スレイドの思惑 ④
オレは、いくぶんか態度を和らげ、優しい口調で話してみる。
「スレイドさん、悪いことは言わないから、もう危ないことは止めた方がいいよ。オレも今日あったことは秘密にしてあげるからさ」
あくまで、オレに対して行ったこと限定だけどね。
盗賊騒ぎのからくりについては、きっちり報告するつもりだ。
とにかく、この場をこれで丸く収めようと思っていると、どうも様子がおかしい。
「ふふふ……」
座り込んだスレイドが低い声で笑っていた。
「スレイドさん?」
「ふははは……」
不意に立ち上がると大声で笑い始める。
ど、どうした?
「これが笑わずにはいられるか。ここまで秘密を知られて、そのまま帰られると思ったのか? 愚か者め!」
いやいや、愚か者はあんただって。
この場にいる人間がオレをどうこうできないことは、さっき知ったばかりだろうに……。
こっちがおとなしく帰ろうとしてるのに、何故そんな悪の親玉みたいなこと言い出すんだろうか。
オレが戸惑っているとスレイドは、どこからか取り出した呼び鈴を振り始める。
すると、その音を聞きつけてスレイドの後方にあった扉から何人もの男達がなだれ込んできた。
見た顔が含まれているので、匿っていた盗賊団の連中だろう。
オレ達を襲った時の人数の倍以上はいるところを見ると、複数の集団を街道に伏せて盗賊行為を行っていたようだ。
けど、いくら人数を集めても所詮、街のごろつき程度。この人数なら、クレイ一人でも対処できるだろう。
そう思って見ていると、最後にダレンとザガンが入ってくる。
そして、ザガンに引き立てられるように別の人間が連れてこられていた。
「……!」
オレは声を失って驚き、次いでスレイドを睨みつけた。
ザガンに乱暴に掴まれていたのは、宿に残してきたメイエだった。
「リデルさん……」
メイエが泣きそうな声でオレの名を呼ぶ。
怒りでぶち切れそうになるのを必死に堪え、メイエを安心させるように笑顔を見せてから、スレイドに鋭い視線を向けた。
「いったい、どういうつもりだ」
「どういうつもりもない。こういうことだ」
スレイドがザガンに向かって顎をしゃくると、ザガンは短剣をメイエの首筋に当てる。
「卑怯者め!」
「何とでも言うがいい。大人しく剣を捨てろ」
スレイドの要求にちょっと逡巡したが、仕方なく従おうとして、隣のクレイの危険な様子に気づく。
やばい、暴発しそうだ。
日頃から自分の命よりオレを優先すると公言してはばからないクレイのことだ、オレの安全のためにメイエを切り捨てることは大いに考えられる。
「落ち着け、クレイ。何とかするから、もう少し我慢してくれ」
獲物に飛びかかる寸前の獣のようなクレイを小声で宥める。
「オレには例の力がある。だから、大丈夫だ」
……たぶん。
そんなに都合よく力が発動するとは限らないが、クレイを止める言い訳としては十分だ。
納得したとは言いがたいが、とりあえずクレイの暴発を防ぐことができた。
「わかった、あんたの言うとおりにするから、メイエには危害を加えないでくれ」
オレはクレイを目で制した後、ゆっくりと剣を足元に置いた。
ちらりとメイエの様子を窺うと絶望的な表情でオレを見つめているのがわかる。
ザガンも短剣を当てたまま、こちらを食い入るように見ていた。
奴の注意を逸らすことができれば、対処のしようがあるんだが……。
「ほら、言ったとおりにしたぞ」
丸腰になって両手を広げて見せる。
「お前達、奴等を押さえつけろ」
スレイドは、オレが武装を放棄したのを確認すると、後ろに控えていた手下達に指示を出す。
手下達はわらわらとオレ達の周りに集まると両手両肩を数人掛かりで拘束した。
オレ達が動けなくなったのを確かめるとスレイドはゆっくり近づいてくる。
「ザガン、こいつらがおかしな真似を見せたら、ためらわずにその女を刺せ。しくじったら、許さんからな」
スレイドは、そう言ってオレの真正面に立った。
「どうだ、ぐうの音も出ないだろう。たとえ、力が強くとも最後に勝つのは知恵のある者というわけだ」
スレイドはニヤつきながら、オレをせせら笑う。
「どっちかって言うと悪知恵だと思うけど」
「ふん、この状況になっても減らず口がたたけるとは、たいした奴め」
余裕を見せ、オレの顔を覗き込む。
「最初見たときから思っていたが、頭に来るぐらい美形だな。さぞかし、女にちやほやされてきたのだろう……だがな」
スレイドは悪魔のような笑みを浮かべると、腰の短剣を抜いた。
そして、その刃先をオレの顔に近づける。
スレイドの意図は明白だ。
けど、例の力が顔を裂かれるのを生命の危機と判断してくれるかは微妙だ。
それに、神殿で見せたオレが見せた謎の治癒能力で、すぐにふさがってしまうかもしれない。
だとしても、痛いのは勘弁して欲しいし、能力がバレるのも困る。




