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情けない自分と母より凄い父親

 トンボの交尾があちこちで盛んに行われる季節も過ぎようとしていた。大体あいつらは恥ずかしくないのか!?そう心の中で文句を言いながら、今日も生きていくための食糧を確保しに草むらに出かける。そろそろ食糧になりそうなものが減り始める時期だ。本格的にどうにかしなくちゃ…。

 「うおおお!」ザシュッ…

 「くそぉぉ!」パシュッ…

 まったく捕れる気配がない。捕れる気もしない。聞こえてくるのは空を斬ってその先にある草を切断する音だけだ。

 

 なんでだろう…なんで自分だけが…?自分の兄弟たちの、いわば“生きていくために必要な能力”の高さを知らされ、またそれが低い自分が兄弟たちから軽蔑されている。そんな現実を目の前に突きつけられて、もはや頼みは母しかいない。そう考えて家に帰った自分を見て、母は言った。もちろん大量の食事を抱えて。

 「どうしたの?ずいぶん疲れてるみたいね」

 「いや…今日もダメだった…」

 「そう…」

 気まずい沈黙が家に流れた。しかし自分は母が手に抱えている食事を見て安心していた。なんて情けないんだろう。母は食事を床に置いて言った。

 「あなたのお父さんはね、それはもう凄い人だったのよ。」

 自分は父親を知らない。自分が母から産まれたときにはもうこの世にはいなかった。自分たちの種族はそういうものらしいと、この前友人たちが話していた。

 「母さんより凄かったの?」

 「私なんかより全然よ。いつも食べきれないほどの食事を持って帰ってきては腐らせてしまってたんだから。」

 驚愕した。自分の父親がこんなにも凄い母よりも凄かった、という事実にではない。

 「え…?食事って腐るの?」

 「それは腐るわよ。大体が死骸なんだから。そうねぇ…普通は1日経てば腐るわ」

 最悪の事実だった。今まで大事に保管していた食事たちは今ごろはすべて腐ったゴミと化しているのか。今までの努力はなんだったんだ?

 母から自分の父親の話を初めて聞いたというのに、自分はそんなことばかり考えていた。つくづく、本当に情けない男だ。

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