理想の相手を探すなら、ぜひ登録を!①
「本当に登録なさるんですか?」
受付官のお兄さんは、目を白黒させながらオレに確認した。
「何回、言ったらわかるんだ! それとも登録を受け付けない事情でもあるのか?」
「そうでは、ありませんが……」
疑わしそうにオレの体格をチラッと見る。
どうせ、貧弱で悪かったな。
なりたくてなった訳じゃないし……。
「女性部門もありますけど……大丈夫ですか?」
その女性部門さえ、怪しいと目が疑っている。
だ~か~ら……。
「む・さ・べ・つ・級……無差別級だって言ってるだろ!」
「本気ですか?」
ルマの武闘大会は大会年によって変わることもあるが、概ね5つの部門に分かれている。基本4部門の重闘士級・中闘士級・軽闘士級・女性闘士級と特別部門の無差別級だ。
基本的に男の場合は体重で階級分けされるが、無差別級にはその制限がない。また、基本4部門と特別部門の両方に登録することが可能だ。
もちろん、ルマの武闘大会と言えば、この無差別級が華だ。
そのため、無差別級に焦点を定めて基本部門に登録しないこともできる。無差別級の試合は、基本部門全てが終わった大会後半に行われるので、基本部門での怪我等を恐れての方策だ。
そして、無差別級に女性が出ることは、稀だった。
「受付官殿、彼女は大丈夫です。私が保証しますよ」
渋っている受付官に、ヒューが口添えをする。
「ルーウィック様、そう仰るなら構いませんが……私はご忠告しましたからね」
そういうと、やっと登録を認めてくれた。
やった! これで闘える。一時はどうなるかと思ったけど、白銀の騎士様々だ。
「ありがとう、ヒュー!」
「いえ、これで上手くいけば、貴女と闘えますね」
いいねぇ、騎士様はこうでなくちゃ。
どっかの馬鹿に見習ってもらいたいよ。そう思いながら、何気なく無差別級の登録者を確認すると、意外に登録人数が少ない気がする。
あれ? どうしてだ。いつもなら予選大会が必要なくらいなのに……。
怪訝なオレに気付いたヒューが教えてくれた。
「やはり、ラドベルクの大会復帰は大きいですね。勝てる見込みのない者は参加を取り止めたようです」
「さすが、狂戦士ってとこだな」
「そうですね。でも、その代わり参加するのは名の知れた闘士ばかりで、楽しくなりそうです」
ヒュー、あんたってホント、闘いのことしか頭にないんだな……。
せっかくの美男子がもったいないっていうか、少しは色恋に気持ちを向けたらどうなんだ。
全く、オレの周りの男は極端すぎるよ。
そういや、クレイの姿が見えない……どこへ行ったんだ?
「ヒュー、クレイがどこへ行ったか知ってる?」
「先ほどまで、その辺りにいたのですが……」
「しょうがない奴だなぁ。ちょっと捜してくる」
「では、ここでお待ちします。知人がいたので話をしていますので」
「ごめん、すぐ戻るから」
オレは闘技場の入り口にあった受付から離れると、場内に入った。中は結構、混んでいた。
参加者や見物客、それを見込んだ物売りなどで、ごった返している。
オレは人ごみが苦手だ。
まあ、好きな人はあまりいないと思うけど……。
それに自意識過剰かもしれないが、他人から注目されている気がする。
いや、確かにじろじろ見られてる……何でだ?
不躾な視線に耐えられなくなり、引き返そうとした時だ。
オレの視界の片隅に、忘れられない人の横顔が目に入った。
エクシーヌ公女?
いや、こんな所にいる訳がない……。そう思った瞬間に人を掻き分けて、その姿を追っていた。
でも、その人の足取りは意外に早く、なかなか追いつけない。
やっと声をかけられたのは、闘技場の別の出口から外へ出たところだった。
「す、すいません。ちょっといいですか?」
しまった、変な勧誘の人みたいだ。
その問いかけに、相手はゆっくりと振り返った。