第30話
私は今、大変困っている。クラスメイトのネメシオ様が、執拗にデートに誘って来て、やんわりと断っていたけど、今日は引く気がないようだ。
その原因は、他のクラスメイトの煽り。
「俺、伯爵令嬢と婚約した」
「私も。あぁこれで気が楽だ」
「ふふふ。俺は驚くなかれ、侯爵家の四女とだ」
「マジか」
「内緒だぞ。って、お前は? コルナッチ」
「え……」
婚約者などいないと知っていて、彼らはネメシオ様に話を振った。少し困惑気味のネメシオ様は、チラッと私を見る。私は、サッと目を逸らした。
2年次になってから彼は、一緒にどこか行かないかとか、買い物に付き合ってほしいとか言って、声を掛けて来ていたのだけど、もちろん断っていた。忙しいと。
嘘ではなく、そんな暇なかったからね。
私は、ずっと勘違いをしていた。魔法博士になる貴族は、独身貴族を目指していたわけではなかったのだ。
侯爵夫人になる為の教育に、経済学もあった。それは、子爵家では習っていない内容だった。
平民には、税金か科せられない。そして領地を持たない貴族もだ。
領地を持つ伯爵家以上が、領地の大きさによって最低額が決まっていて、国に治めている。あれだ、年貢よ。
領地を持つ貴族達の収入源は、そこに暮らす者達からの賃貸と、店の利益。領地で経営するのは、傍系達が主になる。
つまり、本家は傍系達を雇い給料を払って、売り上げの何割かを国に治めていた。あれよ、所得税ってやつ。
さて、魔法博士も一応貴族扱いになる。土地を持たない彼らは税を支払う義務はない。しかも、お給料は国から支給される。
つまりは、働けば働くほど儲かる仕事で、本家に搾取される事もない。
私が驚いたのは、ここからよ。暗黙のルールが存在していたのよ。魔法博士が婚姻した場合、分家としてその貴族を名乗る事が出来る。
自分の親と同等になれるって事よ。一代限りとはいえ、権力が手に入る。
そういうわけでネメシオ様は、結婚相手を探しているわけ。
クラスメイトに煽られ、引けに引けなくなったみたいね。
彼らの前で、私にポロポーズ……。
もちろんネメシオ様が、私に好意など持っているわけがない。まだ私は、12歳のガキンチョだ。しかも、平凡の顔つき。胸も残念ながら……。
これ前世なら引くわ~ってくらいの行為よ。高校生が小学生に、お付き合いして下さいって言っているようなものだもの。
権力的には、子爵家同士で対等だとはいえ、ここでズバッと断る事は忍びない。
それに彼は、私に婚約者がいる事を知らないから、してきた行為でもある。
困った……。
「いいんじゃない? お似合いだよ」
「そうそう。このままだとブレスチャ嬢も結婚できないよ。チャンスじゃん」
全く酷い事を言う。
まあ彼らがそう言うのもわかる。普通は、魔法学園を卒業後に貴族学園には通わない。となると、出会いがないのだ。
だから、魔法学園に通う生徒は、学園にいる間に伝手で相手を探す。それで見つからなければ、結婚は遠のく。
お金は手に入るが、権力は男爵家と同等になる。それが嫌なら、卒業前に婚約者を探さないといけない。
この際、私でいいって事だろう。
この国では婚姻は基本、15歳以上から出来る。ただし、爵位を持つ者は大人とみなされ、15歳以下でも可能だ。
魔法博士になれば爵位を持つ事になるので、15歳未満の私も卒業後すぐに婚姻が可能となる。
でもレオンス様との婚約の件がなかったとしても、受けるのには、私にメリットがないのよね。
そもそも私は、結婚したくないから魔法博士を目指したのだし、ネメシオ様と婚姻しても子爵家のままだし。
かわいそうだけど、お断りしましょう。
「申し訳ありませんが、お世話になっているココドーネ侯爵家が、私の結婚相手を探して下さっておりますので……」
全くの嘘ではない。リサおばあ様の協力のもと、私はレオンス様と婚約をしたのだから。まあ探している最中ではなく、すでに決まっているのだけどね。
「でしたら、その方に僕を紹介してください!」
「は!?」
「マジか~。そこまでするか」
あなた達が煽ったからでしょう。
「会わせてやれば?」
「お願いします。それで断られたらきっぱり諦めますから」
「わ、わかりました」
ここでスパッと断ったら、彼らがネメシオ様をもっと煽りそうだ。
ごめんね。少しは期待していると思うけど、これリサおばあ様に断って頂く為に、了解しただけだから。
「ありがとう」
「う、うん……」
はぁ。やっぱり貴族ってめんどくさい。




