表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
146/655

失われた城とオレ 前編

 結果的にオレの目算は外れることになった。


 というのもシリアートールは試練の行われる場所を知らされていなかったのだ。

 最終試練の場まで大規模な陣容での移動となった今回、数箇所の中継ポイントが設けられることになったらしい。


 彼が前もって知らされていたのは、その中継地の一つに過ぎなかったのだ。

 火急の用件があった場合は、そこに駐屯している指揮官に次の中継地の場所を聞き目的地へと向かうという迂遠な方法をとるしかないのだと言う。


 残された公子陣営が最終試練場を捜して軍を派遣するのを阻止するための方策だとは思うけど、何とも面倒なことを……。


 また、それとは別にオレ達にも問題が生じた。


 ナヴァロンがいかに優秀な馬でも、重装備のヒューを乗せての長距離移動は困難だったのだ。

 さらに、乗馬が得意でないユクをオレの後ろに乗せて走ることで、オレ達の行軍速度は先行するケルヴィン達とさほど変らないものとなった。


 夕方に試練の場へと到着し、一泊した翌日の午前中に行われる予定の最終試練に間に合うかどうかギリギリの日程だ。


「まぁ、オレ達が皇女に選ばれることはないんだから、最終試練に間に合わなくてもいいんだけどね」


 馬を休めるため、しばしの休憩中のことだ。

 ユクが責任を感じているように見えたので、冗談めかして慰める。


「果たして、そうでしょうか……」


 ヒューの呟きが耳に入る。


「ヒュー?」


「いえ、なんでもありません」


 聞きとがめると、ヒューは笑ってはぐらかす。


「それより、ユク。前から気になっていたのですが、その首飾りに何か謂れがあるのですか?」


 ユクが無意識に握り締めるペンダントに視線をとめる。


「これですか?」


 ユクが持ち上げて見せたのは、水晶のペンダントだった。


 ローズクォーツだろうか?

 透明色に薄いピンクが混じっているように見える。

 ユクの持ち物にしては高価そうな装飾品だ。


 そう言えば、以前にも気になって聞いたことがあったっけ。

 確か、その時は、大切な方からのいただき物だって言ってた気がする。

 

「イクス様にいただいた魔晶石です。少し赤いのはあたしの血を含んでいるからです」


 ああ、大切な方ってイクスだったのか。

 まあ、ユク的にはそうだろう。


「っていうか、ユクの血入りって、どういうことだよ?」


 意外な返答にオレは目を丸くしてユクを見つめると、ユクは嬉しそうに続けた。


「父を捜すあたしのためにイクス様が特別に用意してくださったものなんです。一滴、吸い込ませたあたしの血によって、近親者が近くにいると光って反応してくれる宝物だそうです」


 そういう魔法具があるのか、イクス何でもありだな。


「それで、今までに反応は?」


 オレの問いに、ユクは唇を噛んで首を横に振った。


「ユク、前にも言ったと思うけど、今回の皇女探しの一件が片付いたら、一緒にユクの父さんを捜そう。こう見えても人探しは得意なんだ」


 嘘付け、と呟くクレイを無視して、オレは大見得を切った。


「はい、リデル。よろしくお願いします」


 ユクはペンダントを握りながら、素直に頷いた。




「そろそろ、出発するぞ」


 馬の様子に目をやっていたクレイがオレ達に声をかける。


 例の「お前を守る」発言からこっち、クレイとオレの間に微妙な空気が発生している気がする。


 その上、最終試練に向け行動を始めてからは、どうもクレイが不機嫌な感じだ。

 軽口も少なくなったし、べたべたしてもこない。


 オレとして願っても無いことなんだけど、何とも調子が狂う。


 気に入らないことがあるなら、言えばいいのに。

 いい加減、オレも腹が立ってくるぞ。


 オレ達の間の空気に慌てたユクが場の雰囲気を変えようとヒューに確認する。


「ヒュー様、次の中継地点で馬を乗り換えるおつもりなんですね?」


「そうですね。出来れば、もう一つ先の中継地まで行ってナヴァロン達を預けたいところですが、シリアトール殿の馬がもう持たないでしょう」


 ヒューの言葉に振り返ると、補佐官もその馬もすでに疲れの色が窺えた。


 って言うか、馬よりシリアトールの方が問題のような……。


「間に合わなくなっても良ければいいが、どうする?」


 立ち上がったクレイがオレを見下ろす。


「間に合わせて見せるさ!」


 反抗するように睨み返すと、心配げにオレを見るユクの手を取ってリーリムに近づいた。




 結局、シリアトールは次の中継地に着いたとたん、ダウンしてしまい、そこで馬車を借りることとなった。


 馬車には彼とユク、それとヒューの装備を載せ、御者台にはクレイが座った。


 オレとヒューはそのまま馬に乗っての移動だ。


 その結果、移動速度はさらに遅くなり、クレイに大口を叩いた手前、オレは内心、冷や汗をかいていた。

 けれど、通行手形代わりのシリアトールを置いていくわけにもいかず、じりじりと焦る気持ちを抑え、先を急いだ。


 数箇所の中継地を通り過ぎると、辺りはすっかり真っ暗になっていた。


 クレイは主要道から脇道に入り、少し開けた場所で馬車を停める。

 野営の準備を行い、今夜はここで一泊することになった。


「日が昇ったら、すぐ出発することになりますから、できるだけ睡眠をとった方が良いでしょう」


 ヒューはクレイと二人で見張り番をすると申し出てくれたけど、それにオレも無理矢理加わわることにした。


 2,3日寝ないで戦闘することなど、野戦中にはよく起こることだし、戦える人員は有効に使わなきゃ。


 いつもなら反対しそうなクレイが黙っているので、三人交代で行うことに決まった。

 最初はヒュー、次はクレイで、最後がオレだ。


 一人目のヒューに任せ、オレ達はすぐ眠りについた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=687025585&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ