魅惑のルマ観光わくわくプラン②
当時のオレは既に、その辺のベテランよりも腕は確かで、クレイとのコンビは仲間内でも一目置かれていた。
そして、オレ達が参加したのは、ここ数年で稀に見る大規模な局地戦だった。戦闘は敵であるライノニア有利に展開され、オレ達が守っていた左翼が突破されると、非常にヤバイ状況だった。必死に防戦したが、味方は浮き足立ち、敗走は時間の問題のように見えた。
「リデル、最後に大暴れする! 相手がびびったら撤退するぞ」
「了解!」
オレ達は味方の撤退の時間稼ぎのために、乱戦の中に飛び込み暴れまくった。その時のクレイの凄さは、敵はおろか味方さえも畏怖したほどだ。
オレはクレイの後ろに付き、奴のサポートをしていたが、目の前に立派な鎧を装備した騎士が突然現れた。乱戦中に起こる出会い頭の戦闘という奴だ。
こちらが軽装備とわかると、相手は余裕の面持ちで戦いを挑んできた。オレは牽制するつもりで、持っていた槍を思い切り相手に放った。フルプレートに対して効果があるとは思わなかったけど、逃げる時間を稼ぐのにちょうど良い目眩ましだと思った。
ところが、その槍がちょうどオレに突進していた相手の鎧の隙間から首筋に突き刺さった。
騎士は首から血しぶきを上げて倒れ込んだ。
戦場でよく起こる偶然の産物と言えたが、それだけの筈だった。
ただ、違ったのは相手が部隊長格の騎士であったということだ。
指揮官が倒され、一瞬にして一部隊が恐慌状態に陥った。すると、それが他の部隊へ次々と伝播し、左翼を攻めていた部隊がなし崩しに壊走状態となった。
戦いは士気によるところが大きい。一見すると勝っている状況に見える時も、見方を変えれば一番危険な状況にあるというのは往々にしてある。逆もまた然りだ。
勝敗の帰趨は、あっという間にカイロニア軍に傾いた。
オレ達は何が起こったかわからない内に大勝利していた。後に『第4次カンディア紛争』と呼ばれたこの戦いの終了後、オレ達は正規軍の部隊長に呼ばれた。
公爵様は、この戦いの勝利がよほど嬉しかったのだろう。なんとオレ達の部隊に報酬以外に報奨金をくれるというのだ。しかも公爵自らが直々に労いの言葉をかけてくれるらしい。
公爵の労いなんて、どうでもいいが報奨金は嬉しい。
オレ達が喜んでいると、蔑んだ眼で見下ろすと部隊長は続けて言った。
祝典にその汚い身なりで出るのか? 少しは綺麗にしろ!
今度、ライノニア軍に所属したら、真っ先にお前の部隊をやっつけてやると内心思いながら、水浴びをして着替える準備をした。
祝典は退屈だった。
オレ達は跪いて、公爵の話を聞いていた。頭を下げているので、どんな顔なのか見えやしない。
ま、見たいとも思わないけど。
公爵の長い話がようやく終わると、側近が面を上げろと言う。
嫌だね、えらそうに。全く、形式ぶって面倒で敵わないぜ。
渋々、オレは顔を上げて、そこで固まった。
目の前に女神がいた。