誓い
あれからも自分はひとつの食糧も捕れていない。母は相変わらず多くの食事を持って帰ってくる。その日が来たときに本当にどうしようか…。でも、あの日に出会ったあの人のことのほうが、今の自分の思考の大半を占めている。
あれから自分は少しの食糧を持って、あの日あの人に出会った場所に通い続けた。最初はあの人は現れず、もう会えないのかと考えていた。それでもなぜか諦めきれずに通い続けていると、ぽつぽつとあの人が現れるようになった。
「あ…あの時の…」
「ど…どうも…。良かったらコレ…」
「え…?コレって…」
「食べ…食べてください!」
そう言って走って家に帰った。それから少しづつ会う回数が増えるたび、交わす会話も増えていった。
「今日もありがとうございます」
「いやいや、これぐらいなんてことないですよ!」
「私は全然食糧を捕れなくて…」
「これからも少しずつ持って来ます」
「…ありがとうございます!…ところであなた様はこの辺りに住んでらっしゃるんですか?」
「はい…!すぐ近くに母と住んでます!」
「お母様と…それは素晴らしいことですね!」
「一緒は一緒で大変なこともありますよ、、」
「まあ、それは大変素晴らしい」
彼女の笑顔は太陽より眩しく、彼女の声はコオロギたちが奏でる歌声よりも幻想的で美しかった。死ぬまで彼女の笑顔と声を見つめ続けられたら…聴き続けられたら…。そう考え始めたころから、自分自身の変化に気づいた。今までより食糧を捕りに行く回数が増えていたのだ。…まぁ相変わらず未だにひとつの食糧も捕れてはいないけど…。
彼女とほぼ毎日会うようになっていた。要するに毎日の自分の食事を少しずつ、彼女に貢いでいたのだ。
(彼女は自分を頼りにしてくれている。自分が母を頼りにしているように…)
それが自分にとっては至上の喜びで、少しの躊躇いもなく彼女と過ごす時間を楽しんでいた。
ある夜のことだった。
「毎日毎日すいません…。」
「いやいや、なんの問題もないよ!」
この頃には自分は彼女と普通に接することができるようになっていた。
「…でも凄いですね!毎日私に食事を持って来る余裕があるほど食糧を捕るのがお上手で…」
急に全身が熱くなった。なぜなら自分が今まで彼女にあげた食事のすべては、母が捕って帰ってきたものだったから…。
(どうする…正直に言うか…?今までのはすべて母の捕って帰ってきた食事だって…。この歳で母に養ってもらってると…?そんなこと言ったら確実に嫌われる!…いや、でも嘘つくほうが嫌われるんじゃ…)
「ど…どうされました…?」
その言葉で我に帰った自分が見た彼女の顔は、やはり美しかった。そして自分は自分自身に誓った。
(必ず自分が捕ってきた食糧で彼女を笑顔にしてみせる。)
「あ、うん、大丈夫。また来るよ」
「はい!私もまた来ます」
おそらくは太陽より眩しかったであろう笑顔を見ることなく、振り返って家路に着いた。少しずつ蒸し暑くなってきた夜に、カラカラの風が気持ちいい。そんな感傷に浸りたくなるような、不思議な気持ちだった。




