表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
競技セブンスカイズ《死神と太陽》 〜7機vs7機! 撃墜を狙い合う人型装甲機兵《モービルギア》たちが翔け抜ける未来への切符〜  作者: 元毛玉
第一部 秘された銀翼を求め灯す炉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

第十話 代理リーダー

「ウチ、やります。でも一つだけ教えて下さい」


 真剣なチーザの眼差しに答えるため、服の皺を直して居住まいを正す。


「先輩がウチの指揮に期待していることは何ですか?」


 求められているものが分からないのだろう。

 見つめてくるコバルトブルーの瞳の中には、怯えに思える色も見え隠れ。それでも期待に応えようとしてくれていた。

 理由は皆も求めているみたいで、モニタールーム中の視線が集まってくる。


「そうだな……イカロスとプロミネンスの試合観戦をした時に気付き、今日のディスカッションで確信を得た。チーザは音響空間を捉える感覚を、極めて高いレベルで備えている」


 そう伝えると、クロワとチーザ本人から言葉の意味を問われ、仕方が無いので軽くテストする流れに。

 チーザだけが壁際を向き、残りのメンバーは無言で席をシャッフル。誰がどこに移動したかをチーザは全て言い当てた。

 やや興奮気味なクロワ。


「チーザさん! 何故分かるのですか!?」


 詰め寄られても、当のチーザは苦笑い。チーザとしては出来て当然で、説明は難しいのかも知れない。

 慌ててソルティが割って入る。


「ハイハイハイハイ、クロワ、ステイだ! 一先ず座れ! チーザはそれを他の奴らからみた感覚でも把握できるって認識で合ってるか?」


 チーザは「はい」とだけ答えていた。キャメルが喜色に満ちた様子で褒める。


「チーザ、凄いね。あたいには無理だから、本当にその凄さが分かるよ」


 まるで年の離れた姉が優しく告げるかに思える声色。声をかけられほんのりと赤面したチーザは、その言葉を大切に噛みしめているようにも見えた。

 日が落ちたのかクーラーの利きが一気に良くなったので、ハーベストが珈琲を淹れて配り、人心地つける。カラカラだった喉が潤っていくのを感じた。

 全員が落ち着いたのを見計らってモニター側へ歩み寄り、映像を出しながらチーザを選んだ理由の続きを話す。


「その能力を有しているからといって、明日までに実戦で活用するのは困難だろう。ここで、自由奔放、奇想天外な発想をするチーザに任せるのは……」


 紫の機体(ルーラー)が大きく映し出されたシーンで一時停止し、皆の方へ向き直ってモニターを掌で叩く。乾いた音がモニタールームに響いたのち、僅かに語気を強めた。


「このムッツリの番人(・・・・・・・)の思考の裏をかくためだ」


 一瞬の間をおいて、ソルティが大口を開けて馬鹿笑いし、それにつられて笑い声が漏れ始める。


「あぁいいぜ! ムッツリの扉をこじ開けてオープンスケベに変えてやろうぜ!」

「先輩でもそういう下ネタ言うんですね」

「ソルティさんは下ネタを減らして欲しいです」


 皆の緊張をほぐそうとして、慣れないことをするものでは無いと痛感する。

 恥ずかしさを小さく咳払い。


「……では、死蝶からゴールを奪う検討を再開するぞ」


 モニターの映像を金色のモービルギアのシーンへ切り替えていく。死蝶という異名のせいで格闘の印象は少ないが、並べてみると意外に多くて被弾も多い。


「この人、自分から殴りに行ってませんか?」

「だろうな」

「蝶という呼び名なのに、ツイスト飛行多くありませんか?」

「モービルギアは蝶では無い」


 さっきからハーベストのぼやきに近い問いに返し続けていたら、「ナックさんが冷たい」と嘆きだした。

 眼鏡を直したクロワが、多少はマシな意見を出し始める。


「被弾の多さは気になります。誘い(ルアー)も兼ねているのでしょう。ここにつけいる隙があるかと」

「良い着眼点だ」


 死蝶は恐らく、試合全体を通してダメージコントロールをしていて、タイムアップまで持つということを前提に被弾覚悟で突っ込むことも多い。全く捕まえられないと追われなくなるので、クロワが述べた通り、撒き餌を兼ねているのもあるのだと思う。

 華麗に躱すシーンと、アグレッシブに自ら殴りにいくシーンを交互にモニターへ出していく。普段は元気一杯のチーザが黙ってモニターを見ているのは新鮮だ。リーダーという立場とその自覚がそうさせたのだとすれば、指名した甲斐がある。


「被弾を割り切っているのもあるが……どうだ? チーザ。インプットは完了したか?」


 チーザは「はい」と短く返し、コバルトブルーの瞳を閉ざし、一人イメージの世界に入った。動きをトレースしているのか、グリップを操縦するかのように手が動いている。

 隣ではキャメルがリードしつつ、ハーベストとクロワの議論も白熱していく。

 時に冷静に、時に激情に。

 活発な意見の応酬が続き、若さゆえのエネルギーを感じる。

 中腰で錆びたパイプ椅子に手を添え皆を眺めていたら、申し訳なさそうなウェハーの声が横から聞こえてきた。


「あのー……盛り上がっているところ悪いんですけど、俺そろそろあがっても?」


 ダークブラウンの短髪を何度もかき、金の瞳に憂いの色も見えるウェハー。


「構わない。遅くまで悪かった」


 先にあがる許可を出すと、事情を知らないハーベストが強い反発を見せる。


「そんな! ナックさんが生き残れるかがかかっている重要なブリーフィングですよ? ちょっと夜に入ったぐらいで……」

「やめろ、ハーベスト。あがれウェハー。事情は俺から説明しておく」


 何度も頭を下げたウェハーが退室しようとしたら、ソルティがウェハーへと駆け寄って肩を組んだ。


「わりぃ! 俺もウェハーと一緒に少し抜けるわ!」

「好きにしろ」


 ソルティとウェハーが連れ立っていくのを見送り、ハーベストへ向き直る。

 ハーベストの表情に、ウェハーへの嫌悪を微かに感じた。


「ハーベスト、いいんだ」

「でも!」


 食い下がろうとしたハーベストの肩をチーザが軽く叩き、ライムグリーン色の頭にはキャメルの手が優しく添えられる。


「ハーちゃんは知らなかったんだし、仕方ないよ」

「ウェハーさんには幼い娘さんがいるんだ。まだちっちゃくて可愛い。それに……」


 その先を言い淀んだキャメルがこちらを見る。だから代わりに言葉を紡いだ。


「ウェハーの妻は元エクリプスのメンバーだ。彼女が亡くなったのと入れ替わりでお前が加入した」

「……僕、知りませんでした。ご病気とかで亡くなったのでしょうか?」


 ハーベストの問いに部屋の空気が重くなる。まるで深海に沈められたかのように暗く、息も苦しい。だが他のメンバーに言わせる訳にはいかない。


「……強化兵士だった。まぁ、俺より先に廃棄が……」

「その言葉遣いだけは改めてください!」


 クロワが眼鏡の奥から涙の筋を覗かせ、鋭い声で遮ってきた。


「強化兵士だって人間です! 物ではありませんよ! 私はナックさんの自虐めいたそれをやめて欲しいのです!」


 まさか泣く程とは思っていなかったので少し戸惑う。

 静かに震える声でキャメルが続く。


「強化兵士の中でそう呼ばれているけど、ナックさんが使うのは嫌」


 気付かない内に皆を傷つけていたのだろうか。ふと、そんな考えが頭を掠めた。

 けれど、涙を吹き飛ばす明るい声がモニタールームに響く。


「皆さん! やめましょう! いつでもポジティブに! ですよ! ウチは暗い過去の話よりも、明るい未来の話がしたいです!」


 ウェハーの妻と仲の良かったチーザが声を張り上げている。

 今のフレーズをチーザ自身が繰り返されていたことを思い出した。


「そうだな。ウェハーの娘の誕生日祝いでも企画するのはどうだ?」


 軽い気持ちで発した言葉。なのに風が吹き抜け、まるで天空へと舞い上がった天使のように、皆の表情が晴れやかなものへ。


「先輩が来年の予定を話すなんて! 絶対にやりましょう!」

「フッ。私にプランニングを一任下さい」

「ナックさん……あたいもナックさんとの未来を見たい」


 拳を突き上げたハーベストが最後に結んだ。


「ナックさん。僕たちが必ず貴方を未来に届けます。信じて下さい!」


 チーザも、キャメルも、高々と拳を突き上げる。やや遅れてクロワも続いた。

 ソルティがよくやる仕草のそれは、拳を太陽に被せて日食を模す行為。


「クロワ、予算は優勝賞金から出す。とびっきりのプランを用意しろ」


 小さく拳を突き上げて、誕生日プランの許可を出した。

 チームの昂ぶりを感じていたところに、廊下の足音が聞こえ出す。

 モニタールームのドアが大きな音と共に開かれ、部屋の空気が肉とソースの香りに包まれていく。


「今、戻った! 差し入れもあるぜ!」


 先ほど席を外したソルティが、大量のハンバーガーと同伴で御帰還だ。


「あー、ま~た、ブッチャーストライク。ウチ、あそこの肉は焦げてて好きじゃないんです!」

「私も同感です。ウェルダンが過ぎて、舌がおかしくなります。店名をブッチャーアウトに改名すべきでしょうね」


 皆から相次ぐ苦情にソルティは「差し入れに文句を言うな」と笑顔で返す。

 味に関しては同意見だが、ソルティが元戦友のあの店以外でハンバーガーを買うことは無い。


「660gのビッグサイズだ。泣いて喜んで感謝しろ!」

「うへぇ、焦げすぎですよー」

「そういうハーベストには2個やろう」


 ハーベストは涙目で首を振り、キャメルも無言でお腹を擦り何やら思案顔。

 奢りの栄養補給に不満は無いが、もう少し焼き加減をソフトに出来ないものか。

 一先ず、最重要事項をソルティに尋ねる。


「ピクルス抜きはあるか?」

「おうよ! ナックスペシャルを店長が用意してくれてるぜ!」


 受け取ったハンバーガーからは手に伝わるズシリとした重み。包みを開ければ強いチーズとガーリックの香りが漂う。目の前に居なくても「ナックさん、好物だろ? 多めにいれといたぜ!」と店主の顔が思い浮かんだ。

 どうにか、胸やけしそうな量を食べ終える。


「もう一度戦局パターンだけさらっておく。さぁ、明日は勝つぞ」

「了解!!」


 英気を養い、明日の空へ羽ばたく。その思いと共に夜は更けていった。



※読み飛ばしても本編に影響はありません。


───用語説明・補足解説:

【ツイスト飛行】

 機体を傾けるロールスラスターを使って、進行方向への急激な軸回転を伴う飛行のことを指す。

 天地逆転するため制御が難しく難易度が高いが、代わりに敵も軌道が予測しにくいというメリットがあり、ロール回転との併用で急旋回も可能とする。


【ライン(縦ライン/横ライン)】

 3機以上で一列に展開して敵キーパーに迫る行為。縦ラインの場合は左右、横ラインの場合は上下のどちらに逃げるのかを問う布陣。

 相手の思考を守勢に回らせることが最大のメリット。但し、攻めに機数を投入している分、守りが甘くなる諸刃の剣であり、不用意に展開すると不利になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特設割烹へのリンクバナー
 

i1071624
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ