〜1〜
そのとき、僕は悲しいというより先に、納得していた。
だから真美は、僕たちの前から逃げるようにしていなくなったんだって。
だから真美は、僕たちに何も言わなかったんだって。
きっと、それは僕たちにも真美にもどうすることも出来ないことだったんだ。
真美が死んだと知ったとき、僕は漠然とだけど死というものがなんなのか理解することができた。きっと、死というものはその人と僕たちとを切り離すための道具なんだ。
誰かが死んだら、その人とその人に関わった人たちは切り離される。だから、死んだ人は僕たちと同じ場所にとどまることはできない。死は、僕たちからも、そして死んだ人からもつながりを奪っていく。
真美とのつながりがなくなった。
そう感じたとき僕は初めて泣いた。
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「馬鹿ねえ、泣くことないじゃない」
「だって、真美……」
「大丈夫。私がいなくたって、浩太には公平がいるわよ」
そう言って真美は、少しはなれたところに立っている僕に視線を向けた。
「ね、公平」
「うん」
僕は悲しみを隠すのに必死で、つまらなそうに、そこに立っている演技をすることしかできなかった。
「私、もう行かなきゃ」
「待ってよ! 真美がいなくなるなんて嫌だよ!」
浩太は聞き分けのない子供のように声を上げて泣き出した。僕も、浩太と同じ気持ちだった。
「私だって」
真美はそう呟いて、下を向いた。しばらく無言でそうしていた真美は、不意に顔を上げると、浩太に抱きついた。背の低い浩太の顔は、真美の胸に埋まっていた。
「私だって嫌だよ。ずっとここにいたい。浩太と、公平と、ずっと一緒にいたい」
「だったら!」
そっと浩太から体を離した真美は、顔を背けて小さく声を出した。
「駄目なの」
「どうしてだよ!」
「浩太」
僕の声に浩太は顔を上げた。涙でぐしょぐしょになった浩太の顔に目をやってから、僕は真美を見つめた。
「別に今生の別れってわけじゃないよ。今は辛いかもしれないけど、いつか、僕たちはまたいっしょになれる」
真美は顔を上げた。僕は、真美と目が合うと小さくうなずいてから、言った。
「そうだよね、真美」
「……うん」
真美も小さくうなずいた。そして、涙を拭いながら僕の前まで来ると、浩太にしたように、僕に抱きついた。
真美の腕が、僕の首筋に絡まって、きゅっと締まった。かすかな圧迫感とぬくもりが、僕の全身を包み込んだ。
「お願い、公平」
僕の耳元で真美は呟いた。
「浩太のこと、ちゃんと見ててあげてね」
「うん」
「いつまでも泣いてたら、励ましてあげてね」
「うん」
「……ごめんね」
最後に真美はそう呟いた。僕は何も言えずに、ただ真美の細い体を受け止めていた。
やがて、僕から離れると、真美は本当に最後のさよならを言って、僕たちの前からいなくなった。
「待ってよ! 真美!」
浩太のかれ果てた声だけが、森の中を虚しく響いていた。