えたぞ。


「そうですか、ずいぶん大きなお屋敷ですね。さぞかし立派なお方なんでしょう」


 そう、オレが言うとおばさんは周りをはばかるように小声で言った。


「ホント言うとそのミルフォード様とやらがダノンの旦那本人かもしれないよ」

「どういうことですか?」

「とにかく良くない噂の絶えない人なのさ」


 ほぉ、そいつは怪しい。


「そもそもダノンの旦那ってのは貴族でも何でもない商人だったのが、財力に物を言わせて男爵家の婿養子に納まったのさ。で、前の男爵様や一人娘だった奥様も次々に亡くなり、今じゃ男爵家はあの男の思いのままだよ。毒殺されたんじゃないかって、もっぱらの噂さ」

「怖い話ですね」

「まったくさね。そうそう、最近は武闘大会に絡んで大儲けしてるらしいって話さ」

「武闘大会?」


 聞きなれた単語に反応する。


「そうさ、裏で大きな金のやりとりがあるって噂だね」


 武闘大会……武闘王の復活……裏の賭け事……大金が動く。

 何となく見えてきたかも。


「ちなみに、ダノン様のお家の紋章ってどんな意匠ですか?」

「え~っと、なんだったかねぇ……そうだ! トカゲかなんかの図柄だったよ」


 やった、大当たり! すぐにクレイ達に報告しなきゃ。


「いろいろご親切にありがとうございました。父には、この話受けないように伝えます」

「ああ、そうしたほうが良いよ」


 オレはお礼がてら、日用品を買うとすぐに店を出た。そして、急いで『赤月亭』に向かう。

 ラドベルクには会えなかったけど、予想以上の成果にオレは得意になっていた。そして、あと少しで『赤月亭』という所で、路地裏にいるクレイの姿が偶然、目に入った。

 

 何だクレイの奴、こんなところにいたのか。


 オレは探索の成果を一刻も早く知らせたくて、早足にクレイへと近づく。

 声をかけようとして、ハッとして壁の陰に隠れた。


 クレイは一人ではなかったのだ。

 寄り添うように綺麗な女の人と一緒だった。


 誰だ? 知らない人だけど……。


 親しげに話す二人に、何故だか胸が痛くなる。

 クレイが誰と付き合おうと勝手だし、オレには関係ないはずなのに……。


 何なんだろう、このもやもやは?

 っていうか、オレ何で隠れてんだ?こそこそ会ってるアイツの方が悪いのに。

 堂々と声をかければいいじゃないか。


 そう思い直し、クレイに近づこうとすると、二人の会話が耳に入ってきた。


「……調査結果は、以上の通りです」

「そうか、ありがとう」


 物陰から息を潜めて、様子を窺うと、オレの方に背を向けたクレイと、話しかける女性が眼に映った。


 清楚な感じの女性だった。


 理知的な顔立ちに、意志の強さを示す眉と大きな瞳が印象的だ。オレと幾つも違わない歳に見えたが、物腰が落ち着いていて、しっかりしているように思えた。


「ソフィア……何か言いたそうだな?」


 こちらからは見えないが、クレイが優しく微笑んだように感じた。


 オレ以外にそんな顔するなよ。


 何故か無性に腹が立った。


「クレイ様……」


 クレイ様だと?


 もしかして、そういうプレイなのか?


「言いたいことがあるなら、言ってくれ」


 じゃ、言ってやる。変態大魔王め!


「すみません、それでは一つだけ」


 清楚な美人さんは一瞬ためらう仕草を見せたが、意を決したように言った。


「出すぎた事を申しますが、大旦那様がご心配しておられます」

「親父が?」

「はい、お口には出されませんが、気になさっているご様子です。クレイ様、いつまでこのような生活を続けるおつもりなのですか?」

「…………」

「ご家族は無論のこと、屋敷の者達もクレイ様の一刻も早いお帰りをお待ち申し上げております」

「俺は家を捨てた男だ……もう二度と戻るつもりはない」


 クレイの声は静かだったが、有無を言わせない意志が感じられた。


「クレイ様……」

「悪いな、そんな男のために時間を使わせてしまって」

「そ、そんなことありません。私が好きで行っていることですので……」

「そうか、すまないな。それでは、続けてよろしく頼む」

「畏まりました。それではまた、何か分かり次第ご連絡いたします」


 オレは気付かれないようにその場から、そっと立ち去った。


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