スレイドの思惑 ⑤
進退窮まっていると、オレを拘束している手下がおずおずとスレイドに声をかける。
「あの……スレイド様」
「何だ!」
水を差されて、スレイドは不機嫌に応じる。
「……こいつ、どうやら女みたいですぜ」
やばっ、掴んでいる奴には、さすがにバレたか。
一応、オレだって出るところは出てるんだ……貧弱だけど。
「何!」
驚いてオレの顔をまじまじと見つめる。
「お、お前、女なのか?」
「そうらしいな」
面倒なことになった。確実に余計な危険が増えた気がする。
スレイドは、とたんに好色そうな顔でオレをじろじろと眺める。
「まだ、子どもだが、良い拾い物をした」
舌なめずりしながら、スレイドはオレの顔に近づけていた刃先を上着の襟元に下ろす。
そして、ニヤリと笑うと中の下着ごと上着を腹辺りまで一気に切り裂いた。
「おおっ!」
「うひょ―!」
顕になったオレの裸身にスレイドを含めた手下達が歓声を上げる。
目を奪われた連中は食い入るようにオレを見つめ、一瞬の隙が生まれた。
それを見逃すほど、オレは甘くない。
周囲の手下を瞬時に叩きのめすと、手下の持っていた小剣を拾ってザガンに投げつける。
ザガンもオレの裸身に目を奪われていて、メイエに突きつけていた短剣が離れていたのだ。
真っ直ぐ飛んだ小剣は避ける間もなくザガンの胸に突き立った。
声も出さず仰け反るようにザガンが倒れると、メイエが悲鳴を上げて誰もいない部屋の隅へと逃げ出す。
よし、人質はひとまず大丈夫。
次はスレイドを……と考えた時、大広間に野獣の咆哮が響いた。
「ク、クレイ?」
拘束していた連中を投げ飛ばし、手下の集団に突っ込んで、手当たり次第にぶちのめしているのはクレイだった。
オレの裸が晒されて、我慢の限界を超えたのだろう。
訳のわからないことを叫びながら、悪鬼のごとく素手で武装した相手を次々に叩きのめす様は相当こわい。
夢に見そうな迫力だ。
大体、話し合いだ大事とか法律を守れって、口うるさく言っていたのはクレイじゃないか。
まあ、今は何を言っても無駄だろうけど。
とにかく、オレの方は今の格好を何とかしなくちゃ。
オレは破れた上着を何とかしよう服の物入れに手を突っ込むと固い物に触れる。
ん? と思い、引っ張り出すとそれは、神殿でパティオからもらった『護りの紅玉』付きのフィビュラ(装身具の一種、留め具)だった。
ちょうど良かった、オレは上着の破れた部分を重ねあわせると、そのフィビュラで留めた。
オレが肌の露出を隠した頃には、大広間の惨劇はほぼ終息していた。
残っているのはスレイドとそれを守るテノールのみだ。
「おい、クレイ。いい加減に正気に戻れ。敵はあらかた倒しただろう」
オレが声をかけると、息をフーフー吐きながらクレイはようやく立ち止まった。
「お疲れ、クレイ。その……怒ってくれて、ありがとう」
オレが照れながら礼を言うと、振り返ったクレイは険しい表情のまま、一点を見つめている。
不思議に思い、クレイの視線の先を追うと、新たな人物が大広間に登場していた。




