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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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街の噂 ④

 

 事実、高位の貴族や神官、大商人などは男でもお化粧するという話はよく聞く。対外的に活動する人は、相手に与える印象にも気を配るそうで、化粧も一つの手段として活用しているらしい。

 特に、第一印象は交渉に先立ち、物を言うため、会議の前に化粧をすることが多いのだそうだ。

 ケルヴィンだって、いつか必要になるかもしれないのだから、頑なに否定しなくてもいいのに。

 宰相を志すなら、もう少し柔軟にものごとを考えるようにした方がいいと思うけど。


 ちなみに、同じようにクレイに「オレだけするのは不公平だから、お前も化粧しろ」って愚痴ったら、


「(化粧で)俺がこれ以上良い男になったら、他の奴らが結婚できなくなって困っちまうだろ」


なんて、真顔でうそぶいていた。


 そこまで緩すぎるのもどうかと思うけど、ケルヴィンの頑なさにはどこか危うさを感じる時がある。

 いつか取り返しのつかない失敗を犯すような気がしてならない。 

 まあ、親友のデイブレイクが付いている内は大丈夫だとは思うけど。


「私のことは良いのです。それより宰相補の件で、殿下にぜひ相談したいことがあります」


「トルペンがどうかしたの?」


「未だに姿を現さないのはいつものことなので仕方がないとして、あの容姿は問題です。あれでは参事会に出られません」


「まあ、普通はそうだよね」


 お子様サイズのトルペンの姿が思い浮かぶ。

 でも、けっこう美少年なんだよね、子供トルペン……。


「落ち着いている場合ではありません。殿下が大丈夫だと言うので、ずっと様子を見ていたのです。どうなさるおつもりなのですか」


「え、オレそんなこと言ったっけ? 覚えてないなぁ」


「殿下!」


「冗談だよ、そんなに怒るなって」


 いつもぶちぶち言われるから、ちょっとした悪戯心なのに。

 ホント、うっかり冗談も言えない。


「トルペンは大丈夫だよ。ちゃんと参加はできる筈だ。ただ……」


 ノルティからトルペンの様子は逐一報告を受けているので、現状は把握している。アストラル界で修復している本体は順調に回復しているようだけど、あと半年は復帰できないそうだ。

 なので、あの姿(トルペン美少年バージョン)は、まだしばらく続くことになるらしい。

 しかも、あのバージョンは一時的な擬似生命体に過ぎないので、あれ以上の成長はできないとのことだ。


 ケルヴィンの危惧するとおり、あのままでは、とても参事会には出席できないだろう。

 そもそも、トルペンだと言い張っても誰も信用してくれないに違いない。

 世の中の一般常識では子供は大人になっても、大人は子供になったりはしないからね。


 その解決策としてトルペンが提案してきたのが、


「幻覚魔法を使うそうだよ」


「幻覚魔法?」


 ケルヴィンが疑心暗鬼の表情を見せる。

 まあ、気持ちはわからないでもない。


 最初に聞いた時、オレも「そんなの上手くいく訳がないだろう」と思ったもの。

 けど、上位古代竜ハイエンシャントドラゴンの名は伊達ではなかった。


 実際に幻覚魔法を使ってもらったら、そのリアルさに開いた口が塞がらなかったほどだ。

 見た目は本物とそっくり、近づいて目を凝らして見ても幻覚とはわからないレベルだ。

 さすがに触ってみれば、実体がないので幻覚とわかるけど、そうでなければ普通は気がつかないだろう。


 トルペンに言わせれば、変化の魔法よりずっと簡単な術式なので、魔法深度を高めに設定できるそうで、相手に抗魔法スキルやアイテムがあったとしても十分通用すると豪語していた。

 誇大表現のトルペンの言うことなので耳半分としても、恐らくは参事会には問題なく参加できるだろう。

 そもそも、場所はこちらで設定するので、他の出席者がトルペンに接触することのないように気を配ることは可能なはずだ。

 もちろん、事前に両陣営も会議場をチェックするけれど、こちらの意図までは掴めないと思う。




「ただね……見た目は完璧なんだけど」


「何か問題でも?」


「…………声は子供のままなんだ」


 話せば、一発でバレる。


「だ、駄目ではないですか!」


 ケルヴィンが狼狽した声を上げる。


「うん、そこはケルヴィンの議事進行に期待ということで……」


 オレの無茶振りに、しばらく絶句したケルヴィンは深くため息をつくと意を決したように言った。


「良いでしょう。それは私が何とかします。その代わり、アリシア様もご自分の担当する台詞を間違えないようにお願いします」


 う……演技力には、まったく自信がない。


 けど、今のケルヴィンに口答えするのは無謀だ。


「うん、任せといて……」


 ケルヴィンと目を合わせないまま、オレは自信ありげに請け負った。






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