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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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街の噂 ③

 食事を済ませると、参事会に出席するためにオレの身支度が始まる。


 言ってみれば身内の会議なのだから、別に普段の格好で良いだろうと主張したのだけど、帝国にとって重要な会議な上にオレのお披露目も兼ねているので、それなりの格好をしなければならないのだそうだ。

 また、皇女の生活用に特別な予算も組まれているので、使わないのも問題らしい。予算を消化するのも皇女の務めとの話だ。


 という訳で、シンシアも入れて6人の侍女が衣装係としてオレを取り囲んでいた。

 本来、皇女付きの侍女というのは十数人いるのが普通で、シンシア一人しか身の回りに置いていないオレは変を通り越して異常なんだそうだ。

 皇女は座っているだけで、お付きの者があれこれ世話をするのが宮廷の作法なのだとか。

 そもそも自分ことは自分でやる主義だし、いちいち他人に世話されるのも面倒だったので、皇女になって一番最初にケルヴィンへ申し入れたのは次のことだ。


 当面の身の回りの世話はシンシア一人に任せると。


 ケルヴィンはその提案にとても驚き、それでは皇女としての体裁が整わないと、最初は大反対したけれど、オレという人間をつぶさに観察した結果、その申し出を受け入れた。

 どうやら、オレの身辺には信用の置ける者以外置いてならないと判断したようだ。

 オレの実態が万が一、外に漏れるようなことがあれば、せっかく築き上げたオレのイメージが無に帰してしまうと考えたらしい。


 悪かったな、お上品でなくて。


 そもそも、皇女付きの侍女というのは、身の回りの世話はもちろんのこと、話相手になったり秘書的なことも担ったりするそうだ。

 また、アレイラの護衛兼侍女のキュールが男爵令嬢だったように、貴族の娘が行儀舞習いも兼ねて皇帝家や大貴族の侍女になることも多く、現にオレの周りで衣装を合わせくれている娘たちも、みんな貴族の子女だと聞いている。


 だから、教養も高くお淑やかで、オレよりずっとお姫様らしく見える。

 彼女たちに、傍にいられては息が抜けないし、必ずボロを出してしまうだろう。

 筆頭侍女のシンシアが平民出なのも、序列の関係で問題となる。表面上はともかく、内心は貴族の娘としては面白いはずがない。

 なので、シンシア以外の侍女たちを遠ざけるいう選択は、ケルヴィンにとっても最良の選択だったと言える。


 それにしても、皇女の侍女に抜擢されながら、お傍に仕えることのできない現状に、きっと不満を感じているだろうに、それを感じさせず彼女たちは黙々と自分の仕事をこなしていた。

 皇女の侍女に選ばれるだけあって、人間ができている。


 オレも見習わなくちゃいけない。




 衣装を着替えたら、お化粧に入る。

 はっきり言って、女になって何が一番苦手かって、このお化粧することだ。

  

 本当に女の人は大変なんだって痛感した。

 顔に厚塗りされると、肌が息苦しく感じるし、時間が経つと痒くなってくる。

 汗をかくと悲惨だし、一刻も早く落としたい気分を我慢するのも苦痛だ。


 ホント、女の人の忍耐強さに敬服するね。

 あ、今はオレも女性だったっけ。


『でも、お化粧も慣れると楽しいですよ』


 仲間内で一番、女子力の高いユクはそう言うが、オーリエもノルティも化粧不要論者なので、今までオレも化粧しないで過ごしてきた。

 けど、皇女が全く化粧っけ無しっていうのはさすがに外聞が悪いらしい。

 人前に立つのだから、最低限の身だしなみは整えてほしいとケルヴィンからも釘を刺されている。


『自分で化粧しなくていいだけ、マシさ』


『リデル、素だけで十分キレイ。(化粧しなくても)問題ない』


 化粧下手のオーリエやリデル全肯定主義のノルティは無責任な発言をしていたけど、さすがのオレも人と会う日は化粧することに妥協するしかなかった。

 もっとも皇女という職業柄(?)、人と会うのは日常茶飯事で、ほぼ毎日化粧する羽目になったのは言うまでもない。


 まあ、それでも普段は薄化粧にしてもらっているのだけど、今日は念入りに厚化粧しているので、顔の違和感が半端なかった。

 オレが死んだ目になりながら、ばっちり化粧をして身支度も整えた頃、ケルヴィン内政官がオレの部屋にやってきた。


 部屋に入ったケルヴィンは「ほう……」と小さく声をもらし、オレの姿をしげしげと見つめた。


「ケルヴィン様、皇女殿下のお支度はすでにできておりますが?」


 ケルヴィンの高貴な相手に対し礼を失する態度にシンシアが窘めるように声をかける。


「いや、これは失礼。いつもに増して殿下の見目麗しいお姿に目を奪われておりました。願わくば、平素もこのようなお姿でいらっしゃれば、臣下一同が職務に邁進する励みとなりましょうに……」


 意訳すると、『やれるんだったら、毎日やれ』だ。


 いつもは、動きやすい格好に薄化粧しかしていないから、ケルヴィンが文句を言いたいのもわかるが、オレだって譲歩してるんだ。


 実際、ケルヴィンの奴は心中でオレのこと全く信用していないけれど、オレの容姿に関してだけは利用価値があると考えているようだ。

 オレ的には全く見当違いの評価ではあるが、他人の考えまで否定するつもりはない。なので、ここは穏便に対処してあげよう。


「そう言うケルヴィン殿こそ、化粧したらどうだ? 細面の上に色白だから化粧栄えしそうだぞ。それに悪巧みばかりしてるせいか、顔色も悪いし、お疲れのようだ。化粧でもして少しは明るく見せた方がいいんじゃないか?」


 クレイとシンシアが顔を見合わせて、嘆息する。


 何だよ、先に喧嘩を売ってきたのはケルヴィンの方だからな。


「……滅相もありません。私が化粧したところで何の意味もありませんし、男が化粧など恥ずべきことと存じます」


「そんなことないと思うけど……」


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