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〜6〜

彼と別れてから僕はまっすぐ家に帰った。

駅から徒歩三十分。

しゃれた店が窮屈そうにひしめき合った通りを抜け、派手な看板をいくつも掲げたみすぼらしい商店街を抜け、我が物顔で立ち並ぶ住宅地の端っこから少し先に、そのマンションは建てられていた。狭い土地に無理矢理押し込めるように建てられたマンションだった。目の前には駐車場の代わりに小さな公園があり子供たちが無邪気に遊んでいる。僕は全体をモスグリーンに染められた、五階建てのマンションの入り口の前で足を止めた。チラッとだけ子供たちの悲鳴にも似た叫び声に目を向けてから、やることもなく部屋に向かう。

2DKのその部屋は父親と二人で住むには十分な広さだった。僕は自分の部屋に戻ると部屋着に着替えてから、パイプベッドの枕元に無造作に置かれた目覚まし時計に目を向けた。目覚まし時計は僕と目が合うと口をへの字に曲げて

「五時四十分だよ。見りゃ分かるだろ」

と不機嫌に時間を教えてくれた。

「もうすぐ六時か……」

そう呟いて目覚ましに目を留める。すると、目覚ましは、背中から甲高い音を鳴らした。

「んだよ、文句あんのかコラ!」

「そんなことないけど」

僕はそう呟いて頭をぽんと押した。すると、目覚ましはぴたりと怒鳴るのをやめた。

「それならいいんだよ。ほら、さっさと行ってきな」

確かにそんな声が聞こえた。僕は苦笑してから

「ああ」

と返事をした。

さて。

これからやることは決まっている。テレビをつけてキッチンの冷蔵庫からお茶を出して一口だけ飲む。飲んだらそれをしまって、五分間テレビを眺めてから結局はテレビを消して外に出る。

いつものことだ。そう、ただの習慣であり、意味のないこと。

僕は小さく息を吐くと、部屋のテレビをつけた。キッチンに入り冷蔵庫からお茶を取り出してそれを飲むと、部屋に戻ってパイプベッドに座ってテレビを五分間眺めてからため息をついた。

ちらっと目覚ましに目を向ける。

「ほれ、行くんだろ」

そう言っているような気がしたけど、それは違ったかもしれない。目覚ましの口はすでにあり得ない方向を向いていた。

僕はテレビを消すと、玄関に向かった。

いつものことだ。そう、ただの習慣であり、意味のないこと。

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