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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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皇女直轄領と帝国海軍 ①

 帝国参事会の翌日、オレはシンシアの言うところの『自意識過剰で策士家気取りのいけ好かない男』と来客用の応接室で顔を突き合わせていた。


 正直、オレの体調は最悪で不機嫌そのものだ。

 何故なら昨晩、約束どおりノルティとオーリエ達とお泊り会を決行したせいで、はっきり言って寝不足なのだ。

 

 ただ、今回特筆すべき点は珍しくアレイラが参加してくれたことだ。

 今まで、こうしたイベントには頑なに加わろうとしなかったのに、突然参加したいと言われてちょっと驚いた。


 どういう心境の変化かわらないが、良い傾向だと思う。

 なので、みんな最初からテンションが上がりまくって、取るに足りない話で盛り上がったり、つまらないことで笑い転げたり、いつまでたっても眠くならなかったのだ。

 やがて、一人落ち二人落ち、気がつけばいつの間にか全員があちらこちらで寝落ちしていたという惨状だ。

 

 翌朝……と言うより、つい先ほどシンシアに叩き起こされ……もとい、優しく目覚めを促され、一同で朝食をとって解散したばかりだった。


 午前中に公式な予定のなかったオレとしては再びベッドに潜り込みたい気分だったけど、ケルヴィンが訪ねて来たので会わないわけにはいかなかった。

 シンシアに言わせれば、面談の約束を忘れていたオレの方が悪いのであり、ケルヴィンは少しも悪くないのだそうだ。


「昨晩はお楽しみのご様子と聞き及びましたが、くれぐれも皇女としての品位を損なわないように願いたいところですな」


 会ったそうそう早速、釘を刺される。

 相変わらず嫌味な奴だ。


「誰かさんが、スケジュールをどんどん詰め込むもんだからストレスがたまっちゃってさ。たまには発散しないと病気になってしまいそうなんだ」


 ケルヴィンから言わせれば、皇女の仕事なんてお遊びもいいところだと思ってるに違いないけど、こっちとしては礼儀や作法なんてもっとも苦手なところなのだ。

 愚痴の一つも言いたくなる。


「それにしても、私は皇女と内密な話がしたいと申し上げた筈なのですが……何故この場に殿下以外の者がいるのか。ぜひともお答えいただきたい」


 そう言って、いつもどおり給仕をするシンシアとオレの背後に立つクレイを睨みつけた。


「え~っ、それは心外だな。か弱い乙女であるオレが、護衛もつけずに男と二人きりで密室で会うなんてありえないだろ」


「か弱い乙女は『オレ』などとは決して言わないけどな」


 後ろからぼそりと聞こえたので、にこにこしながら肘鉄をくらわせる。


「それにケルヴィン内政官は侍女なんて、常々空気みたいに思ってらっしゃるようだから、別にいたって構わないだろう?」


 オレの痛烈な批判にケルヴィンは肩をすくめると、都合の悪い事実は無視することに決めたようだ。


「とにかく、昨日は無事に参事会を終えることができて重畳でございました」


「そうだろう? 我ながらよくやったと思ってるんだ。オレって、もしかして役者に向いてるかも……」


 それに対し、ケルヴィンは渋い顔をして答えた。


「残念ながら、お世辞にも及第点とは言えませんでしたね」


 が~ん、何で? 完璧だったじゃないか。

 長台詞も間違えずに最後まで言えたし、皇女の威厳も醸し出してたし……。


「話し終えた後に、いちいち不安そうな顔でこちらを見ないでいただきたい。あれでは、私が言わせているのが丸わかりです」


 ぐぬぬ、確かにケルヴィンの評価が気になって確認してはいたけど……。


「まあ、過ぎた話をしても仕方ないでしょう。皇女がお飾りなのは、あちらも先刻承知ですから、たいした問題ではありません……ですので、これからの話をいたしましょう」


「これからの話?」


 オレは疑問符を頭にのっけて、ケルヴィンをまじまじと見た。


「ええ、そうです。アリシア皇帝陛下が即位するために必要な布石についてです」


 アリシア皇帝陛下か……。


 オレを皇帝に即位させ、宰相として実権を握るのがケルヴィンの最終目標らしいけど、本当に上手くいくのか甚だ疑問に思える。

 なんとか近衛軍の再編成はどうにかなりそうだけど、それだって両公国の思惑が絡めば、どう転ぶかわからない。

 不安材料ばかりで楽観できる要素が何一つないように思えるのだけれど。


 オレがケルヴィンの言うことを疑っているのを見抜いたのか、その布石とやらをゆっくりと話し始めた。


「昨日の参事会でも申し上げましたが、帝国には6つの正規軍がある……そこまではよろしいですね」


「ああ、第1軍から第4軍、近衛軍と海軍だろう?」


「その通りです。意外でしたが、ちゃんと覚えているではないですか」


 こいつ……オレをそこまで馬鹿だと思ってるのか、許せん。


「そのくらい、覚えてるさ。第1~第4軍は両公国で2軍づつ配下に治めて、近衛軍は半々にしたんだろ」


「ええ、そうです。では海軍はどうですか?」


「え、それは……」


 そういや、ケルヴィンも両公国側も海軍については何も話してなかったような……。

 そもそも海軍の噂なんて、傭兵時代にも聞いた覚えがない。 


「降参だ。海軍はどこにいるんだ?」


「貿易都市『アリスリーゼ』、そこに拠点を置いています」


 『アリスリーゼ』……イオステリア帝国でも帝都イオスターナ、ライノニア公都サーリバント、カイロニア公都ルマに並ぶ第4の都市として有名だ。

 貿易港として、多種多様な風俗文化、輸入品が満ち溢れ、イオアステリアでありながら、他国の情緒が味わえる不思議な街だと聞く。


 あいにく、まだ一度も行ったことがないが、いつかは行きたいと思っていた都市だ。

 

「そして、皇女直轄領でもあります」


 ケルヴィンは重々しく補足を加えた。


「皇女直轄領?」


「はい、その名称が示す通り貴女様の領地でございます」


 知らなかった。


 皇女に領地があるなんて、初めて聞いた。


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