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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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ジュバラク ①

 『ジュバラク』……ゼノール男爵領の中心都市、と言えば聞こえがいいが、実際に男爵領の中で都市らしい都市はジュバラクしかない。

 それ故に、人口も集中し規模の割には発展していると聞く。


 また、両勢力の境にあるため、防備もそれなりに高い。だんだんと近づいて見える街壁も強固なもので、盗賊団ごときでは攻め落とすのは困難だろう。

 入り口に門兵が数人立っているのが見えたので、オレ達は馬の速度を落としてそちらへと向かった。


「本当にお前達だけなんだな?」


 馬から下りて、入市の意思を伝えると、一番年長そうな門兵が驚いたように尋ねてくる。


「ああ、俺達だけだが、それがどうかしたか」


 クレイが先に立って答える。

 最初の取り決めで交渉ごとはクレイに任せることになっていた。


 曰く、オレでは目立ちすぎるとのことだ。

 けど、本音はオレに交渉を任せると必ず厄介ごとになると思っているらしい。


 失敬な。


「いや、護衛隊無しで来る人間が久しぶりだったんでな」


 門兵はクレイの質問に素直に答える。


「あいにくと貧乏でね。護衛代が払えなかったのさ」


「……盗賊団には遭わなかったのか?」


「まあ、何とかね」


「運が良かったな。次はそうはいかないと思った方がいい」 


 思ったより親切な門兵はそう助言する。


「そうするよ。無茶はしない」


「それがいい。じゃ、入市税と市内での注意事項を説明する」


 門兵の説明を聞き、入市税を払うと、簡単な身元確認が行われるようだ。

 傭兵や商人などの鑑札の確認や手配書との人相照合を行うらしい。

 メイエは顔見知りなので、対象はオレたちだ。


 鑑札はオレとクレイが実際に使っていた本物の鑑札なので、疑う余地もない。

 前科もないから、すんなりと通されると思ったら、オレのフードを上げた門兵が固まった。


「何か腑に落ちない点でも……」


 クレイがさりげなくオレ達の間に滑り込む。


「あ……いや、驚いただけだ。あまりに……その……」


 語尾がはっきりしない。 

 

「では、別に問題はないってことだな」


 クレイが多少固い口調で言うと、門兵は「ああ」と頷いた。


「ただ、一言だけ忠告するなら、悪いことは言わん。ジュバラクからは早々に立ち去った方が賢明だ」


「それは、どういう……」


「とにかく入市検査は済んだ、さっさと中へ入れ」


 質問を許さず、先を促す人の良さそうな門兵に、「どうもありがとうございます」と頭を下げると、その門兵は振り返らず軽く頷いた。

 

「お二人のおかげで無事にジュバラクに着けました。何とお礼を言っていいやら」


「別にたいしたことしてないから、気にしなくていいよ。それより、メイエさんはこれからどうするの?」


「はい、すぐに薬師さんのところへ行こうと思っています」


「わかった、オレ達もつきあうよ。いいだろ、クレイ?」


「リデルがそう言うなら異存はない。それに乗りかかった船だ、最後までつきあおう」


「ホントかクレイ。ありがとう、恩に着るよ」


 オレとクレイの会話を何故かメイエさんは顔を赤くして眩しそうに見つめていた。


 あれ、何か変だったかな? メイエさんが赤くなる要素なんてどこにもないはずなのに……。



 メイエの案内で大通りを歩く。

 オレがメイエの横に並び、後ろをクレイが続く。街は噂に聞くより活気がなく、人の往来もまばらだ。

 盗賊団の影響が確実に出ているように見えた。


 薬師の家はジュバラクの奥まった場所にあるそうで、メイエの話では、さして遠くはないとのことだ。


 歩きながら話を聞くと、メイエの母親の病気はすぐに命に関わるものではないけれど、治療には長期的に薬草が必要だったため、以前はこうしてジュバラクの薬師のところへ月に一度は通っていたのだそうだ。

 盗賊の出没のせいで、ジュバラクへ簡単に行けなくなり、薬の量を減らして様子を見ていたのだが、とうとう限界がきてしまったのだという。


 何としてでも、薬を手に入れたい。

 今回のジュバラク行きはそうした思いで決行されたのだそうだ。

 正直、あの護衛隊長の非道な提案についても、受け入れようとさえ考えていたらしい。


 まったく危ないところだった。ホント間に合ってよかったよ。

 クレイにはまだ言っていないけど、時間を無駄にすることになっても、帰り道も送ってやりたいと考えていたほどだ。


 けど、定期的となると話は変わる。

 オレがここにずっといるわけにもいかないし、頼める知り合いもいない。


「何とかならないかなぁ」

 

 オレが呟いているとメイエが急に立ち止まる。


「ん、どうかしたの?」


 メイエの視線をたどると、そこには一人の女性神官がゆっくりとこちらへ歩み寄る姿が目に入った。


 ―――― 誰かと思えば、それはソフィアだった。


 先行して、この街の様子を探っていたはずの彼女が、なぜ神官姿に?

 変装して潜入調査……それとも別の理由?


 案外クレイの趣味だったりして。

 ま、ソフィアは清楚系だから、神官姿は似合っているのだけど。


「あなた方に神のご加護がありますように……」


 見知らぬ人に対する素振りで、オレへと言葉を投げかけ、すぐ脇を通り過ぎた。その一瞬、ソフィアの手がすばやく動き、オレの手に何かを握らせる。  


 どうやら、紙片のようだ。


「お綺麗な方でしたね。女神様みたい」


 その早業に気がつかないメイエは、うっとりとした目でソフィアを見送った。


「うん、そうだね」


 振り返って目で追うと、クレイは通り過ぎるソフィアを一顧だにしなかった。

 ソフィアも一瞥もしない。

 何の接触もないまま、自然にすれ違った。


 それは決して他人行儀ではなく、互いの信頼が揺ぎないことを信じているかのようで、少し妬けた。


 けど、あれほどクレイを信頼するソフィアだって、誰よりもオレのことを優先すると公言するクレイに思うところはあるに違いない。

 それをおくびにも出さない彼女はオレなんかよりずっと大人の女性だと思う。


 いつも自分の気持ちが正直に出てしまうオレとしては見習いたいところだ。


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