表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
184/655

ユクの決心 ①

 私室でシンシアにルマ茶を淹れてもらって会議の疲れを癒していると、大神殿で別れたユクが戻ってきた。


「ユク、さっきはごめん。先に帰っちゃって」


「ううん、そんなことないです。けっこう時間かかったし、先に戻ってくれて助かったです」


「それなら、良かったけど……で、パティオの話って何だったの?」


「それが……」


「あ、別に言いたくなかったら、言わなくていいから」


 ユクが口ごもったので慌てて声をかけると、ユクは心配げな顔で続けた。


「そうではなくって……実はパティオ大神官が……あたしの『あの力』について気づいていたんです」


「えっ、なんだって!」


 ユクの力のことを大神殿が把握していたなんて……。



 ユクには不思議な力が備わっている。

 近くにいる人間の心が読めるのだ。

 もちろん、読めない(例えばオレのような)人間も中にはいるけれど、気を抜くと大抵の人の考えていることを無意識に読んでしまうらしい。

 そのせいで、ユクは生まれ育った村で孤立し、母を失い、心に深い傷を負ってしまっていた。

 

 なので、ユクはこの力を畏怖し、なるべく使わないように気をつけ、ずっと秘密にしてきたのだ。

 他人の心を読むことは、覗き趣味と同じで恥ずかしい行為だとユクは思っているらしく、積極的に使うことはめったになかった。


「何でバレたんだ?」


「それがですね……」


 ユクの話にオレは驚きを隠せなかった。





 パティオ・ラベルがその力に気がついたのは、七つ下の生後半年になる弟の子守をしていた時のことだった。


 泣き止まない弟にパティオ自身が泣きそうになっていた時、突然『あんよ』と言う声が聞こえてきたのだ。

 驚いて回りを見渡しても、自分と弟しかいない。

 ひょっとして、弟が言ったのかと目をやると大泣きしている真っ最中だ。


 疑問に感じながらも念のため、弟の足をくまなく調べてみると、肌着の着せ方が悪かったらしく膝裏が挟まって赤くなっていた。

 それを直してあげると、今度は『あつあつ』と聞こえる。


 肌着を緩め、風を仰いで涼しくしてやると、しばらくして泣き止んだ。

 パティオはすぐに母親に弟がしゃべったことを報告すると、母親は驚いて確かめるが、そんな気配はない。

 結局、パティオの勘違いということに落ち着いたが、パティオは『あれは弟の心の声だ』と確信していた。


 その後も弟の声を聞いて世話をする内に、パティオは子守が上手いと評判になり、ご近所からも子守をお願いされるようになる。

 そこに至るまでに、パティオは自分が触れている相手の考えることがわかってしまうのだと気づいた。


 最初は皆に褒められて嬉しい気分になったが、手を握った母親の『有り難いし助かるけど、何だか気味が悪い』という声に愕然とし、この力のことを他人から秘するようになっていく。


 やがて、パティオは村の中で『気が利く賢い少女』という評価をもらい、神殿で読み書きを習うことを薦められる。

 そこでも、パティオは優秀さ見せつけ、神官に推薦されて神官学校へと進み、神官への道を歩むことになる。


 そして、現在にいたる。

 そう、パティオ大神官はユクと同じ読心能力者だったのだ。

 彼女が若くして栄進した理由に、その力があったことは簡単に推測できる。


 「実は、リデルと一緒に中庭であった時、パティオ様と初めて会ったと思ってたのですけど、そうではなかったんです」


 そいうや、何となくユクに意味深な態度をとっていたような記憶もある。


「いつだったか正確には覚えていませんが、確か授業が始まって間もない頃だったと思います。考えことをしながら歩いていて、廊下の曲がり角で出会い頭に人とぶつかってしまったのです」


「それがパティオだった?」


「はい、その通りです。すぐに気がついたので、軽く相手の手に触れる程度で止まることが出来たのですが、あたしはもうびっくりするやら申し訳ないやらで、ひたすら頭を下げて謝まりました。すると、相手の方は『何ともないから大丈夫。気にしなくていいから、もう行ってかまわない』と言って下さったので、その場を後にしました」 

 

 そんなことがあったんだ。


「その時のあたしは、これからどうしようと悩んでいて、自分の力について考えていたところでした。なので、手が触れた瞬間にその心内を読まれてしまって……」


「ユクが自分と同じ読心能力者であり、他の目的を持って皇女候補になったことに気づいたって訳か」


「はい」


「でも、中庭で会ったときには思い出さなかったんだ」


「ええ、ぶつかった時、恥ずかしくて顔が見れず、ずっと俯いていたので……」


「そうか……それでパティオはユクに何の話をしてきたんだ……って、それより、パティオの秘密をオレに話しても大丈夫なの?」


「はい、パティオ様から許可をいただいています」


 よほど、ユクを信用してるんだ。

 まあ、心を読んだなら、ユクがオレ以外に秘密をばらすことはないってわかるか。


「パティオ様の話は、あたしに大神殿へ来ないかとのご相談でした。あたしの能力は接触しなくても読める分、パティオ様より上なので、ぜひ大神殿のために役立ててほしいとの話です」


 確かに大神殿としては、ぜひ手の内に置いておきたい力だろう。


「……で、どうするの?」


「もちろん、お断りしました」


「まあ、そうだよね。ユク、あの力を使うこと好きじゃないものね」


「いえ……そういう理由ではなくて……」


「違うの?」


「……そのことについて、実はパティオ様といろいろお話したんです……それであたし……」


「ユク?」


「この力を……大神殿のためではなく、リデルのために使おうと決心したんです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=687025585&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ