思わぬ結末 ④
「――――ということになりました。ご報告は以上です」
政庁舎の一件から二日が過ぎた。
今回の結末についてソフィアが宿屋に報告に来ていた。
この街にいる間はそれで通すつもりなのか、神官服を身にまとっている。
クレイの話だと、本当に神殿に所属していた時期があったそうで、まったくの偽神官とは言えないそうだ。
確かに清楚な雰囲気のソフィアに神官服は似合っていたけど、まさか本職だったとは。
清楚で気立てがよく有能でスタイル抜群。
もし、オレが男のままだったとしたら、絶対に嫁にしたいところだ。
「で、結局、ダレンの罪は不問に付されたんだな」
「はい、そうです」
オレの妄想を断ち切るようにクレイがソフィアに確認する。
「まあ、そうなるだろうな……」
ソフィアの報告によると次の通りだ。
盗賊団の連中の多くは捕縛され、その罪科に応じて処罰されることになった。
一命を取り留めたザガンも(革鎧のおかげで致命傷は免れた)その傷が癒えるのを待って収監されるようだ。
テノールとその護衛隊は、スレイドの手先となった罪を問われ、一定期間謹慎してから職に復することになった。
そして、スレイドは度重なる失政と盗賊団を野放しにしたことにより、代理の職を解かれ、男爵邸で軟禁状態となった。
実際の盗賊団を使っての悪行は表沙汰にはしない方向らしい。
ただ、ゆくゆくは継承権も剥奪され、男爵家の日陰者として一生を終えることになるのだと聞いた。
次の男爵はスレイドの隠し子である娘が継ぐことになるとの話だ。
そして、病床のゼノール男爵に代わってダレンがその後見人となった。
ダレンがスレイドを教唆して男爵領に害を為していたことを知る者は男爵とオレ達だけなので、不自然に感じる領民は、ほとんどいないだろう。
「なんだ、結局ダレンの思惑通りになったわけか」
オレが理不尽さを感じて不満をもらすと、クレイが苦笑いしながらオレを宥める。
「まあ、そう言うな。男爵としても苦肉の選択なんだろうさ。職を辞した政庁舎の職員を全員復職させても、ダレン以上に領地経営を任せられる人材はいないからな」
「でも、黒幕がのうのうとしているのは、ちょっと釈然としない気もするけど」
「それは俺達が考えることじゃない」
クレイの言葉にオレも一応頷いた。
「うん。それも、そうか」
ここは男爵の領地だ。全てを決めるのは領主の役目なのだ。他がとやかく言うことはできない……。
でも、本当にそれでいいのだろうか?
今回のように領主が間違えることことだってある。神殿や査察はあるけど、領民にとっては他者に頼るしか手段がない。
この世界の成り立ちとしては、それが当たり前なのだけど、他に何か良い手立てがあるような気もする。
オレは、まだ見ぬ自分の領地……皇女直轄領のことを思い、不安だけが募った。
◇◆◇◆◇
「ホントにお名残惜しいですぅ」
メイエさんが目をうるうるさせている。
いよいよオレ達はジュバラクを出立しようとしていた。
「盗賊団がいなくなったから、道中も安全だし薬草の値段も落ち着くだろうから、もう安心だね」
「はい、その上神殿から治療薬までいただいて、何とお礼を言っていいやら」
「ああ、気にしないでよ。危険な目に遭わせたお詫びだから」
「そんな……リデルさんには助けてもらってばかりで……」
「そんなことないさ。一緒に旅ができて楽しかったし、オレの方こそ感謝してるんだ」
「リデルさん……」
感極まったメイエが涙をこぼすと、いきなり抱きついてくる。
「はわわ……メ、メイエさん」
慌てて抱きとめたけど、動揺は隠せない。
だって、メイエさんの身体は柔らかくて良い匂いがするんだもの。
変な気分になっちゃうから。
あれ、ノルティにさんざん抱きつかれてたけど、何とも感じなかったのに。
何でだろう?
オレが疑問に思っているとクレイが咳払いをする。
「ああ……そろそろ出発したいんだが」
「あ、ごめんクレイ。メイエさん、そろそろ出なきゃならないんだ」
「す、すみません」
顔を赤くしながらメイエが離れる。
「じゃ、元気でね」
「リデルさんも」
オレ達はジュバラクを後にした。
街から出て馬を並べ進んでいるとクレイがしみじみと言う。
「前から思っていたんだが、お前女になってからの方が女にモテてないか?」
い、言うな。オレも薄々感じていたんだから。
男にモテるのはこの容姿だから想定内だったけど、女にモテるとは考えていなかった。
「なあ、女性って同性には厳しいんじゃなかったのか?」
女性は自分より綺麗な女性が嫌いだとずっと思っていたので、少し意外に思っているのも事実だ。
「ああ、あれじゃないか……美人は美人だけど、お前って残念美人だから、嫉妬の対象にならないんじゃないか?」
な、何だと。オレが残念美人だと。
「お前、口調と行動で全てを台無しにしてるからなぁ」
む、性格が男らしいのは認めるけど、酷い言われようだ。
オレがむっとしているのをクレイは気づかずに続けた。
「まあ、とにかくどうでもいいが、あんまり厄介ごとを起こすなよ。一応、極秘の旅行なんだから」
「もちろん、わかってるさ。目立たないように気をつけるよ」
オレは自信満々に答えたけど、すぐに後悔することになるとは、この時は思いもしなかった。




