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競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜  作者: 元毛玉
第一部 本戦トーナメント

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第二十一話 ラストブリーフィング

『二人とも遅いですね! 僕がキーパーを狩っちゃいましたよ! 天才キーパーですからね! ハッハッハ!』


 正直、驚いている。

 周りのサポートが一切無い状況下で、ハーベストは敵キーパーを格闘でくだし、さらには自分一人で射撃を行って追加ゴールまで決めた。


『ハーちゃん、凄すぎ! 天才だよ!』

『ナックさんのお株を奪う潜伏だった。誇っていい』

『射撃もお見事でした。まぁ、私なら赤を取れていましたが……』


 仲間から飛び交う賞賛の嵐。

 全ての話題を掻っ攫われてしまった身としては立つ瀬がなく、すぐには声が出てこない。


『おやおやぁ? お二人からは褒め言葉も遅いですよ。僕は褒められて伸びるタイプですから、是非、褒めてください!』


 案外、殴るキーパーは新しい風になるのかも知れない。

 そんな未来の到来を予感し、ソルティと二人でハーベストを褒めた。


『確かにクッソ目立ってたぜ! お昇りサン!』

「全くだ。お昇りサンには敵わないな」


 ハーベストから悲鳴にも似た絶叫が発せられる。


『ちょっとちょっと! お二人とも! ライジングサンです! 間違えないでくださいよ!』


 ハーベストの苦情をチームの笑い声が迎え、合間に聞こえる実況は「新しいスーパースターの誕生だ」と騒いでいる。

 今日は強敵プロミネンスを相手に、完全撃破パーフェクトを決めた記念すべき試合になった。



 ───────────────────



「傷は癒えたか?」


 そう言葉を切ってモニタールームの中を見回す。

 全員が静かに頷いていた。


「では、対ルシファー戦のブリーフィングを始める」


 トーナメント中は打撲や捻挫といった怪我が相次いでいたが、決勝は万全で挑めるようにとの主催側の配慮もあり、数週間の休養を経て回復。

 季節は既に秋に入り、異音の声と共に奮闘していた古参エアコンも今年の役目を終えていた。


「この映像、僕何度も観ましたよ」

「あ! ウチもウチも!」


 大型モニターに映している試合は、昨年のトーナメント決勝で記憶に新しい。


「ご存知の通り、ルシファーは連覇が途絶えたことのない常勝チームだ。その中核を成すのが……」


 モニターに漆黒の機体がアップで映されたとき、映像を一時停止した。

 セブンスカイズの選手でその異名を知らない者はいない。


「空の覇者と評されることも多い、黒雷だ」


 黒雷の解説を始めたはいいが、弱点がなさ過ぎて嫌になる。

 一段落したところで皆の方へ向き直り、微かに冷たいテーブルに両手をつき、体重をわずかばかり預けた。

 ふと視界に入ったクロワが、眼鏡の奥で目を細めている。


「こうして映像を改めて確認すると、至る所に黒雷は顔を出しています」

「チェイサーだからな」


 まだ何か主張したいことがあるようなので、相槌で先を促した。


「常に動き続けているセブンスカイズとは言え、これほど1つの機体が攻守すべてに関わるなど可能なのでしょうか?」

「あー! わかるー! レギュレーション違反じゃないかってことだよね? ウチ、何度も疑ったもん」


 すかさずチーザが続く。

 MC(ミドルチェイサー)の機動力は全ポジションの中で最も高く、遮蔽物が存在せず、動き続けなければならないこの競技において有利になる。


 しかし、レギュレーションにより格闘性能、武器積載量、装甲は制限も多い。

 だから、違反を疑いたくなるのも理解はできる。

 ソルティが苛立ちを覗かせ、足を組み直した。


「んな訳ねーだろーが! 本戦トーナメントのチェックだぞ?」

「ソルティの言う通りだ。違反はない。その辺りも説明しよう」


 機動力と引き換えに熱負荷を多く抱えるチェイサーは、フルブーストを使うタイミング、そのための位置取りこそが重要となる。

 黒雷は高次元のレベルでそれを完成させ、格闘においてもスラスターの使い方が上手い。

 モニターを見上げながら眼鏡を直すクロワ。


「安全マージンの武器の威力制限(レギュレーション)を設けた結果、装甲の耐久値を活かした格闘こそが最大威力を有するのは皮肉ですね」

「クロワの言うように耐久値がそのまま格闘での攻撃力に直結している訳だ」

「では、なぜこの威力に?」


 ハーベストの疑問は最もだ。

 訳知り顔で指を鳴らすソルティ。


「あれだ! 残弾シュリンクだろ?」

「それも一つ」


 黒雷は装備をかなりシェイプアップし、独特なチューニングを施している。

 極端に弾数を節約したセットアップになっており、必要最低限で済ませているのは明白。


 外部パーツは全て追加推進動力(パワースラスター)となっており、明らかに遠距離は捨てていた。

 映像がビームの刺しあいに入ったとき、ハーベストがわずかに怪訝な顔をする。


「でも、こんなに遠距離でも貢献してるのに……」


 モニターからは、けたたましく鳴り響くビーム音、その応酬、それが遠距離でも主張を続けていた。


「黒雷の強さの秘密は、驚異的な思考の速さだ」


 質問が相次いだので、ゆっくり説明するべく映像の音声をオフにする。


「まず、チーザ。こうして試合映像を分析、研究する場合、お前ならどうする?」

「えっと……何度も繰り返しスロー(・・・)で観て」

「だからそれだ」


 第二世代の数少ない成功例でもある黒雷。

 政府は、思考速度を向上させるべく強化兵士の脳をいじったが、ほとんどが壊れてしまい使い物にならなくなった。

 クロワの呟きを耳が拾う。


「凄い能力ですね。羨ましいかと」

「そうか?」


 羨望の念には共感できない。不快に感じてしまい思わず顔を背けた。

 部屋の隅に視線を落とし、握る拳にも力が入る。

 歪む心を救うのは聞き慣れた親友の声。


「ナックは能力の試作型(プロトタイプ)だもんな! 安心しろよ。俺が一人にはしねぇから!」


 ソルティの助け舟に安堵し、表情を戻す。

 他の皆には気づかれなかっただろうか。


 黒雷のそれに比べたら遥かに劣る性能であっても、この能力は孤独との戦いだ。

 物事の体感スピードが異なることで、戦争が終わったあとの無為の時間を長く味わっている。

 完成品である黒雷の体感であれば、千年を超えるかも知れない。


「他者を羨むよりも、超えることに頭を使え。これより黒雷対策を伝える」


 そうして、考えられうる対策の全てを語った。

 実戦でどの程度使えるかは未知数ではある。


「えーっと、これだとソルティさん頼りの戦法に見えますけど……先輩! 正気ですか?」

「おう! 頼れ頼れ! って、チーザ! それはどういう意味だ? あ?」


 チーザの意見を皮切りに、様々な戦術が飛び交い、その全てにソルティが噛みつき始めた。

 そこへキャメルが小さく挙手をする。


「ナックさんが立てた作戦だから意味があると思う。あたいにはさっぱり理解できないけど」

「そうだな。俺にもさっぱり理解できないからな」

「ど、どどど、どういうことですか? 先輩!」


 全員の視線が集中する。納得のいく説明を求めているようだ。


「説明しよう」


 語るほどに皆の理解は深まっていき、逆にソルティは不機嫌になっていく。

 語り終える頃には、ブスッとした表情で不満感を隠すことすらしなくなった。


「先輩! この作戦いけますよ!」

「そうか?」

「論理性がないのに、ここまで説得力があるとは……脱帽です、ナックさん」

「僕もこの『ソルティさんが意味不明』作戦を支持します!」


 突如、叩きつける音がモニタールーム内に響き渡る。

 足を机の上に投げだしたソルティ。


「俺はナックにそんなふうに思われていたのか? すげーショックなんだけど?」

「褒めているんだが?」


 皆からも、褒めているとの賛同が相次ぐ。

 でも、ソルティはそのことに本気で少し凹んでいる。

 作戦としては、基本的に自分自身を攻略するならばの観点で詰めた。思考速度タイプの強化兵士として共通する部分が多いのならば、そこに糸口があると思う。


 そうして出した結論がソルティをぶつけること。


 黒雷は思考が早い。尋常ではなく。

 逆を返せば何も考えないことが難しいことも指している。


 戦争でソルティとつるみ始めた頃から常々思っていたことだが、ソルティは勘という不確かなものだけを信じていて言動が理解不能だ。

 磁石コンビと呼ばれて長いが、ソルティの攻撃の組み立てを理解できたことは少ない。


 しかし、なぜかソルティはこちらにあわせてくる。

 これが意味するところは、黒雷から見ても意味不明な行動でありながら、黒雷の動きを先回りできるのではないかという理論。


「お前ら……酷くねぇーか?」


 見るからに肩を落としたソルティが呟いた。


「え! どこか酷かったですか?」

「大丈夫ですよ。ソルティさん、平常運転です」

「フッ……」


 当然だ。賛同者などいる訳がない。

 本気で、「酷いのはお前の普段の言動だ」と言いたいのを堪えた。

 様子をうかがっていたキャメルが不安を吐露する。


「作戦は理解できたけど、あたいらがソルティさんにあわせることが難しいね」

「キャメル、何を言っている? この宇宙でソルティにあわせられるのは、エクリプスのメンバー以外存在しないぞ?」


 そう確信している。このチームだから立てた作戦だ。


「今の皆がいるから立てられた訳で、他のメンバーだったらとっくにボツにしている。リスキーすぎるからな」


 きちんと言葉にして伝えたら、なぜか全員が赤面して言葉を失っている。

 しばらく待っても反応が変わらず、所在がなくて後頭部をかいていた。

 ようやくときを動かすセリフが、ソルティから発せられる。


「ハンッ! そこの鈍感野郎は、無自覚発言を本当に理解できてねーみたいだぜ? お前ら、気合いは入ったか?」


 全員の返事が揃っていたので、気合いが入ったのは確かだ。

 キザなことを言ったつもりはなく、素直な気持ちだったが、今後は注意しようと心に決めた。


「よっし、終わりだな! お前らメシ食いに行くぞ! 奢ってやる!」

「一先ず、焦げている肉以外でお願いします」

「僕、お寿司がいいです」


 切りかえの早い皆は部屋を出ていく。


「お? じゃあローリングスターにいくか!」

「えー、ウチ、回転しないお寿司がいい」


 チームの笑顔が灯ったところで、部屋の明かりを消した。

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i1071624
― 新着の感想 ―
決勝相手のルシファーの注目選手は黒雷!!強化兵士なんですね! 思考速度がめちゃくちゃ早い相手によくわからんソルティをぶつける作戦良すぎる〜〜ww さて、試合はどうなるんでしょう??
わ、次は私の推し、ソルティの意味不明な行動(野生の勘?剝き出しの生存本能)が生きる回ですね。すごく楽しみです。ソルティの言動も行動も素直に兄貴で推せます。ナックの無自覚な褒めとそれに照れる仲間も良いで…
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