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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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政庁舎にて ④

 スレイドの言葉に、ごろつき隊長も傭兵隊長も目を丸くして驚いているのがわかる。

 まあ、普通はオレよりクレイの方が強そうに見えるからな。


 でも待てよ、何でこいつまで驚いてるんだ?

 捕まえた盗賊団から聞いたはずなんじゃ……。


「小僧、アトリ村では、よくも大口叩いたな。今度こそ痛い目にあわせてやるからな」


 気を取り直したごろつき隊長が、舌なめずりしながら剣を構える。


「だから、痛い目にあうのはそっちだって前にも言ったろ」


 オレは久しぶりにテリオネシスの剣を抜いた。



 立ち合ってみれば、その男の力量は何となくわかる。

 もちろん、どういう剣術を使うとか、どの程度のレベルの強さなんてのはわからない。

 ただ、幾度となく修羅場を乗り越えてきた経験が、『こいつはできる』『こいつは、たいしたことない』といった線引きを瞬時に判断するのだ。


 戦場で生き残る上でそれは必須の技能と言える。

 一人で勝てない相手なら複数であたり、自分しかいない場合なら相手の隙を突いて倒すか逃げ出す。


 傭兵稼業は手柄を立てることより、生き残ることが肝要なのだ。


 そうした感覚で見ると、ごろつき隊長……ザガンという男はたいして強くない。

 大柄で腕力や体力もありそうだが、それだけだ。

 剣の構えからして不慣れな様子がわかるし、まともに修行してきたようにも思えなかった。

 こういう手合いなら、手を抜けばいくらでも長く剣戟を見せることができるだろう。

 でも、オレはスレイドの座興に付き合うつもりは毛頭なかったので、さっさと終わらせることにした。


「おい、どうした。びびってるのか? 泣いて謝るなら殺さないでおいてやるぞ」


 オレが黙っているのを恐れをなしていると勘違いしたザガンは、余裕たっぷりに大剣を振り回して見せる。


 隙だらけで動きも遅い、これなら一撃で倒せるかな。


「能書きはいいから、さっさとかかって来いよ」


 面倒くさくなって答えると挑発と受け取ったようだ。


「このガキ、もう許さん!」


 顔を真っ赤にして大剣を大上段からオレめがけて振り下ろしてくる。


「……!」


 期待に満ちた目でスレイドが息を呑む。


 ガキンッ。

 

 次の瞬間、辺りに盛大な金属音が響いた。

 避けるのは簡単だったけど、敢えてテリオネシスの剣で受け止めてみせたのだ。


「な、何だと……?」


 絶対の自信で振り下ろした剣が、こんな貧相な少年に止められると思ってもいなかったのだろう。

 驚きと不安の色がザガンの目に映った。


「で、どう許さないんだって?」


 上から押さえつけようと力を込めるザガンに、オレはわざとのんびり聞いてやる。


「舐めるな、小僧!」


 いきり立ったザガンは渾身の力を込めて剣を押し付けるが、オレはびくともしない。

 武闘王ラドベルクにも引けをとらなかった怪力だ、ザガンごときが太刀打ちできるわけがないだろう。


 さて、そろそろ頃合だろうか。


 ザガンの息が続かなくなり、力の弱まったタイミングでオレは力を増し、ザガンの剣を弾き飛ばす。

 剣こそ手放さなかったが、ザガンは大きく態勢を崩し後方によろめいた。

 オレはすかさず、剣を平に向けると奴の革の胸当てめがけて叩き込んだ。


 ザガンはものすごい勢いで吹き飛んだ後、ごろごろと回転して部屋の壁にぶつかって止まった。

 そして、その拍子に壁に掛けてあった絵画が外れてザガンの頭の上に落ちる。


「ぶふっ……」


 偶然がなせる光景にクレイが思わず吹き出す。


 笑っちゃ悪いよ、クレイ。

 あれは、かなり痛いと思うぞ、やったオレが言うのもなんだけど。


 怒り狂って向かってくると思って防御の構えをして待っていると、様子が少しおかしい。

 ザガンは真っ青な顔をして震えながらオレを指差して言った。


「こ、こいつは人間じゃない。化け物だ!」


 うん、半分くらい自覚はある。


 聖石の加護が無いのに、この身体能力というのは、さすがに異常すぎる。

 自分が何なのか、ずっと疑問に思っているのも事実だ。


 今回の旅の目的である、親父と昵懇だったという皇女直轄領にいるレイモンドなら、何か知っているのではなかろうか。

 そんな淡い期待も持っていたりする。


「取り乱すなザガン。お前はもう下がっていろ」


 オレがレイモンドのことをぼんやり考えていると、スレイドは不機嫌そうに吐き捨てた。


「ス、スレイド様……」


「せっかく目をかけてやったというのに、情けない姿をさらしおって。こんな子どもに負けるとは、恥ずかしくないのか」


「そんな……こいつの力は人間技じゃありません。きっと魔物か何かなんです」


 スレイドの冷たい目に必死になってザガンが言い訳する。


「もういい。お前も下がってダレンと一緒に例の準備をしておけ」


「…………わかりました」


 ザガンは意気消沈して広間から出て行った。


 扉から出る際に、ちらりとオレ達を盗み見たけれど、そこには最初の猛々しさがすっかり影を潜めていた。

 力に溺れる者が、より強い力と相対したとたんに弱腰になることは往々にしてある。

 ザガンはその典型的なタイプなのだろう。


 オレも力を求める方だから、戒めとして覚えておこう。


「ではテノール君、今度は君が相手をしたまえ」


 ザガンの退出を見届けたスレイドは、もう一人の護衛隊長にそう命じた。



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