五話 生徒会長
これで一通りキャラ出てきたかなあ。
部室の扉を開いた瞬間、自身の体が硬直するのを自覚する。
「おや…………二人とも、いらっしゃい。秋クンはおかえり、かな?」
俺の背後で桐原も硬直している。まあそれもそうだろう、一体誰が予想できると言うのだ。
部室の扉を開けたら、裸エプロンの部長がいる、などと。
部室の中にいた鏡は完全に無視でPCの画面に視線が固定されているし、霊は「うわぁ……」と言いたげな引き攣った表情で、奏は爆笑していた。
さて、桐原は完全に動きが止まっているのだが…………俺はどうすればいいのだろうか。
正直部長は美人なので、裸エプロンとか俺的には目の保養なのだが、さすがにこの状況のまま放置するのは常識人と自称する俺にはできない行為で…………。
「何をしているんですか、部長」
俺のそんな問いに、部長、夕澄剣は不思議そうな顔で答える。
「裸エプロンだけど?」
「いや、それは分かってますけど」
「似合ってない?」
似合っているか、似合ってないかで言えば似合っている、なまじ元が美人なだけに、一種背徳的でもある。
だが俺の言いたいことはそういうことではなくて。
「取り合えず、服を着てください」
「え~」
何故そこで不満そうな声が出るのか分からないし、そもそも男の前で裸エプロンでいることに羞恥心は無いのだろうか?
さすがにこちらが退くわけにも行かないので強く言うと、部長は渋々と言った様子だが、おずおずと服を着出す。
裸エプロン見ておいて今さらだが、着替えを見るわけにもいかないので部室から出ておき、代わりに桐原を中に入れる。
三十秒ほど待って部室をノックし、入ってもいいか尋ねると部長の了承の声。
部長の了承、と言うところにやや不安を感じつつ入ると、部長はちゃんと服を着ていたのでほっと胸を撫で下ろす。
「良くやったってんです…………本当に良くやったってんですよ」
部室に入ると、霊がやってきて、俺に向かってそう言って肩を叩く。
非常に珍しい光景なのだが、相手が相手なだけに仕方ない。
苗字で分かると思うが、部長と鏡は姉弟だ。
一つ年の差があるのだが、双子かと思うくらいに良く似ていて、鏡をもっと腹黒くして、突拍子の無さとノリの良さを付け足すと、部長になる、と言っても過言ではないくらいだ。
そんな部長だが、不思議なくらい霊は苦手意識を持っていて、何故か部長相手だと借りてきた猫のように大人しくなる。鏡相手にでさえ少なくとも元気に擦り寄っているのに、だ。
俺としてはたしかにとんでもない人だとは思うが、霊のようになるほどでも無いので、何故か部長相手の時だけはこういう光景が見られる。
さて、余談だが。
ゲーム同好会などと言うどう考えても却下されそうな部活動が創られたのはひとえに部長の力であると言って良い。
何せ部長は、夕澄剣は…………。
この学園の生徒会長なのだから。
つまり…………権力のごり押しでこの同好会は創られた。
本来ならそんな職権乱用は免職になってもおかしくは無いのだが。
何せこの部長、外面だけは無駄に良い。
成績優秀、品行方正、誰にでも優しく、誰からも慕われ、学園内での人気は高く、教師からの評判も良い。
学園のカリスマと呼ばれたりもする…………何せ。
部長が生徒会長に立候補した次の日には、他の立候補者全員が会長への立候補を辞退したという伝説を持つくらいだ。
まさしくパーフェクト超人、全校生徒の憧れ、生ける伝説…………まあ表向きは、だが。
その実態がとんでもない腹黒生徒会長だと言うのはゲーム部だけの秘密だ。あと多少変態だったりするが、これはまあ良いだろう。
と、まあ。そんな部長が作ったゲーム同好会だけに、多少のごり押しはあっさりと認められた。
批判の声すら出させずあっという間に同好会を一つ作り上げたその手腕はさすがとしか言い様が無い。
「さて、残すところあと二十分を切った同好会だが、少しばかり童心に返って遊ばないかな?」
そう言って部長が取り出したのは…………トランプ?
「鏡はどうするかな?」
「ん…………? ボクか、そうだね、一緒にやっておこうか」
部長の問いに、鏡が視線をこちらに向け、次いで時計を見てからそう言ってマウスを数度クリックするとディスプレイの電源を落として中央の机にやってくる。
「楓クンも良いかな?」
すでに着席している霊と奏を見て、最後にさきほどから立って俺たちのやり取りを見ていた桐原にも尋ねる。
「あ、はい…………参加します」
桐原は基本的にパーティーゲームなど複数人で出来るゲームを好むので、こう言ったものには良く参加する。
俺もどうせだから、と着席し最後に部長が全員が座ったのを見て満足気に頷いて座る。
――――
鏡| |桐原
霊| |
| |俺
――――
奏 部長
因みにこんな感じで座っている。
「じゃあ残り時間も少ないし、分かりやすくババ抜きでも良いかな?」
トランプは意外と遊び方が多いカードだが、誰でも知っている、となるとババ抜きか大富豪だろう。
次点で七並べ、ダウトなどだろうか?
ジジ抜きと言うのもあるが、あれはババ抜きの亜種だろうし。
「ああ、因みに、ボクは参加しないから、見てることにするよ」
そう言って部長が五十三枚のカードを均等に配り終えると、それぞれが手札の中から揃った数字を抜き出し中央に捨てていく。
俺の手札の残りは『♠9 ♣3 ♣Q ♣K ♥6 ♥10 JK』の七枚、最初からババを持った状態だ。
「じゃあ最初は楓クンからで良いな」
部長の一言により、楓が俺から一枚引く。
引いたのは♣9。そして♥9と共に中央へと捨てる…………残りの手札は。
「桐原もう三枚かよ」
俺が六枚、奏が六枚、霊が八枚、鏡が十枚とまだまだあるのに比べ、桐原は残り三枚。
鏡が一枚引くことを考えれば、あと一週で桐原は勝つ可能性がある。
「早いな……」
カードを配ったのは部長なので不正は無い。と言うことは純粋に運か……すげえな、と思いつつ奏から一枚引く。
引いたのは♠6。♥6と共に捨て、残り五枚。
「さて、私の番ですね」
奏が霊から一枚引く。カードを捨てないということは、揃った数字が無かったらしい。
「私の番だってんですか」
呟き霊が鏡から一枚引く。八枚もあるのだから何か揃うかと思ったが、どうやら揃わなかったらしく何も捨てなかった。
「やり始めると意外と緊張するよね」
楽しそうに鏡が桐原が引く。それからAのペアを捨て、桐原の番。
「運が良ければこれで終わりそうですね」
そう言って俺の手札から引こうとする桐原。とここで、JKを真ん中に置き、あえて少し突き出してみると、あっさりそれを引く。
「………………」
無言で自身が引いたJKを見つめる桐原、けれどその頬が引き攣っているのを俺は見逃さない。
さて、それから四週から五週をし。
現在、桐原一枚、俺二枚、奏二枚、霊二枚、鏡二枚の接戦となっていた。
ババ抜きなんて簡単なゲームなのに、接戦になると白熱するもので、当初の楽観的な雰囲気は今や消え去っていた。部長は楽しそうにその光景を眺める。
そして今は俺の番。俺の手札は♥10と♦A。奏から10かAを引けば自動的に次のターン上がりとなる。
「これだ!」
そう言って俺が奏の手札から引いたのは…………♦10。
「うし!」
思わずガッツポーズ。桐原が俺より先に上がるとは言え、これで一応二位は確定。
「っく…………これで決めます!」
そう言って奏が霊から引き。
「上がりです!」
そう言って中央に自身の手札を叩きつける。
「っくそ!」
これで最大でも三位確定か。だがまだ霊たちもいる……油断ならない。
「……………………」
霊が真剣な眼差しで鏡の手札の二枚を睨み、一つを手に取る。
それを見た瞬間、霊の表情に絶望が浮かぶ。
(((((絶対にJKだ)))))
あまりにもわかりやすいその表情に俺たち全員の心が一つになった。
それから鏡が桐原の最後のカードを引き、桐原が二位に。
だが鏡は揃わなかったらしく、手札を捨てない。
ふと鏡を見ていた俺は、その時、鏡の目が細められるのを見た。
それから桐原がいなくなったので俺の♦Aを鏡が引き取り…………。
「ちょっと待った」
怪訝そうな表情でそう言った。
「今ボクが三枚、タマちゃんが二枚持ってるよね? ボクはババを持っていない、と言うことはタマちゃんが持っている片方がババ。っとするとおかしくないかな?」
鏡の呟き、部長がすぐさま気づいたらしく「っあ…………」と言う声を上げる。
鏡が三枚、霊が二枚、で霊の片方がババ………………え?
例えば、次のターン、霊が鏡から一枚引く。
それが霊も持っている数字と揃うとする。
霊の残りのカードはババ。この時点で鏡のカードは二枚とも数字。
だが鏡はこれを捨てていない。つまりこれは不揃いの数字。
残りのカードは不揃いの数字二つとババ。
つまり。
「これ…………二枚くらいカード足りなくないかなあ?」
「「「「「…………………………」」」」」
さきほどまでの熱気が一気に冷えていくような感覚。
「…………さて、良い時間だし、本日の部活はこれで終わりにしようか」
「「「「「待て」」」」」
何食わぬ顔で退室しようとする部長に全員で待ったの声。
「ふ…………ふふ、ここは…………三十六計、逃げるが勝ち!!」
「あ、逃げた」
「追いかけやがれってんです!!」
「絶対に捕まえますよ!!」
「に、逃がしません!」
「待ちやがれ、この!」
そうして、疲れ果てた全員がダウンするまで俺たちの追いかけっこは続いた。
ゲーム同好会規則:トランプで遊ぶ前には必ず七並べを一度すること。
序盤は終わったので次はキャラ紹介書きます。