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エクシーヌ公女…………ではなかった。
確かに顔は良く似ていた。雰囲気や優しげな表情も記憶どおりだ。
でも、エクシーヌ公女と決定的に違うのは、その人は男性だったのだ。
「僕に何か用向きがあるのか?」
男性としては高めの声で、彼は優雅に答えた。
整った中性的な顔立ちは、青年に対して失礼な表現だが、公女に似て美人顔だ。
し、しまった、人違いだ……。
ここは何とか誤魔化さなきゃ。
「あ、あの……これ、落としませんでしたか?」
手を突っ込んだポケットに入っていたハンカチを差し出して、場をつなごうとした。
あれ、ハンカチ? ……オレ、そんなもの入れたっけ?
不思議そうにオレを見つめていた公女似の青年の顔がみるみる赤くなる。
えっ、何で?
すぐに自分が握りしめ相手に差し出したものを確認する。
オレが彼に渡そうしたものは……女性用の下着だった。
ええぇぇぇっ――――!
ク、クレイの奴……何てものを入れとくんだよ!
あとで、覚えてろ。
「ご、ごめんさい! 間違えました」
ホント、いろいろ間違っちゃってるよ……。
オレは真っ赤になって、その場所から逃げ出そうとした。
すると、彼が慌てたようにオレを呼び止める。
「ちょっと待て! 行かないでくれたまえ」
真剣な彼の言葉に、思わずオレは振り返る。
頬を赤く染めながら、意を決したように彼は続けた。
「こ、こういうことには、あまり慣れていなくて……。だから、上手く言えないのだが、君の気持ち、確かに受け取った」
「は?」
「いや、こんな告白の仕方があるなどと知らなかったよ」
「へ?」
「ちょっと大胆だが、告白としては会心の一撃だな」
我が意を得たりという表情で微笑んだ。
待て待てぃ! 何を言っちゃってるの、このお方は……。
オレがいつ告白したって?
勘違いもはなはだしい。
大体、男のオレが何が悲しくて男に告白しなきゃならんのだ。
どうやら、公女似の彼は容姿とは裏腹に、かなり思い込みの激しい性格の持ち主のようだ。
「おいあんた、黙って聞いてりゃ、何言ってんだ!」
オレの啖呵に、彼は口を開けたまま、目を丸くする。
「なんでオレが、あんたみたいにふわふわしたお坊ちゃんに告白しなきゃいけないんだ。馬鹿も休み休み言え!」
オレの剣幕に、最初は理解できていなかった彼は突然、表情を強張らせた。
「す、すまない。僕は何か君の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのか?……」
にこやかだった表情が、一転して暗くなる。
「その……勝手に思い違いして、気分を悪くさせたようだ。気が済むまで怒ってかまわない」
整った顔を俯かせて、唇を噛む。
いや、別にそこまで責めてないんだけど……。
なんだか、どんどん負の世界に落ち込んでいくように見えた。
考えてみれば突然、変なことしたオレの方が悪かったと言えるかもしれないので、慌ててフォローに入る。
「も、もういいから。顔、上げなよ」
オレはやるせない気持ちで、声をかける。
頼むから、エクシーヌ公女の顔で情けない姿を見せないで欲しい。
「え……もう怒ってないのか?」
「別に分かってくれればいいよ」
「なんだ……怒ってないのか。謝って損したな」
途端に表情が一転して明るくなる。
何、この変わりよう。この人って、いったい何なの。つ、ついていけない。
「僕の名はレオン・アルベルト、よろしく頼む。で、美しい君の名前は?」
「……リデルだけど」
レオンのテンションに少し引き気味になりながら、ぼそりと答える。
「リデル……可愛い名前だ」
ぶちっ。
男だった時のオレが最も嫌いだった台詞をピンポイントで言うか、この男……。
ごすっ。
「あ……」
気がつくと初対面の男の頭を殴っていた。
し、しまった……今のオレの力じゃ、手加減しないとケガさせちまう。
慌てて相手を見ると、頭を押さえて座り込んでいた。
「だ、大丈夫?」
「ち、父上にも殴られたことなかったのに……」
「ごめん、悪かった。ケガはしてないか?」
「い、痛いけど…………感動した!」
「は?」
「君の僕に対する気持ちが真摯に伝わってきたよ」
「え?」
「君は、僕の女神だ! 付き合ってくれ」
オレって、男運ないかも……。