魅惑のルマ観光わくわくプラン①
オレ達は、カイロニアの公都ルマの外縁にたどり着いていた。
「やっぱり、よく似合う」
クレイは喜色満面でオレを見つめた。
「本当ですよ、とても可愛らしい」
ヒューもニコニコしている。
当のオレは仏頂面だったが、内心は少しテンションが上がっていた。
白で統一された衣装はシンプルだけど、絹をふんだんに使い高級感と洗練さを感じさせるものだった。 都で流行っているというデザインはクレイのこだわりと趣味をよく表していた。
特筆すべきは、オレがスカート付きズボンを穿いていることだ。
オレからすれば、これはズボンであり、ひらひらした布は飾りだ。クレイの見解は異なるようだが、異論は一切認めない。
オレとクレイの平行した議論は、双方の意見を取り入れるというヒューの主張で歩み寄る結果となったのだ。とにかく、お互い納得したので問題はないのだが、クレイとヒューの賛辞を受けて、オレは恥ずかしくて逃げ出したい衝動に駆られていた。
「それにしても、相変わらず、でかい街だな」
クレイは、オレが逃げ出さないように頭を押さえると、撫でながら感慨を述べた。
「確かにな……って、頭撫でるな!」
オレは頭に置かれたクレイの手を振りほどこうとして……止めた。
何故だろう?
心地よい感じがして、そのまま触っていて欲しいような気がした。
次の瞬間、我に返り慌ててクレイから離れた。
何だ、今のは?
きっと、これはスカートの呪いに違いない。
オレはクレイを睨みながら、スカートに固執する奴の執念に恐怖した。
オレとクレイがルマに来たのは二度目だ。と言っても結構長く滞在したので、懐かしささえ感じる。
そして、オレはこの街で彼女に出会った。
エクシーヌ公女……彼女は領主であるカイロニア公カイル・デュラントの娘なのだ。
もう、一年も前の話になるのか。思い出しただけでも、うっとりしてしまう。
それは忘れられない出会いだった。
目の前に近づくルマの街壁を見ながら、そんな事を考えていた。
そうだ、その前に面白くないけど、ちょっと歴史のおさらいをしとこう。
カイロニア公国はイオステリア帝国内にある公国なのだが、その権勢は帝国を二分するものだ。そもそも、先々代のイオステリア皇帝デュラント三世には、三人の息子がいた。長子アイルと双子の次子ライルとカイルだ。当然、長男であるアイルがデュラント四世として皇帝となった。しかし即位当時、三世は健在で神帝を称し、帝国法を超越した存在となっていた。
四世アイルが皇女を産んだ正妃しか娶らず、また彼女の死により男子の世継ぎを望めないことを知ると、神帝は宣言した。弟のライル、カイルの息子のどちらかで、皇女アリシアと結婚した者に帝位を継承すると。
これは帝国法の帝室典範に定められた『帝位継承権に男女の区別を求めず』に抵触する内容だったが、神帝の取り決めに否を申す者はいなかった。イオラート教の教皇ナウル二世により神託として明文化され、正式な帝位継承条件となるに至った。
そして、その直後絶大な権勢を誇った神帝が急逝した。
実質上、真の皇帝となったアイルは政局を無難にこなし、帝国の安定化を図ることに成功した。けれども、四世を補佐すべく公爵に任じられた筈のライルとカイルは、神帝が残した条件により、次第に事あるごとに反目するようになり、帝国内に派閥が生じた。
だが、ライルとカイルの息子がそれぞれ5歳と4歳、アリシア皇女に至ってはまだ2歳であり、四世自身も27歳の若さであったため、継承問題は先の話であるというのが、当時の認識であった。
ところが、事態を一変する出来事が発生する。
皇帝デュラント四世と皇女アリシアの遭難である。
避暑地を訪れていた皇帝達の乗船した皇帝専用船が嵐により沈没したのだ。帝位継承権のある二人が行方不明となり、帝国は混乱した。ライルとカイルはそれぞれが即位を宣言し、皇帝を称すると、国内の諸侯が両派に分かれ、帝国を二分する内戦へと発展した。
それが今から遡ること15年前の話だ。
現在は二度の内戦(第一次双子戦争、第二次双子戦争)を終え、国境での小競り合いは多少あるけど、ゆるやかな休戦状態にある。内戦が決着がつかなかったこともあり、さすがに皇帝を僭称することはなくなったが、両陣営の盟主であることに変わりはなかった。
帝国運営はライノニア陣営とカイロニア陣営の代表により暫時的に運営される形となった。ライノニア公ライル・デュラントとカイロニア公カイル・デュラントが事実上のイオステリア帝国の為政者であり、口さがない者は双子の皇帝と呼んでいる。
その双子の片割れがエクシーヌ公女のお父上という訳だ。
そして紛争の絶えないこの国は、オレ達傭兵にとっては最高の稼ぎ場所だった。一年前のオレとクレイはそのカイロニアの傭兵部隊にいた。