第54話
これどっちに転んでもダメじゃない?
いう事を聞くと言えば、魔物退治をしなくてはいけない。
聞かないと言えば、全属性出来ると暴露されて、きっと彼は魔物退治をほのめかす。そして、王命で魔物退治。
うん。それなら条件を飲んで何とかやり過ごそう。
「私に出来るかどうかわからないけど、協力はするわ。でも私、あなたに嫌われていると思っていたわ」
「あぁ、気に入らない。君達のお陰で僕は大変辱められた」
「え……」
私、この人に何かしたっけ?
「優良クラスの最下位は僕だ。お陰で頭を下げて優良クラスに入れてもらう事になった。そうそう本当は君がトップだよ」
それは逆恨みと言うのでは……。うん? トップ? まさかイルデフォンソ殿下より順位が上だったって事!?
あぁ、なるほど。だから二人共あんな態度だったのね。
「もしかして、本当の2位はフロール嬢」
「そう言う事」
なるほど。イルデフォンソ殿下の攻略は、この絡みだろうか。
ちょっと待てよ。王族が三人もいるし、彼はパッとしないから攻略者ではないと思っていたけど、王弟の息子でこれだけ闇があれば、攻略対象者よね。きっと。
気を付けないと、足元をすくわれるわね。って、今その状況か!?
「そうそう。彼の事は任せて」
彼ってレオンス様の事。
そう言えば、この録音って応接室よね。マジか。王族が休憩する部屋に仕掛けたってありえる?
これでお咎めなしとかになるの? 王弟の息子だから?
「罰せられないの? この録音聞かせれば、応接室にしかけたのがバレるわよ」
「心配いらないよ。謹慎ぐらいで済む予定だから。この件は表にでない」
「にしたって……」
一体何のためにしかけていたのかしら。
そう言えば、その隣は生徒会室よね。そこにも仕掛けてある?
そこで、レオンス様とフロール嬢は、密談したのよね?
「し、仕掛けたのってそこだけ? 隣の生徒会室とかにはしかけてないの?」
「ないよ。僕は入れないからね。何? 知りたい事でもあるの?」
「いえ、アリマセン」
とりあえずよかった。
まあ聞いていたら、私など脅してないか。
間接的にタカビーダ侯爵家に脅すほどの秘密があるという会話を聞いたはずだから。
まあ意味不明な会話も聞く事になっただろうけど。
「ではまずは、マルシアール殿下に近づいてもらうよ」
「え……近づくって何をすればいいのよ」
「国に遊びに行きたいがいいかな」
もしかして、倒しに行けとおっしゃる!?
「えーと。急にそんな事を言ったら怪しまれるのでは?」
「当たり前だろう。それぐらい仲良くなっておけと言う事だよ」
無理難題をおっしゃる。
今までクラスメイトという以外の接点がなかったのに、どうやって仲良くなれというのよ。
下手に近づけば、フロール嬢が仕掛けた罠に掛かるかもしれないじゃない。
というか、これフロール嬢が仕掛けている罠って事はないわよね。
あぁもう、せめて攻略対象者がわかれば何とか……ならないか。
――◇――◆――◇――
『――一番欲しいのは、今君が抱きしめている彼女なんだけど?』
『諦めろ。ファビアは渡さない!』
何これ、録音?
レオンスがベビット殿下に殴りかかったと、ガムン公爵が彼を捕らえて来た。
本来は、ファビアがベビット殿下を誘惑し、そこにレオンスが乗り込んだ。つまり、美人局よ。
それを知った私が、止めに入った。
そういう段取りで捕らえに行ったはずなのに、なぜか彼一人だけ捉えて来たという。
まあ証拠もないし、謹慎処分にでもなればいいと思ったけど、そこに王弟であるノーモノミヤ公爵が乗り込んで来た。
『残念だけどそれは無理。僕が魔法を手に入れるのには、彼女と結婚するしかないんだ』
『ファビアは、連れて行かせない』
『違うよ。私が彼女のモノになるんだ。彼女が魔法博士でよかったよ。大人として扱われて、今すぐにでも婚姻出来る。私は、来年には国に戻り、候補者の中から婚約者を決め翌年には結婚。このまま帰ればそうなる!』
『だから? 無理やり事におよび、結婚してこの国に残るって言うのか――』
ぶつりと音声が切れた。どうしてこんなものが……。
「ノーモノミヤ公。これは、この者達が会話した内容が録音された物であっているか?」
「はい。愚息が仕掛けた盗聴器なるもので録音したものです」
盗聴器! そうだったわ。
ルイスは、自分の野望の為に応接室に盗聴器を仕掛け、王族達の弱みを握ろうとした。
今回の出来事は、ゲームでは発生しないからすっかり失念していたわ。
ゲームでは、彼の行為を知った私が諭し止めるのよね。
色んな魔法陣いえ、魔法アイテムを作成していた功績を認めさせ、彼は晴れて魔法学園へ入学を果たす。
そして、ルイスは彼と共に魔物を倒し、祈願を達成。
婚約者の令嬢とは、貴族学園を辞め魔法学園に行った為に婚約破棄になる。
プロポーズされた私は、彼と結婚。
あぁ。これも流れたか。まあどちらにしても、彼には出会えないから魔物は倒せないでしょうけどね。
「確かに最初の方でレオンスがベビット殿下に襲い掛かった様な音は聞こえたが……」
陛下は困惑しているわね。
「フロール嬢から彼が突然教室を出て行き、探し出したベビット殿下に殴りかかったと聞き、とりあえずは捕らえておきましたがどう致しましょうか」
ガムン公爵がそう陛下に問う。
話が違うと言う顔でベビット殿下がガムン公爵を見るが、ガムン公爵は素知らぬ顔。
王族とは言え、証拠があるのだからレオンスだけを捕らえるわけにもいかないでしょうね。
「うむ。フロール嬢。この音声の通りだったかね」
「はい。今落ち着いて確認をしてみると、レオンス様に非はなかったかと」
「な!」
「お前の味方はここにはいない」
ボソッとレオンスが聞き取れるかどうかの声で呟くのが聞こえた。
ベビット殿下が俯き、口を紡ぐ。彼の分が悪いのだから仕方がないわよね。
こうして、ベビット殿下は強制帰国。ルイスとレオンスは一週間の謹慎。
はぁ。もうゲームでの流れはないわね。
――◇――◆――◇―― フロール




