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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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皇女直轄領と帝国海軍 ③

 ◇◆◇◆◇◆◇


「今、なんと申されました? 私の聞き違いでなければ……」


「ああ、ちょっと皇女直轄領に行ってくるよ。来ないんなら、こっちが行けばいいだけの……」


 オレが言い終わらない内に、ケルヴィンが絶望的な顔付きをする。



 ケルヴィンを応接室に呼び戻し、オレは自分の名案を得意げに披露した。


 部屋には、オレの他にクレイとシンシア、それと理由があってトルペンとユクを招いていた。

 ケルヴィンはこの場にトルペン親娘がいることを訝しげに見ていたが、オレの『アリスリーゼにちょっと行って来る』発言に目を丸くして驚き、次に怒り狂った。


「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、さすがにここまで馬鹿だとは思わなかった。本当に度し難い大馬鹿者だ」


 ケルヴィンの余りの剣幕に、無礼な発言を正すのも忘れ、オレは呆気にとられた。本気で落胆し、憤慨してるみたいだ。


「内政官殿、今の発言は皇女殿下に対し、不敬ではありませんか。事と次第では、ただでは済まされません。それをご承知の上の発言と考えてよろしいか!」


 横合いから、シンシアが氷の鞭のように非難の言葉を投げつける。


 シンシア……普段、オレのこと罵っているその口で、それを言う?

 自分はいいけど、他人がオレを馬鹿にするのは許せないなんて、どこのツンデレだ。


「…………口が過ぎました。謝罪いたします、アリシア殿下。ですが、アリスリーゼ行きの件、まさか本気の発言ではありませんでしょうな」


 え、本気も本気なんですけど。

 でも、何となく正直に言ったら、また怒鳴られそうな気がする。


 オレは近くにいたクレイに目で助けを求めた。

 けど、クレイはバツが悪そうにオレに向かって答える。


「リデル、お前には申し訳ないが、今回ばかりはケルヴィンの意見に賛成だ」


 が~ん、クレイも反対なのか、絶対賛成してくれると思ったのに。


「ど、どうして駄目なんだよ」


 オレが不満そうに聞くと、そんなこともわからないのかとケルヴィンが嘆きながら説明する。


「両陣営がどれほど殿下の身柄を欲しているか忘れたとは言わせません。さらに賊等に拉致されれば身代金はもとよりその玉体が穢れされるような事態となれば、皇女としての意義を失いかねません」


 ケルヴィンが真剣にオレの行く末を憂いているのは、よくわかった。

 でも、オレだって全くの考えなしに、この案を出したわけじゃない。


 名案の中身を詳しく説明しようとすると、今度はクレイが確認を求めてくる。


「最終試練の後、帝都に向かう途中でライノニア軍に扮した盗賊団に襲われたのを覚えているな」


「ああ、忘れるわけないさ」


 ユクが瀕死の目に遭い、トルペンが子供化した原因だもの。

 オレも死にそうになったし、忘れることなんてできない。


「あの後、襲った連中について手を尽くして背後関係を調べたが、結局わからずじまいに終わったことは聞いてるな。最終的には『レイウルス』という名の正体不明の盗賊団の仕業という結論になったが、あいつら始めからお前の命を狙ってきていた」


 確かにそうだった。


 奴等は致死性の毒を使って、オレを殺そうとしていた。

 盗賊団なら身代金を取ろうとか思うのが、普通だろう。ただの盗賊団だったとは考えにくい。


「つまり、両陣営以外にお前の命をつけ狙う正体不明の存在がいるわけだ。アリスリーゼ行きに慎重になるのは当然だろう」


 むぅ、クレイの言うことは確かに一理ある。


 危険を伴う旅程となる可能性はあるかもしれない。

 けど、直轄領を味方につける妙案はこれ以外に思い浮かばなかったのも事実だ。だから、策を労することにしたんだ。

 

「帝都に替え玉を残して、秘密裏に向かおうと思うんだ」


 オレの名案に部屋にいる一同が一斉に脱力するのがわかった。


 あれ、何でだ? 名案なのに。



「では、そういうことで、私は部下を待たせているので……」


「我輩もノルティを待たせているので失礼しマス」


 ちょ、ちょっと、何でみんな疲れた顔で話し合いが終わった感じになってるんだよ。


「ま、待ってくれ。まだ、話の途中なのに……」


「どんな名案かと期待していれば、何ですかそれは。貴女はお子様ですか?」


 シンシアも痛い子を見る目で呆れている。

 さっき、あんなに不敬だと怒ってたのに、自分が言うのはやっぱり良いんだ。

 何か釈然としないぞ。


「シンシアの言うとおり、身代わりを残して出掛けるなんて、子供の発想だぞ」


 クレイも苦笑いで同調する。


「いやいや……ちょっと聞いてくれ。普通ならそう思うかもしれないけど、本物と寸分違わない替え玉がいれば、どうだろう?」


「本物と寸分違わない?」


 ケルヴィンが歩みを止めて、疑問符を浮かべる。


「そうさ。トルペン、この間の参事会の前にオレに豪語したよな。誰でにでも寸分違わず変身できるって」


「申しましたネ」


 トルペンは大きく頷いた。


「だからさ、皇女が実際に帝都で公務を行っているのに、本物が抜け出しているなんて、誰も思わないだろう?」


「……まあ、確かに」


 ケルヴィンが、ほんの少し納得する。


「トルペンがオレに化けて、傍らをユクとシンシアが、がっちりサポートしてくれれば、絶対にバレないと思うんだ」


 突然、名前を出されたユクが驚いてオレを見る。


 口には出さないが、無理ですと表情が語っていた。


「大丈夫さ。どうせ、謁見や夜会で出会う人間なんて、オレのこと知らない奴ばっかりなんだから」


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