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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
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価値観の相違とオレ 後編

 オレの体調は気にしなくていいから、なるべく早く話をしたいと伝えたら、シンシアはすぐにその機会を設定してくれた。


 さすがはシンシアだ。


 夕食が終わった後に、時間をもらえる約束を取り付けてきてくれた。


 おかげで午後一杯、身体を休めることができたので、オレとしてはありがたかった。

 アレイラに会うことを急いだ理由は、時間が経ってから昨日ガレアに会ったことを話すと、秘密にしていたと変な風に誤解されるのを避けたかったからだ。


 お世辞にも美男子とは言えないガレアだけど、アレイラには違って見えるらしい。

 恋は不思議だ。


 実際、こういう男女の色恋沙汰はオレには向いてないから、早めに決着をつけたかったのも本音だ。


 夕食後にアレイラの部屋に出向くと、アレイラとレベッカだけでキュールの姿は見えなかった。


「レベッカ、あなたも食事をとってきなさい」


 そうか、夕食後というのはそういう理由か。

 従者は主人と一緒に食事をとらないから、席を外させるには丁度いい。


「はい……でもお客様がおいでですので」


「リデルは客などではありません。気遣いは無用です」


 二人だけで話したかったから、別にいいんだけど。

 はっきり言われると、ちょっとムカつく。


 アレイラは困った顔をするレベッカを無理矢理、追い出すとオレに向き直って言った。


「それで、わたくしに話って何ですの?」


「いや……昨日の話、キュールが来て中途半端に終わっただろ。少し気になって……」


「ああ、その話なら、気にしなくて結構よ。もう終わったことです」


 アレイラは、そんな事のためにわざわざっていう顔をする。


 会えなかったことで、ガレアのことは諦めようとしているんだろうか。

 もし、そうならオレは彼女の決心を鈍らせてしまうかもしれない。


 そう思いつつ、意を決して切り出した。


「アレイラ……あの後あの場所でガレアに会ったんだ」


 アレイラは大きく目を見開き、息を呑んだ。

 そして、動揺を隠すかのように淡々と答える。


「……そう。で、ガレアは何か言っていました? どうせ我が儘なわたくしに嫌気がさして会いたくなかったのでしょう」


「ち、違うよ、アレイラ」


 オレは慌てて否定する。


「ガレアはずっとアレイラのこと心配してたんだ。そのために、わざわざ帝都まで来たくらいなんだから」


 本人は否定してたけど、本心はバレバレだ。


「では何故、わたくしを避けたの?」


「そ、それは……君の立場を考えて……」


「いい加減なことは言わないで! もしそうなら、始めから手紙など出したりしないでしょう」


 む、結構するどいな。


 返答に窮したオレは考えるのを止めた。


 オレ的には、ここは下手に言い繕うより真実を伝えるほうが上手くいきそうな気がする。


「アレイラ……実はガレアの正体のことなんだけど……」


 オレはガレアから聞いた話を包み隠さず伝えた。





 話を聞き終わるとアレイラは黙り込んだ。


 オレはアレイラの様子が心配になって、急いで自分の考えを口にした。


「今、話したとおり、ガレアがアレイラを騙していたことは紛れもない事実だ。裏切られた気持ちになったり、腹を立てるのも当然だと思う」


 アレイラは黙ったままだ。


「けど、これだけは言っておきたい。出会った経緯いきさつはともかく、彼が君に対して抱いている想いは嘘じゃない。それはオレが保証する」


 勝手に保証しちゃったけど、オレは自分の直感を信じている。


 オレの勢いに押されたのか、アレイラが囁くように声を出した。


「そんなことわかってた……でも、もういいの……」


 わかってた?


「それ、どういう意味?」


「彼がトレジア家から送り込まれた人間であることなんて、最初からわかっていたわ」


「そんな! じゃあ何故、ガレアを身の回りに近づけさせたんだ?」


「お父様の考えよ。敵方の人間さえ意のままにできないようでは、帝国を動かすことなど覚束ないと……」


 始めからわかっていた…………それなら、彼への想いは?


「ガレアに心を寄せて見せたのも、侯爵の指示なのか」


 アレイラは一瞬、戸惑う目をした後、視線を逸らす。


「それは……そのとおりよ」


「アレイラ……」


「当たり前でしょう。今までどれだけの男がわたくしの血筋や財産を狙って近づいてきたと思っているの? ガレアのような手合いに引っかかるなんて、ありえないことだわ」


 口ではそう言いながら目を合わせないアレイラにオレは、そっと近づくと彼女の肩を押さえた。


「アレイラ……本心を言ってくれ。そしたらオレ、何でも協力するから」


 望むなら、ガレアにも必ず会わせてやる。


 思わず掴んだ肩に力が入ると、アレイラは顔を上げ、まっすぐオレを見つめた。


「本心も何も、言うことに変わりはありません。ガレアは去り、わたくしも終わったと言っているのだから、もうそれでいいでしょう? あなたがとやかく言う権利はない筈よ」


「アレイラ!」


 大声を出したオレに対し、アレイラは静かに、けれどはっきりとした口調で答える。


「わたくしは侯爵家の娘。人を好きになることは自由でも、結婚はわたくし個人のものではないのよ」


「侯爵令嬢だから好きな男と結婚できないなんて、おかしいだろ」


 納得できなくて反論すると、アレイラは慰めるように優しく言う。


「貴族……特に高位の貴族はそれが普通なの」


 いつものような貴族でないものを見下すような言い方ではなかった。


「わたくし達、貴族は神や皇帝陛下から多大なる恩恵を受けているわ。爵位や、それに伴う所領であったり役職であったり、平民では決して手にすることができないものばかり。けれど、権利には当然、義務を伴うもの……」


 義務?


 貴族って、先祖代々の権利に胡坐をかき、暇を持て余して、金を無駄に使う連中のことじゃないのか。


 オレの表情から考えを読み取ったのか、アレイラは続けた。


「リデルが思っているような一日中遊び呆けている貴族もいないとは言えないわね。でも、高位になればなるほど、領地や国での責任は重くなり、暇を持て余すなんて、到底無理な話よ」


 えっ、そうなの?


「所領を経営するのは、並大抵のことではないの。内政や治安、そこに暮らす領民の生活から国に納める税金まで、やらなければならないことは山ほどある」


 うえっ……そういうのって、一番苦手なんだけど。


「もちろん、それを補佐する多くの人間を雇ってはいるけど、その人材管理にしたって簡単ではないことぐらいわかるでしょう?」


 確かに、人を動かすのは難しい、とてもオレにはできない。


「当主の考え一つで領地が繁栄するか衰退するか左右されると言っても過言ではないわ。遊び呆けてごらんなさい。たちまち、領地経営が傾くこと請け合いよ」


「でも、優秀な部下に任せて、遊び呆ける貴族だっているだろうに?」


「確かに、そういう者もいるでしょう。けれど、それで自分の所領と言えるのかしら。わたくしは、そういう者を同じ貴族と思いたくない」


「と、当主はそうなのかもしれないけど、子どもはどうなんだ。親の威光を笠にきたり道楽したり……」


「家名を継ぐ者はもとより、その他の子弟も家の繁栄を願って団結して働くものよ、普通は。そして、娘は……」


 アレイラは視線を落とすと言葉を続けた。


「他家へ嫁いで、その家との関係を深めたり、優秀な人材がいればその者を婿に迎え、主家の力を高めるために生きる……」


 それが、義務か……。


「つまり、アレイラもテトラリウム家のために、アルフ公子と結婚するってことか」


「そのようね」


「でもアレイラ、あんまりアルフのこと好きじゃないように見えたけど……」


「公子様を呼び捨てにするのはお止めなさい。それに好悪はこの場合、関係ないわ。あるのは家にとって有益か無益かだけ」


 自分の未来を淡々と述べるアレイラにオレは呆気に取られた。


 どうやら、本気で言ってるみたい。

 貴族様の結婚観ってやつは、オレの単純な頭では理解できない代物のようだ。


「アレイラの言い分はわかった。もう、余計なお節介はしない……ただ、最後に一つだけ聞きたいことがある」


「何かしら」


「じゃあ、何で街壁の外までガレアに会いに行ったんだ?」


「…………」


 アレイラは唇を噛んだ。


 オレはアレイラがスカートを強く握り締めるのを見ながら、さらに尋ねた。


「待ち合わせ場所に行くまで、あんなに楽しげにガレアのことを話していたのも演技だったのか? オレにはとてもそうは見えなかったけど……」


「…………」


「アレイラ……」


「もう、そのぐらいにしていただけませんか?」


 いきなり、背後から声をかけられて、ぎょっとなる。


「キュール……」


 すがるような小さな声でアレイラが呟く。

 振り向くと入り口の扉を背に佇むキュールの姿があった。


「入室の許しもなく部屋に入ったことは謝ります、申し訳ありません。しかし、アレイラ様を苦しめるような仕打ちを見逃すことはできません」


 オレがアレイラを苦しめているって……?


 そんなつもりは全然ないけど。


 って言うか、キュール普通にしゃべれるんだ。

 けっこう可愛い声でびっくりした。


「アレイラ様が、考えをお変えになったのは私が意見したからです」


 いきなり核心に触れるのか。


「どういうことか説明してくれる?」


「いえ、簡単なことです。アレイラ様が姿を消せば、護衛の私は責任をとって自害するより他ないとお伝えしただけです」


 なるほど、誰かが責任を負う……それじゃ逃げられない。


 ましてやキュールのこと幼馴染の友だちって言ってたもんな。


「キュールのことは関係ない。わたくしが決めたことです。よく考えてみれば、わかりきった話でした。わたくしには、始めから他の選択などありえなかった……ただ、それだけのことです」


「でも、アレイラ……」


「キュールも誤解しているようなので言っておきますが、わたくしは必要なら誰であろうと切り捨てます。自分のせいなどと思いあがらないで欲しいわ」


「申し訳ありません、アレイラ様」


 キュールが神妙に頭を下げる。


「リデル、これではっきりしたでしょう。話は終わりました。これは、わたくしの意思です」


「でも……アレイラ」


 オレは繰り返さずにはいられなかった。


「君、泣きそうな顔してる……」


 思わず声をかけようと近づくと彼女を庇うようにキュールがすっと間に立った。


「リデル様、これ以上はお許し下さい」


「けど、アレイラが……」


「お引取り願います」


 アレイラの表情が見えないようにオレの前に立ったキュールは黙って頭を下げる。


 納得はできないけど、引き下がるしかなかった。

 これ以上はオレの立ち入る範囲を超えている。


 釈然としない気分のまま、オレはアレイラの部屋を後にした。


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