第57話
「いや意味がわからない。それをファビアにさせる気なのか? それとも自分でする気なのか? だいたい脅して成した事で認めてもらえると思っているのがおかしい」
我に返ったレオンス様が、額に手をあて眉間に皺を寄せ言う。
わかるわ。その気持ち。
「倒せなくて封印した魔物をちょこっと魔法を学んだだけで倒せるわけないじゃない。とりあえず、まずはマルシアール殿下と仲良くなれと言うのでそうするわ」
「は? そんなのしなくていい! また面倒な事になるだろうに」
「でも、録音が……」
「全属性うんぬんなんて、盛って話した事にすればいい」
なるほど。それもそうね。それで誤魔化せるわね。
「でも彼のお陰でガムン公爵が大人しくなるかもな」
「大人しく?」
「陛下の前でノーモノミヤ公爵がルイスが録音したものだとして、俺達が言い合いした場面を聞かせたんだ。その時、ガムン公爵は動じていなかった。つまり知っていたんだ。それはなぜか。ルイスに脅されていたからだろう」
「すご。ガムン公爵まで脅すなんて」
なるほど。ガムン公爵に私を解放するように言ったのね。
その上で、陛下達に聞かせたと。
「彼は、子供っぽい考えをしているとはいえ、存外頭がいいのかもな」
「え? そう? 今回は本当に謹慎ですんだみたいだけど、下手したらそれでは済まなかったと思うわよ」
「だろうな。ガムン公爵が彼のお陰で真実がわかったから処罰を軽くするように言ったんだ」
「そうなの? 助けたんだ」
「いや、もし録音したのを回収されれば、自分の企みが表に出るからだろう。それに、陛下の前で聞かせた事により、迂闊に手を出せない様にした」
「………」
それが本当に計画だったなら確かに頭がいいわね。
もしかして、魔物を倒すというのも闇雲に言っているのではないのかも。
私より、闇魔法の魔法陣の事を知っているし、魔物の事も色々調べた結果なのかもしれないわ。
でも、私を脅したのだから一人では無理なのよね。
レオンス様ではなくて、私を選んだ理由はなんだろう。
「何を考えている?」
「え? ひゃ」
いつの間にか、レオンス様の顔が目の前にあった。
ち、近いです。
「いやレオンス様ではなくて、私を選んだ理由は何かなって。同じ魔法博士なのに。彼、レオンス様には興味ないって言ったのよ」
「へえ。そうなんだ」
なんでそんなジト目なのよ。言ったのはルイス様よ。
「君が全種類の魔法を扱えるとわかったからだろう。あいつは、俺が魔法を使ったのを見たわけではなからな。聞いただろうけど、ちょっと出来るぐらいだと思ったのだろうな。君は、ベビット殿下に扱えると暴露した。それを聞いた彼は、君が全種類使えると知り協力させようとした」
「マジで私に魔物退治をさせる気だったの? それでどうやって認めてもらうつもりだったのかしら」
「さあな。そもそも魔法を使えるのか、ルイスは」
そうよね。使えないわ。きっと。
「貰った闇魔法の書物は、教科書ではなく魔法陣の辞書みたいな感じなの。だから魔法は使えないと思うわ。私も闇魔法は、呪文がわからないから使えないもの」
「それには、書かれていないのか」
「魔法陣のみ」
「なるほど。研究室ではその研究をしていたわけか」
っは!
しまったぁ。闇魔法を使えるようになってぎゃふんと言わせる作戦が……。
ルイス様のせいだからね!
「今度は何を考えてしょげてるんだか」
「べ、べつに」
こうなったらルイス様から、闇魔法の魔法陣の事を色々聞き出してやるわ!
「そうだ。あの場にフロール嬢もいた。たぶん、親子だと言う事は、フロール嬢に知らせてあるのだろう。その上で、協力させていた」
「え? どうして彼女がいるのよ」
私すら出廷してないのに。
「彼女がガムン公爵に報告した事になっていた。まあ陛下達も二人の関係を知っているのだろうな」
そっか。本当の父親だからガムン公爵にフロール嬢が接触してもおかしくないと言う訳ね。
それにしてもルイス様がガムン公爵を脅していなかったら私達ヤバかったかもね。
「まあガムン公爵は、大人しくなるだろうけど、彼女はどうかわからないからな。気を付けれよ」
「そうね。彼女がアマート様をどうやって後継ぎにする気なのか。その為に何をしようとしているのかがわかればなぁ」
「いや、今回の事で思ったのだけど、アマートを攻略しようと思っていたがそれが無理になった。その原因が俺にあるから、復讐をしようとしているのではないかと思う」
「復習!? でもわざとはないのよ」
「だとしても、計画を邪魔されて許せないのだろう。だから攻略者の弱みを使って、俺達に復讐しようと試みた。まあ失敗したみたいだけどな」
「うん? ガムン公爵に指示されてってさっき言わなかった? それにベビット殿下が言っていたわよ。ガムン公爵に協力を仰いだって」
「そこだよ。ベビット殿下から言わせる。誘導したんだとしたら?」
そんな事が可能なの?
攻略者の事を知らない私達には、防ぎようがないじゃない。
「うーん。録音を俺達も手に入れたいな」
「いや無理でしょう」
「録音したのをコピーしている。出来ない事はないと思うけど、どちらにしてもルイスの隙をつくしかないな」
「いや無理でしょう……知らない文字も多かったし」
「そうか。君は、それを見たのか!」
うん? それって? あ、そっか。レオンス様は、盗聴器自体は見ていないのよね。
何か思いついたみたいね。悪い顔しているわ。
「謹慎中にあいつの事を調べておくよ」
それ謹慎しているって言わないと思う。
まあ、ルイス様の事が何かわかれば、彼については対策が出来るかもしれないものね。
「うん。お願いね」
レオンス様は、にこやかに帰って行った。




