第23話
「おめでとう、ファビア」
「ありがとうございます」
エメリック様がニコニコしてお祝いの言葉をくれる。
レオンス様がお祝いしてくれる前に、ココドーネ侯爵家で学年末テスト合格祝いをしてくれた。
まさか、こんな事でお祝いをしてくれるなんて。私って、そんなに頭が悪そうに見えていたのだろうか。
「聞いたよ。2割ぐらいが2年次に行けないぐらいの凄いテストなんだってね。それを突破するなんて凄いよ」
エメリック様がパチパチと拍手を送ってくれた。
どうやらレオンス様に聞いたらしい。
まあ最終的に半分しか魔法博士になれないと言ったし、それで次の学年に行けるだけでお祝いしてくれたのね。
前世でこれやられたら、逆に凹む行為だけどね。
「それで、どんな内容の……」
「エメリック。まずは食べますよ」
侯爵夫人が、冷めた目で自分の息子のエメリックを見て言った。
「はーい……」
「では、頂こうか」
リサおばあ様がそう言うと、皆が食事に手を伸ばす。
今日はいつもに増して、御馳走だ。しかも、食後にデザートとしてケーキがあるのよね!
「いただきます!」
「たまに言っているそれ、学園で流行ってるの?」
つい、言ってしまった。癖って恐ろしい。前世の癖だけどね。
私は、エメリック様の言葉にそういう事にして、頷いておく。
「それで、試験てどんなの?」
ランランとした瞳を向け答えを待つエメリック様の為に、もぐもぐと口の中に入れた美味しいお肉をごくんと飲み込んだ。
「全然華やかではありませんよ。たぶんそんなつまらない試験だったのって思うと思います。魔法を出して一時間持ちこたえるです」
「……そんな事が可能なのか」
意外だったのか、侯爵が聞いてきた。
そういえば、ここに来てから初めて声を聞いたような気がする。
「あ、はい。それができなければ不合格なので」
「それって凄い事なの? いや、テストになるぐらいだから凄い事なんだろうけど」
「そうですね。最初は、10分もできません。魔力が足りないというよりも、魔力を出し続けるのに疲れるというか、飽きると言うか……」
「へえ」
「しかし、それでは全員行うのには、かなりの時間を要するのではないかい? 全員いっぺんにするのかい?」
リサおばあ様が、一口お酒を飲み聞いてきた。珍しくお酒をお召しになっている。赤ワインだ。いいなぁ。飲みたいなぁ。将来の夢に加えよう。
「はい。テストは同時に10名で行いました」
「凄いね。10名が目の前で魔法を出しているところを見てみたかったよ」
うん? そういう発想はなかったわ。魔法学園に行った時は、魔法よ! って喜んでいたけど、周りが普通に扱う様になると、当たり前になってしまって感動がなくなっていたわ。
思い出させてくれてありがとう、エメリック様。
「確かに凄い光景でしたわ。ただ迫力はありませんけど」
「ファビアは何を出したの?」
「えーと、水かな?」
2ついっぺんにって事は黙っておこう。
「レオンスとはやっぱり違うんだ」
「レオンス様って何属性持ちなのですか」
「光属性かな。あと、火属性も扱えるはず。凄いよね」
「う、うん」
エメリック様が、レオンス様に心酔しているように、遠くを見つめうっとりとして言った。その彼が、私を絶賛したなど言わない方がよさそうね。
……ってそんな事、ケーキの前ではどうでもよくなってしまった。
なんてことでしょう。今日は、チョコレートたっぷりのケーキではありませんか!
「いただきま~す!」
パクリと食べれば、チョコレートの甘さが口の中に広がり、甘い香りが鼻を抜けて行く。あぁ、至福の時。
「幸せそうに食べる事」
リサおばあ様が、私にほほ笑んで言った。
そりゃもう、幸せですからね。
◇
「ケーキが私を呼んでいる~」
「大袈裟だね。家でも食べているじゃないか」
「見た事がないものが出るかもしれない!」
約束通りレオンス様にご招待され、エメリック様と一緒にタカビーダ侯爵家へ向かっている最中の会話です。
もちろんエメリック様と二人っきりで馬車に乗っているのではありません。そんな事をココドーネ侯爵夫人が許すわけもない。
って、私の侍女ローレットとエメリック様の専属執事ナンドがそれぞれの隣に座っているだけ。
「あ、あれがレオンスの屋敷だよ」
「わぁ」
ココドーネ侯爵家の屋敷も凄かったけど、タカビーダ侯爵家も負けてないわね。大きなお屋敷がデーンと建っている。
馬車は、タカビーダ侯爵家の敷地内に入りバラのアーチを通って玄関へ。
凄いわ。屋敷に入らなくてもいいからここを見に来たい。
「うちもバラのアーチを作ればいいのにね。お母様は、自分が鑑賞する為に育てているからって言うんだ」
「うん。まあ。いいんじゃない」
下手すると私の様な人が見学に来るかもしれないものね。
って、いないか。
「降りるよ」
到着すると、先にエメリック様が降りた。
「どうぞ」
乗る時にエメリック様が手を差し伸べてくれたのよね。
あの時ほど、貴族令嬢になった気分はなかったわ。お父様は、継母に手を差し伸べるだけだものね。
出された手に手を乗せようとして、ハッとする。
手を出していたのは、レオンス様だったからだ。
「あ、ありがとうございます」
「いらっしゃい」
あの王子様スマイルで出迎えてくれたのだった。




