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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
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とある皇女の一日 ②

「アリシア様、本日のご予定を説明に上がりました」


 意外と宮廷武官の制服が様になっているクレイが頭を下げる。


 あ、アリシアっていうのは皇女様の名前で、オレの本名とのことだ。

 アリシア・プレジィス・イオ・デュラント……というのがオレの正式な名前なんだそうだ。

 未だに慣れないし、身近な人達には公の場以外では今まで通り『リデル』って呼んでもらっている。


 そして、この男……クレイ・ハーグリーブスが傭兵時代のオレの相棒で、現在の状況に至る元凶を作った人物と言っていい。


 まあ、強くなりたいと渇望して聖石を望んだオレが一番悪いのは承知しているけど、ここまで何となく奴の思惑通りに動かされた気がして釈然としない気持ちも強い。

 ただ、いつも真剣にオレのことを考えてくれているのが分かっているので、文句を言うのは止めようと思っている。

 そもそもの話、オレの素性や親父の過去など未だに分からないことが多くて、クレイのことを責めるのは八つ当たりな気もする。


 今は、オレの私的な護衛兼秘書官のような曖昧な立場で、公式の身分は傭兵のままだ。正式な役職に任じようとしたら、強く断わられてしまった。

 何でも、奴の一族の掟で、公的な役職に就いてはならないのだそうだ。


「クレイ、ここにるのはシンシアだけだから、普通に話せよ」


 クレイはシンシアの頷くのを見て、口調を変える。


「そうだな、前に普通に話せとのご命令を受けたし、もったいぶった言い回しは時間の無駄になるか」


「そうそう、それにクレイには敬語なんて似合わないしね」


「心外だな。おま……リデル様よりは礼儀作法に詳しいぞ」


「……『お前』のままで構わないけど?」


「俺が構うのさ。仮にも皇女様で俺のあるじだからな」


「クレイに『様』付けなんかされたら、鳥肌が立つぞ。だから、『様』付け禁止ね」


「しかし……」


「返事は?」


「わかった……」


「あの……朝のいちゃいちゃタイムはもう終わっても、よろしいですか?」


 醒めた口調でシンシアが割り込む。


「ちが……」


「すまん、俺が悪かった」


 シンシアはオレとクレイの台詞に苦笑しながら頷くと、クレイに問いかける。


「では、お仕事の続きをお願いします。今日のアリシア様のご予定ですよね」


「ああ、そうだったな」


 クレイはオレに向き直ると、今日の予定を説明し始めた。




「午前中は『刻血の儀』を大神殿で執り行い、午後は宮殿で『帝国参事会』に参加。夜は久し振りに晩餐会なしだ……質問はあるか?」


 晩餐会がないのは嬉しい。ごたごたしたドレスや念入りに化粧するのも、ホント勘弁してもらいたい。

 皇女として避けられない勤めだけど、いつもげんなりしている。


 それと……『刻血の儀』ね。


 つい先日、オレも説明を受けたばかりだ。

 何でも帝位継承者は七歳の誕生日に大神殿にある天帝の間で、特別な儀式を行うことになっているそうだ。

 その儀式をもって帝室の一員となり帝位継承権を有するしきたりらしい。

 出生してから七歳まで生き残ることが難しかったためとか、産まれて間もない赤子がすぐに権力争いに巻き込まれないようにするためだとか諸説はいろいろある。

 けれど、七歳まで帝位継承権がないという状態は過去に様々な悲喜劇を生んだと聞いた。


 そして、オレは知っての通り、二歳で行方不明になってしまっているので、件の儀式を当然済ませていない。

 そのため今回、10年遅れで『刻血の儀』を執り行い、正式に帝位継承権を得る段取りになっているのだ。


 面倒な話だけど、物事には順序があるので仕方が無い。

 そもそも、内容自体が秘儀のため、どんな儀式なのか全く知らされていないことが、不安と言えば不安だ。


「そうそう、リデル……」


 オレが思案げな顔をしていると、クレイは思い出したように言う。


「12班のみんながお前に会いに『翡翠の間』に集まってるぞ。今はユクが相手をしてるが……」


「先に言えよ! そういう大事なことは」


「いやしかし、『リデルには公務があるから、無理に急がせなくていい。お茶しながら、ゆっくり待ってるから』と言われたので……」


 クレイの言い訳を無視しすると、スカートの裾が翻るのも気にせずオレは駆け出していた。


「リデル様、スカート!――――それに、皇女が宮殿内で走ってはいけません!」


 いやいや、皇女限定じゃないだろ、走っちゃいけないのは。

 それにスカートなんて穿きたくないっていうのを無理矢理に着せているんだから、悪いのはオレじゃない。


 そう思いながら、シンシアの激怒の声が後方から追いかけてくるのを感じ、オレはさらに速度を上げた。



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