なろう小説の粗製乱造の限界と、AI時代における創作の危機
●はじめに:なろう系が生んだ“量”の時代と、その代償
「小説家になろう」のようなウェブ小説サイトの登場で、誰でも小説を発表できる時代になりました。
しかしこの変化は、創作の門戸を大きく開いた一方で、作品の質が下がるという副作用も招いています。
同じようなストーリー構造、似たようなキャラクター設定、テンプレ化した展開……。
こうした作品が量産される背景には、編集者の機能不全や、出版社の短期的な商業優先の姿勢が一因として挙げられます。
そして今、AI技術の進化が、編集者や作家そのものの役割を揺るがしかねない時代が迫っているのです。
この記事では、なろう小説の構造的な問題、編集体制の弱体化、AIの影響、そして人間の作家がこれから生き残るための道を探っていきます。
●問題の構造:テンプレ量産型モデルに依存した創作
なろう小説が人気を集める一方で、多くの作品が定型フォーマットに依存しているのが現状です。
たとえば「異世界転生+チート能力+恋愛展開」といったテンプレは、確かに多くのWEB小説サイトで主流となり、読まれやすい傾向があります。
しかし、その中身はプロットの破綻やキャラクターの薄さ、冗長な文章表現など、作品のクオリティという点で問題を抱えた作品が多い傾向にあります。
出版の現場でも、作品選定は閲覧数やランキングといった数値に頼りがちです。
その結果、きちんとした改稿や推敲が行われないまま書籍化が進み、クオリティの担保がされていない作品が市場にあふれています。
実際、2024年のライトノベル市場は成長の鈍化が見られ、その一因には「どうせなろう小説だからつまらない」といった読者の信頼離れがあると考えられます。
短期的な利益を優先する今のPV至上主義的なやり方では、市場の持続可能性を脅かしていると言えるのです。
●編集者の退化と「不要論」が生まれる理由
編集者とは本来、作家と一緒に作品を磨き上げる大切なパートナーです。
物語の構成をより緻密にしたり、文章の表現をもっと適切に変更するなど、「文章のプロ」として作家にアドバイスする役割を担っていました。
ところが、なろう小説においてはその役割が著しく低下しているのです。
作品の良し悪しを判断する基準が、もっぱら「PV」や「ランキング」になっているため、物語の構造や文体の問題に本格的に向き合うことがほとんどありません。
このような状況では、編集者は「作品を磨く専門家」ではなく、ただの“売れ線の選別係”にすぎなくなってしまいます。
結果として、編集者自身のスキルも伸びず、業界全体の専門性が後退する事態になりかねないのです。
この現実が「編集者って、もういらないんじゃないの?」という巷で囁かれる**“編集者不要論”**につながっています。
ただしこれは、編集という職業そのものを否定しているのではなく、本来の機能を果たしていない現状への批判だという点を留意すべきです。
編集者とは「文章のプロ」として、世に送る小説のクオリティを担保するのが仕事です。ですが現代においてはその責務を放棄しているとしか思えないほど、低品質な作品が市場を席巻しているのです。
●AIの台頭:作家と編集者にとっての脅威
ここに追い打ちをかけるように、AI技術が急速に進化している現状があります。
いまのAIは、誤字脱字のチェックはもちろん、プロット生成やテンプレート的な小説の作成もこなせるようになりました。
特に、なろう系のような定型的な物語は、AIが得意とする領域です。
出版社がこのまま「コスト重視・スピード重視」の量産体制を変えないのだとしたら、AIによる執筆や編集がますます主流になる可能性が高いでしょう。
つまり、人間の編集者や、テンプレ構造に頼りがちな作家はAIに取って代わられる可能性が高いということです。
もちろん、AIにはまだ革新性や深い感情表現といった部分で限界があります。そうした領域は、今後も人間の得意ジャンルとして生き残るでしょう。
ですが、量産型の作品がAIによってますます市場を埋め尽くすような事態になれば、読者の失望はより深まり、創作そのものの価値が薄れてしまうリスクがあります。
編集者も育たず、作家もテンプレ作品に頼り切り。人間らしい奥行きのある小説は生まれず、読者も低品質な作品しか期待できない。そんな状況下でAIが台頭すれば、もはや人間自身が創作する価値は失われてしまいかねないのです。
●解決策:構造改革と人間らしい創作の再定義
こうした危機を乗り越えるために、以下の4つの対策が必要だと考えます。
① 編集体制の見直し
出版社は商業至上主義から一歩引き、編集者が“作品の中身”に向き合える環境を整えるべきです。
編集者の本来の役割は、データを選別することではなく、物語に深みと洗練を与えることです。
② 作家の姿勢転換
作家はテンプレから脱却し、自分にしか書けないテーマや体験を作品に反映する必要があります。
自己の心に深く根差した作品は、他者の心にも深く浸透し、結果「心に残る」名作として長く愛されることができます。
そうしたオリジナリティある作品は、定型的な作品しか生成できないAIとの最も大きな差別化ができます。
③ AIの正しい活用
AIを敵と捉えるのではなく、効率化のツールとして活用するべきです。
校正やアイデア出しなど、AIが得意な部分は任せ、最終的な判断と表現は人間自身が担います。このようなハイブリッドな創作が、将来的に最も有望となるでしょう。
④ 読者の意識改革
低品質な作品が淘汰され、本当に良い作品が評価される風土を作ることが、持続可能な創作市場につながります。
昨今の娯楽で溢れた世の中で瞬間的な快楽だけを求めるなら、小説である必要性はありません。
例え物語の面白さを理解するのに時間がかかったとしても、記憶に残るような持続性のある満足感を得られるなら、小説はこれからも独自の価値を築くことができるしょう。
●おわりに:創作の未来は、作家のオリジナリティに懸かっている
なろう小説の量産型モデルは、編集者の機能不全とAIの台頭によって、いままさに限界を迎えています。
テンプレに依存するだけの作家や、数字だけを追う編集者は、今後ますます生き残るのが難しくなるでしょう。
それでも、人間の作家と編集者には、独自性や感情の深さ、そして創造の価値の発見という、AIには再現できない強みが残されています。
筆者自身も、今のビジネス形態がいずれ崩壊を迎えると予期しながらも、AIを活用しつつ、自分だけの創作を続けています。
こうしたオリジナリティを追求する姿勢が、将来訪れるであろう“AI創作全盛期”においても“生き残る創作”の鍵になると確信しております。
創作の未来を守るためには、業界の姿勢転換と、作り手・読み手の意識改革が必要です。
本当に小説を志す人たちが真剣に物語に向き合えば、きっとAI時代においても創作の火は絶やされることはないでしょう。