出会いと再会 ④
ごめんなさい。
事情があって、今回は更新量が少ないです。
次回、頑張ります。
「あんたがそう言うなら、そうなんだろうね……あたしはサラ・エリュート。あんたの名は何て言うんだい?」
サラは意味深な笑顔を浮かべるとヒューに尋ねた。
「キーソリック……いえ、キース・デュアルと申します。以後、お見知りおきを……」
キーソリック・デュアルオール……吟遊詩人が詠う妖精の血を引く伝説の剣士。美しい容姿に高潔な人柄、類まれな剣技を有し混沌の時代を駆け抜けた英雄。
幼い子ども達、特に少女達が最初に憧れを抱く対象ともいう。
バレバレの偽名じゃないかと、オレは内心どきどきするが、サラは表情を崩さずに返答する。
「キースさんかい。こちらこそ、よろしく」
きっと、バレてる。
それなのに、素知らぬ顔で受け答えをしているサラの真意は、一泊だけ共にする行きずりの人間をとやかく詮索しないつもりなのだろう。
ヒュー、その上手くやった感のドヤ顔をオレに向けないで欲しい。
全然隠せてないし、ちょっとイラっとするから。
「それはそうと、その旅芸人のキースさんが何で、傭兵稼業のお二人さんと親しい関係なんだい」
サラはヒューから視線を外すとオレ達に向けて問いかける。
それに対し、クレイは訳あり顔で、とんでもないことを言い始める。
「いや、俺達も傭兵だけじゃ食えないから、前には役者の真似事もやっていたのさ。この顔だろう、女が放っておかなくてね」
あ、馬鹿。
余分なこと言うんじゃねぇ。
そこは、前に護衛したことがあるとか、同じ村の出身とか無難な言い訳があるだろう?
ほら、案の定サラの目がキラキラしてきたじゃないか。
「そうかい、それは良いことを聞いたな。実は、あたしも文芸家になる前は、そこそこ名の知れた脚本家だったんだ。こいつは奇遇だねぇ」
何やら嬉しそうなサラに言い知れぬ不安を感じる。
「偶然にもシトリカで、昔の仲間に会う約束があってね。……うん、こいつは何だか面白くなりそうな予感がするよ」
オレには嫌な予感しかしないけど。
張本人のクレイを睨みつけると、さすがに反省したように頭をかいている。
オレはサラの上機嫌な様子を眺めながら、今後の展開を考えると何だか急に頭が痛くなってきた。
◇◆◇◆◇
シトリカは『河の街』と呼ばれる通称の通り、ピレゼウ河の両岸に位置している。
元々はピレゼウ河に架かる、街の名の由来でもあるシトリカ大橋によって一つの街であったが、一度目の内戦の折に橋が落とされて以来、修復されることもなく二つの街に分かれ、今日に至っている。
東岸の街は東シトリカ、西岸の街は西シトリカと呼ばれており、両市の行き来は主に渡し舟によって行われているという。
帝国の内戦により大規模なインフラ整備が行えなくなったことと、ピレゼウ河がカンディア防衛の戦略拠点として重要であったことが、橋の修復が行われない要因となっているのだそうだ。
オレ達は小屋で一泊した翌朝、雨が小降りになった狭間を狙って出立した。
昨晩は気づかなかったけれど、サラ達も馬車を持っており、午前中には東シトリカに到着することができた。
ところが、そこで待っていたのは予想外の事態だったのだ。




