魅惑のルマ観光わくわくプラン④
「おい、リデル。どうした?」
物思いにふけっていたオレは、クレイに突然、声をかけられて我に返った。
「いや、別に」
回想の中のクレイと重なり、思わず顔が赤くなる。
「本当ですよ。市門をくぐってから、ずっと心あらずの様子でしたよ」
ヒューが同調する。
「何か気なることでもあるのか?」
頼むから、今は優しくするなよ。思い出すだけで、恥ずかしいんだから……。
「何でもない。一年前のことを思い出してただけだ」
「そうか、一年前か……」
クレイは急に、にっと笑うとヒューに話しかける。
「それがな。リデルときたら、ルマ最後の夜に大酒飲んで、大暴れしたんだぜ」
! 大暴れだと……知らないぞ、そんなこと。
「しかも、ハイテンションで一人盛り上がって、あろうことか俺にキスしたんだ」
な、何いいぃぃぃ!!
「全く、酔っ払いは困る。服を脱ごうとするのを止めるのに必死だったよ」
何てことだ……オ、オレのファーストキスの相手がクレイだったなんて……。
オレは二度と酒なんて飲まないと心の中で誓った。
「やっぱり、お二人はそういう関係だったんですね」
落ち込むオレの止めを刺すかのようにヒューが得心して言う。
ち、違う!と叫ぶ気力も既になく、がっくりとうなだれるオレ。
それを気にも留めずにクレイは話を続ける。
「そういや、ヒュー。ルマは詳しいのか?」
「いえ、実は来たのは2回目なんです。都会にはあまり縁がなくて……」
「奇遇だな、俺も二度目だ。まあ、確かに修行には都会は不向きだからな」
「ですから、武闘大会が楽しみなんです。クレイも出場するんですか?」
「いや、俺は出ない」
クレイは街並みを見ながら、そう言った。
えっ、クレイ出ないの?
「何故ですか? お見受けしたところ、相当な腕の持ち主と思いますが……」
ヒューも不思議そうに訊く。
「他にやることがあるのさ」
ニヤッと笑みを浮かべるとそれ以上は語らなかった。
何だろう? やることって……嫌な予感がする。クレイの言葉を怪しみながらも、オレは右にクレイ、左にヒューを従える格好で大通りを中心街に向かって歩いていた。
ふと、視線が気になり、顔を上げると沿道の人達がオレ達を遠巻きに見ているのがわかった。
「ヒュー! あんた、さすが有名人だな。みんなが注目してる」
オレが感心したように言うと、ヒューは首を横に振りながら答える。
「何を言ってるんです。皆が見ているのは貴女ですよ、リデル」
へ? …… 何で?
「そんなにおかしな格好してるかな?」
やっぱり、ひらひらがまずかったか……クレイの奴め。
オレが自分の服を気にしていると、ヒューは呆れたように続けた。
「リデル、貴女、鏡を見たことないんですか?」
「え、普通にあるけど、何で?」
「それでは、自分の魅力を自覚なさい。皆、貴女の美貌を噂しているのですよ」
嘘だろ? 少しは可愛くなったかもしれないけど、そこまではないだろう。
そう思い、軽く右手を上げてみる。
たちまち、沿道の男どもがざわざわ騒ぎ出す。
何なんだ、これは。思わず、頭を抱えたオレを、突然クレイが後ろから抱き上げる。
「な、何するんだ!」
オレが怒るより先に、周りの野郎どもが一斉に非難の声を上げる。その非難を浴びながら、クレイは悦に入っているようだ。
何が嬉しいんだ……よくわからん奴め。
思い切り肘鉄を食らわして、クレイから離れると歓声が上がる。
お、お前らも……何が嬉しいんだ。
真剣に来た道を引き返したくなった。クレイは、ギャラリーに自分が無傷であることをアピールすると、
「見ろ、リデル。これが……スカートの魔力なのだ!」
と、自信満々で力説する。
そうか、そうなのか…………って信じるか、馬鹿クレイ。
一年前の男らしく優しいお前は、いったい何処へ行った?
オレは何だか無性に悲しくなった。
「そんなに好きなら、お前が穿け!」
オレは蔑んだ眼で言い放つと、ずんずん歩き始める。
まったく男どもときたら、何を考えているんだ……い、いかん! だんだん女性的発想になってきてる。
だ、大丈夫か? オレ……。
今後に不安を感じていると、歩調を合わせて横を歩いていたヒューがオレに尋ねた。
「リデル、ここからだと闘技場が近いのですが……。とりあえず、大会への登録を済ませた方が良くはありませんか?」
もっともな意見だ。
クレイにも、こういう建設的な意見を述べてもらいたい。
「そうだな。大会に参加できないと意味ないし……」
「そうですね」
確か、参加希望者が多いと、予定より早く受付を締め切る年もあると聞く。
「お~い、先に行くなんて、ひどいじゃないか」
後ろからクレイが追ってくるのがわかる。
「ヒュー、馬鹿は放っといて、闘技場に行こう!」
「いいんですか?」
「いいんだ!」
クレイの呼びかけに振り返らず、オレは闘技場へ向かった。