厳選アイテムをあなたに!②
髪を短く揃え、髭を蓄えた壮年の男だった。大柄ではないが、がっしりとした体格で簡素なハードレザーを着込んだその姿は、歴戦の勇士のそれに見えた。ひしひしと感じられる威圧感は、さながら獅子のような風格を醸し出している。
その獅子は、野太い声で笑いながら言った。
「『白銀の騎士』に推薦された勇士と聞いて、どんな猛者が現れるかと思えば、何とも可愛らしい勇士だのう」
試験官としては、あるまじき発言だ。
「そっちこそ、試験官っていうから、かっこいいお兄さんかと思ったら、くどそうなオッサンじゃないか」
カチンときたオレがそう切り返すと、獅子の傍らにいた従卒らしき男が声を荒げる。
「子ども! 無礼だぞ、誰に向かって話されてると思っている」
「まぁ良い、捨ておけ。それより時間が惜しい。早速、試験を始めようではないか。準備は良いか、娘よ」
「オレなら、いつでもいいけど……それじゃ、この剣借りるよ」
闘技場の入り口に何本か用意されていた競技用に刃を潰した剣を取り上げた。
「確か、大会では公正を期すために貸与された武具を使うんだろ?」
「貴様、大会規約も読んでおらんのか? 無差別級は自前の武具を使用して良いのだぞ」
獅子の代わりに付属品が冷ややかに言った。
「えっ、そうなんだ」
今さらながら、クレイがあの取引を申し出た理由がわかる。
「わしにも競技用の剣を用意せよ」
獅子のオッサンが一言、発するとすぐに付属品は競技用の剣を差し出した。
「では、参られよ」
剣を構えて、オレの出方を待つ。
「いいけど、別にオレに合わせて競技用の剣、使わなくても……」
正直、今のオレの力がどれぐらいかよくわからない。
だから、相手を怪我させないように、競技用にしたのに……。わがままばっかり言ってると、オッサン老後が寂しいぞ。
オレも剣を構えると、ゆっくりと相手の間合いへと進む。次の瞬間、跳んで間合いを一気に詰めると、袈裟切りに一撃を放った。
予測より速い一撃に相手は体を返す暇もなく、剣で受け止める。
カンッ!
オレの剣は、易々とはじかれ、大きく後退した。
剣が軽すぎる……。
相手の防御は固い、有効打は厳しいだろう。
オレの一撃に眼を丸くした獅子のオッサンは、目付きを鋭くして剣を構え直した。
気迫がぐんと上がる……来る!
そう思った瞬間、身体が無意識に反応する。今度はオレが受け止めた。
小さな身体のオレがオッサンの剛剣を受け止める姿に、付属品が驚愕の眼でこちらを見ているのがわかった。
オッサンはにやりと笑うと、ぐいと剣を押付けてきた。力勝負になるが、お互い一歩も引かない。
「娘、やるな……」
顔を赤黒くして力を込めたオッサンがつぶやく。
「誉めてくれて……あ・り・が・とぉぉぉよっ!」
オレは力任せにオッサンを押しのける。オッサンがバランスを崩して下がったのを見て、すかさず打ち込んだ。
けど、それも難なく受け流すと、即座に切り返してくる。
相当、やる……ただの試験官のレベルとは思えない。
第一、従卒のいる試験官なんて聞いたこともない。
オッサンの剣はイメージ通り峻烈だったが、オレも負けてはいない。
勝負は長引くと思えたけど、何合かやり合うと、いきなりオッサンが剣をひいた。
「もう良かろう……力量はよくわかった」
「なんだい、もう終わりか? へばったなら、そう言えよ」
付属品が何か言おうとしたが、オッサンは豪快に笑った。
「そう取って良いぞ、娘よ」
「アーキス様……」
従卒が青くなって名を口に出す。
「これっ……」
オッサンは付属品に目配せする。
「あ、申し訳ありません」
慌てて口を押さえたけど、もう遅い。
アーキス・グラント……将軍か。