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「で、ついてきたっていう訳か?」
呆れ顔でクレイが言う。
「だって、勝手についてきちゃったんだから、仕方ないじゃないか」
オレの後ろでニコニコ立っているレオンを気にしながら、小声で話す。
「全く、お前って奴は、どうしてこう厄介ごとを拾ってくるんだ?」
「何言ってんだ! お前が何処かでフラフラしてたからだろ」
「え~、俺のせいなのか?」
「そうに決まってる!」
「何をもめているのかな、君達」
思わず、声を荒げたオレに、後ろからレオンが話に割り込んでくる。
「リデル、喧嘩はいけないよ。それにそこの図体のでかい、君! 僕と将来を誓った彼女に失礼なことをしたら許さないぞ」
「将来を誓っただと~」
思わず、後ろ蹴りを浴びせると、レオンは後方に吹き飛んで、腹を押さえてうずくまった。
可哀想にという表情のクレイをギロリと睨みつける。
「とにかく、あんな奴、オレは知らないからな」
「まあ、そう言うな」
クレイは苦笑いしながら、レオンに手を貸して助け起こす。
「おい、大丈夫か……って、あんた……幸せそうな顔してるな、ひょっとして変態か?」
「おかしなことを言うな! 僕は彼女の愛の一撃に酔いしれていただけだ」
立派に変態だ……。
クレイは、どうにか立ち上がったレオンの顔をまじまじと覗き込むと、オレに向かって質問した。
「それにしても、公女様にそっくりだな……まさか、顔で拾ってきたとか?」
「違う、それを言うな!」
オレはかっとなって叫んだ。
確かにレオンは似ているかもしれない……でも、それを認めるのは彼女への冒涜に思えた。
それに何故だろう? そのことをクレイに言われると無性に腹が立った。
クレイに悪気がないことは、わかっているのに。
「悪かった。趣味の悪い冗談だったな、謝る」
オレの様子を見て、素直にクレイが頭を下げた。
「いや……こっちこそ、怒鳴ってごめん」
どうも、最近のオレは短気過ぎる気がする。
「どうやら、僕とリデルと違って、君とは仲が悪いようだね」
レオンが再び、話しに割り込むとクレイに向かって、気の毒そうな視線を向ける。
いい加減に勘違いを止めてくれ。
何だか、泣きたくなった……。
「ところで、あんたも大会参加希望者か?」
クレイはレオンの発言を無視して、そう問いかけた。
「え、僕?……どちらかと言えば運営側というか……」
「何だ、大会関係者か。弱そうだから、出場者じゃないとは思ってたけど」
オレが納得顔で頷くと、レオンがオレに対して何か言いかける。まさにその時だ。
「すみません、遅くなりました。リデル、クレイはどうでしたか?」
ヒューが戻ってきた。
「それが、いつの間にか戻っていて、オレ達がいないって責めるんだぜ」
「おやおや」
「ひどいだろ。ヒューも何か言ってくれよ」
「クレイらしいと言えばクレイらしいですね……」
そう笑いながら、見慣れぬ顔に気付き怪訝な顔になる。
やがて、何かに思い当たったような素振りを見せると、突然レオンの前で片膝をつく。
「な、何してるんだ、ヒュー」
驚いて声をかけると、ヒューは固い表情でオレ達を見上げながら言った。
「こちらにいらっしゃるのは、カイロニアの次期当主、レオン・デュラント公子様です。ご存じだったのではないのですか?」
えええぇぇぇぇ――――! そんな馬鹿な!
この変態が、公子様だと……。
でも、それならエクシーヌ公女に似ているのは当然だ。
なにしろ彼女のお兄様なんだから。
けど、そんなことって……。
あれ、そういや求婚されてたような……。
「ん、君は誰だ? 見たことはあるんだが、思い出せないな」
レオンは相変わらずのん気に首をかしげている。
「一昨年の『三の上月』(イオステリアの暦、太陽暦の七月にあたる)に公爵様の面前でお会いしました」
「おお、思い出した! 貴兄は『白銀の騎士』か」
「いかにも、殿下の尊顔に拝しまして、光栄のいたりにございます」
「いやいや、そう畏まることはない。普通に話すが良い。僕もそうしよう」
にこにこしながら、一同を見渡す。
「それに今の僕は公人ではない。だから、僕のことは、レオンと呼んでくれて構わない」
「それは畏れ多いことで……」
「じゃ、そうさせてもらおう」
ヒューが戸惑っていると、クレイはあっさり同意する。
オレは、どうしよう…………っていうか、今更この変態に『レオン様』は無理!
「レオン……あのさ。オレ、いっぱいあんたに暴力をふるったけど、処罰されないか?」
それを聞き、ヒューが驚いて何か言いたげな顔になり、クレイは横でうんうんと頷く。
「何を言うんだ、リデル。僕たちの間で行われたのは、決して暴力なんかじゃない。あれは『愛の営み』なんだよ」
レオン……それ、意味違うから。
目をキラキラさせて熱弁を振るうレオンを眺めながら、オレは物思いにふけった。
顔は間違いなく好みだ(エクシーヌ公女似だし)、家柄も申し分ない(公子様だ)。
でも、性格と言動が全てを台無しにしている。
やっぱり、オレの理想としては…………ふと目に入ったクレイにどきりとする。
な、なんなんだ……今のリアクションは!
オレ、ノーマルのはずなのに……最近どうかしてる。
クレイは黙って腕を組んでいたが、レオンの言い分を聞き終わるやいなや、断言した。
「レオン、言いたいことは良くわかった。しかしな、リデルは俺のものだ、誰にもやらん」
ちょ……クレイさん、いったい何を言っちゃってるんですか!
「ク、クレイ……な、何を言う……」
「何! 貴様、何者だ。リデルとはいったいどういう関係なんだ……」
オレが真っ赤になって否定するより早く、レオンが血相を変えて言い寄った。
「俺の名はクレイ、リデルの保護者だ。亡くなったリデルの父親から『よろしく頼む』と託されている」
うん、そんなことも確かにあったね、でも今言わなくても……。
このタイミングの『俺のもの』発言は大いに誤解を生むぞ。
ほら、ヒューが納得した顔してる。
「だから、あんたにはやれない」
クレイはきっぱりと言った。
本気なのか冗談なのか、判別できずオレは戸惑う。
どう理解したらいいんだ……まさか、クレイの奴、本気でオレのことを?
「そ、そうか……では、改めて言おう……お義父さん、娘さんをください!」
レオン、その台詞も絶対おかしい。
「断わる!」
クレイは即答した。
拒絶の言葉に対し何か言おうとしたレオンに遠くから声がかかった。
「アルベルト様、ここにおられましたか?」
声のする方に目をやると、たくさんの護衛を引き連れた立派な身なりの爺さんがこちらに走ってくるのが見えた。