厳選アイテムをあなたに!①
「全く勿体つけやがって……」
ぶつくさ言いかけたオレの眼は、クレイの持ってきた物に釘付けになる。
「ク、クレイ。それは……」
奴は一振りの長剣を携えていた。
白色で統一された拵えの剣を鞘から抜くと、研ぎ澄まされた刀身が射し込む日の光できらきらと輝いて見えた。
見事な剣だった。クレイが使っているバスタードソードよりやや短いが、それでも4ルーグル(イオステリアの長さの単位。1ルーグルは約30cm)は優に超えるだろう。
今のオレに……足りないのは、まさしくオレが扱うに相応しい剣だった。
「クレイ、ありがとう……」
感動で胸が熱くなったオレが剣に手を伸ばすと、指が空を切った。
「あれ?」
見るとクレイが剣を高く掲げ、オレの手が届かないようにしていた。
「な、何のマネだ、クレイ!」
お預けを食らったオレが怒って言うと、
「誰も、ただでやるとは言ってない」
にっとクレイが笑った。
「何だと!」
「もちろん、交換条件がある」
いやな予感がした。
「この剣は、ある防具と対になっているんだ。だから、それを着るというなら剣もやろう」
「防具?……まあ、考えてやってもいいけど」
クレイはオレの返答を聞くやいなや、背に隠していた一セットの防具をオレの前に置いた。
「ク、クレイさん……ナ、ナンナンデスカ、コレハ?」
クレイの見せた防具はブレストプレートという金属鎧で、一般的に胸当てと称されるものだった。
それはいい、立派な防具だ。だが、それに付随している服は…………肩袖フリルの黒のワンピースに白エプロンって……。
「何でメイド服なんだぁぁぁ!」
オレの怒声にクレイはきっぱりと言った。
「好きだからに決まってる」
揺ぎない答えに、変態の真髄を見る思いだった。そこまで、オレがその剣に固執すると思ったのか、クレイ。
むぅ、確かにちょっとぐらぐらしてる。
「クレイ、その剣はもしかして、名刀工として名高いテリオネシスの手によるものですか?」
「ご明察!」
ヒューの言葉にクレイが、よくぞ言ってくれたという顔をした。テリオネシスの作と言えば、手に入れるために王侯貴族が眼の色を変えて争う代物だ。買おうと思っても買えない代物と言っていい。
ク、クレイの奴、どこでこんなものを……。
「で、どうする? リデル」
オレは究極の選択を迫られていた。
どうする、オレ?
翌日の午後、オレは一人で闘技場に来ていた。もちろん、試験を受けるためだ。
昨日の受付官に会うと受験者の控え室という場所に案内された。部屋に入ると一斉に注目を浴びる。
中には、筋骨たくましい大柄な戦士然とした男達が10人ほどいた。
彼らはオレの姿を認めると、興味を無くしたように眼を伏せる者と、逆に好色そうに眺める者に分かれた。
案外、少ないなと思っていると、受付官同士が小声で会話を交わす。
「今年はこれだけか?」
「ああ、例年だと先着順で締め切らないと5部屋ではきかないっていうのに」
「良くも悪くもラドベルクの影響か?」
「そんなところだな」
オレは耳を傾けながら、部屋の片隅の椅子にちんまりと腰掛けた。
「それでは、全員おそろいですので試験を開始します」
受付官は一同を見渡すと言った。
「順次呼びに参りますので、準備をお願いします。一番のピレル殿、こちらへお願いします」
受付官が先に立ち、ピレルと呼ばれた日焼けした大男を伴い部屋から出て行った。
けど、しばらくすると、その男はすぐにうなだれて帰ってきた。
「どうだった?」
連れらしい男が聞くと、首を横に振る。
「全然、歯が立たなかった……。どうやら、いつもと試験官が違うようだ」
「どういうことだ、そりゃぁ」
受付官が次の者を呼び、出て行くのを見てから不合格の男が言う。
「今回は、予選会がないから楽勝だと思ったら、かえって厳しいくらいだ。あれは闘技場付きの試験官じゃないぞ」
「何だと?」
他の受験者も声を上げる。
「とにかく今回は諦めた方が無難かもしれん。じゃ、俺はこれで……」
彼は荷物を抱えて退出して行った。
やがて、次々に落伍者が増え、一人の合格者が出ないままオレの番を迎えた。
「それではリデル殿、お願いします」
受付官の言葉にオレが立ち上がると、帰り支度をしていた数人がぎょっとした顔でオレを見た。
どうやら、受験者だと思っていなかったようだ。
まあ、普通はそう見えるだろうな。
彼らの驚きの視線を背にオレは部屋を出た。
長い廊下を歩き、促されて入った試験場とおぼしき部屋はかなりの広さだった。観客席があることから、小規模の屋内闘技場だとわかる。
そして、闘技場の中央に噂の試験官が立っていた。