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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
203/655

政庁舎にて ②

◇◆◇◆◇


「ダレン様、例の傭兵の二人を連れてまいりました」


 隊長はオレ達を政庁舎の奥まったところにある小部屋に案内した。

 広くはなかったが、高級そうな調度品が部屋主の地位の高さを示している。


 隊長が報告した相手は温和そうな顔付きの痩せたおじさんだった。

 領主様……ではないな。

 受ける印象が貴族というより商人のそれに思えた。


「ご苦労様。ここはいいから、君はスレイド様のところへ行ってくれたまえ」


「しかし、この者達が……」


「大丈夫だ、危害を加えるような者たちではなかろう。それより早く行かなければ、またお叱りを受けるぞ」


「わかりました。それでは失礼します」


 隊長は頭を下げると部屋を辞した。


「さてと……お忙しいところ、わざわざご足労いただき本当にありがとうございました。私はゼノール男爵家の祐筆でダレン・ターヒルと申します」


 祐筆というのは領主に替わりに重要な文書や手紙を作成する役職で、なかには専決権を持つ者もいる、総じて重要な役職だ。

 読み書きはもちろん、格式や商取引にも詳しくなくてはならないから、恐らく商人上がりの人物なのだろう。


「で、そのダレンさんがオレ達にいったい何の用なんだ」


 クレイが口を開く前にオレが先に聞く。


「いえいえ、使いの者にも伝えましたように、お呼びしたのは、ご領主様です。まぁ、正確を期するなら領主様の跡継ぎ様がですが……」


 ああ、呼びつけたのは、例のぼんくら息子の方か。


「お二人は盗賊団を撃退したと聞きました。間違いありませんか?」


「一応、そうだけど、ずいぶん耳が早いね。その話をどこで?」


 ダレンさんの話では、アトリ村を立った例の護衛隊が置き去りにされていた盗賊団の連中を捕まえたところ、オレ達の活躍が判明したのだそうだ。


「領主代理のスレイド様が大変興味をお持ちになり、会ってお礼が言いたいとのお話なのです」


 興味ねぇ……何か嫌な予感しかしない。


「話はよくわかったから、早くそのスレイド様とやらに会わせてくれよ。オレ達も急ぎ旅なんだ」


「それはもう。ただ、スレイド様に会う前に少しお耳に入れたいことがございまして……」


「お耳に入れたいこと?」


 ダレンさんは、言いにくそうにしながら、言葉を続ける。


「はい、スレイド様はその……貴族のご身分で我々庶民と違う考えというか思い付きをなさる方で……また、ご気分も変わりやすいと言うか……」


 ああ、なるほど。


「貴族の我がまま息子で、気分屋の癇癪持ちって訳だ」


「め、滅相もございません……ございませんが、それに近からず遠からずと言ったところで……」


「わかったよ、オレが領主の息子さんのご機嫌を悪くするのを心配して、この場を設けたんだな」


「ありていに言えば……その通りです」


 ふむ、この人もなかなか苦労してるみたいだ。


「なるべく、機嫌を損ねないように努力するよ」


 オレの返答に隣のクレイが大いに頷いているのが癪に障るけど、気苦労の多そうなダレンさんのために頑張ってみることにしよう。


「そうしていただくと大変助かります」


 安堵するダレンさんに、逆に気になることを聞いてみる。


「それはそうと、こっちも一つ質問してもいいかな」


「ええ、もちろん。ただ、時間がありませんので、手短にお願いします」


「じゃ、お言葉に甘えて…………ゼノール男爵に何かあったのか?」


 ダレンはオレの質問に息を呑むと、しばらく間を空けてから小声で問いかける。


「どうして、そう思われますか」


「いや、引退して跡取り息子に領主の座を譲るならまだしも、一時的な領主代理だなんて、男爵に何かあったって思うのが普通だろ?」


 オレの発言にダレンが目を見張る。


「百歩譲って、息子に領地経営を勉強させているとしても、帝都でも評判の高い男爵が健在なら息子の今の横暴を黙って見過ごすとは考えにくい。そうだろう?」


「ご賢察の通りでございます」


 ダレンは年端の行かない(彼にはそう見えている)傭兵の少年が、明確に断じたので驚いているようだ。

 クレイが「だから交渉役は俺に任せろって言ったのに……」と隣でぼそぼそ言っていたが、無視を決め込む。


 実際、立場のある大人が子どもの言うことに耳を傾けないことは少なくない。

 そう考えると、このダレンという祐筆は温和そうな見た目よりずっと有能な人物なのかもしれない。

 案外、実際にこのジュバラクを陰で動かしているのは、この人だったりして。


 オレはそんな妄想を打ち消して、核心を突く質問をダレンにぶつける。


「で、本当のところ……死んでるのか?」


「い、いえ、重病ではございますが、まだご健在です。ただ、命数については……」


「了解した。もういいよ。悪かったね、無理矢理聞いて」


「いえ、それは構いません。ただ、そういうわけですので、スレイド様をお止めできる方が現在、誰もおられません。会談の際には、くれぐれもご注意くださるようお願いします」


 ダレンは深々と頭を下げるが、会う前には聞きたくなかった情報だ。


 早くもここに来たことを後悔し始める。

 確実に厄介ごとが起こるフラグが立っている気がした。


「それでは、ご案内いたしますが、スレイド様に何かご趣向があるらしく、執務室ではく大広間でお会いになるそうです」


「ご趣向ね……」


 きっと、ろくでもない趣向に違いないという確信はあった。


 けど、本当にろくでもないことが起こるとは、この時のオレもさすがに思わなかった。


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